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映画『愛なのに』感想

予告編
 ↓

R-15+指定


 今泉力哉監督城定秀夫監督が、お互いに脚本を提供し合い、それぞれが監督を務め、R-15+指定の恋愛映画を二本制作する企画『L/R15』の一本目である本作。

本作は
 監督:城定秀夫
 脚本:今泉力哉

です。

公開した当初、およそ一年前の感想文なので、同企画の二本目である映画『猫は逃げた』はまだ観ていない前提の感想文になっていますが、何卒ご容赦を……💦


映画『猫は逃げた』感想文はこちらから


愛とは


 当然、R指定作品なので、それ相応の理由があるわけで。本作で言えば、いわゆる濡れ場シーンがあるわけなんだけども、「そういうのが苦手」という理由だけで本作を敬遠するのは非常に勿体ない。心と心を通わせ合うような純愛映画の中には、その美しさを汚さないために、或いは作品を性的な視点で消費させないために濡れ場などが排除されていることもあるけれど、大人の恋愛は綺麗事だけでは片付けられない。気持ちだけでは整理が付かない性事情を見事にコメディに落とし込んだ映画。下世話なだけ、卑猥なだけじゃない。小さな劇場だったけど、劇場中がウケていた。男女を問わず、幾度も笑いの波が起きる。登場人物に共感したり、はたまた自身の事情と重ね合わせて悲しくなったり、逆に心苦しくなったり……。観る人によって様々な〈わかりみ〉がある。

使い方を間違えるとアンタッチャブルなテーマになりかねない素材なのにも関わらず、ここまでウケるのかと思わされました。エロスをそのまんま描くのではなく、あくまでもユーモアとして描いている、って感じかな?



 とはいえ、本作のメインとなる男女二人は、性的な関係にはならない。三十路を迎えた古本屋の店主・多田(瀬戸康史)に、その古本屋の常連客である女子高生・岬(河合優実)がラブレターで結婚を申し込むところから物語が始まる本作は、中盤、岬の同級生で彼女に想いを寄せる正雄(丈太郎)が現れたりして、どこか青臭い展開になることもある。

しかし一方では、(後々になって話は繋がってくるけど)別のとある夫婦の不倫事情が描かれる。不倫といっても、いわゆる後腐れのない関係というやつだ。この “セックスの無い愛”“愛の無いセックス” という対比も面白さの要因の一つなんじゃないかな?  ここで述べる面白さってのは勿論、前述のコメディ的な要素だけを指している訳ではありません。



 本作は人物描写も面白い。多田は古本屋で働いているし、店番をしている間も読書をしているほど本が好きな男。そんな彼は、自宅で過ごしている時も本を読む。けれどなかなか読み終わらないし、すぐに栞を挟み、読書をやめてしまってばかりいた。実は彼の自宅には、そこそこの数のDVDも並べられていたから、映画やドラマもそれなりに好きなのだろうと想像がつくんだけど、劇中、彼がDVDを観ることは一度も無かった。DVDではなく、“いつでも途中でやめられる” 読書を選んでいた。自分の人生に突如訪れた、女子高生からの求婚という異常事態や、引きずっている過去の恋愛のこと等々。解決の方法が見出せない事柄で頭の中がいっぱいになって集中できないでいる多田の心理状態を表しているかのようにも見受けられる。

普段から声も小さめでモゴモゴ喋るタイプの多田の心情を、 セリフや表情以外の部分で読み取ろうとしたから、こんなことを考えてしまったのかもしれません。まぁそんなモゴモゴ喋る男だからこそ、終盤に訪れる、声を張り上げる瞬間がより良く見える。


 小道具のことでいうと、いつになっても片付かない段ボールの存在によって、家庭のことが滞っていることがよくわかるし、それが夫婦の内面ともリンクしていたのも面白い。また、妻を怒らせてしまった夫が、殊勝な面持ちをアピールする様子を、より一層マヌケに見せてくれるカップ焼きそばと缶ビールも良かった。



 終盤、ある人物の登場によって物語の雰囲気が一変する。ちょっと強引に映るかもしれないけど、個人的には良かったと思う。突如現れたその人物の見解は、聴けば聴くほど当人のヤバめな人格が見えてきて、観ていてとても気分が悪くなる。しかし残念ながら、そのヤバさの暴走を止められないのは、多田の説明不足というか口下手なところも多分にあるんだけども、それまでの二人の物語という文脈を知らずに “三十過ぎの男と女子高生の恋愛” という客観的事実だけを見れば、割と普通の見解にも見える……。なしくずし的に動いてきた物語をビシッと引き締めつつ、テンポを崩さないための強引さだったのかなと。それまでのコメディ部分のおかげで、その人物のヤバさも不自然に感じないしね。


 古本屋の常連のご老人、公園で見かける親子など、うっかり背景だと思っていた人達まで抜け目なく面白い。まぁでも一番は中島歩さん演じる夫・亮介かな。もぉ素晴らしい……いや、最低な浮気男ではあるんだけど、その最低ぶりが素晴らしくて面白い。かったるい喋り方も、「なんだそれ?」と言いたくなる屁理屈で開き直る姿も最高。これは二本目の『猫は逃げた』も楽しみだ。


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