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映画『エレファント・マン』感想

予告編
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 3年ほど前に、新宿ピカデリーにて4K修復版としてリバイバル上映されていた際に書いた感想文ですー。よければ読んでくださいー。


性善と性悪


 新宿ピカデリーにて鑑賞。狙って観に行ったわけじゃないんですけども、「次の予定まで時間あるし……近場で何か上映してないかな~」と思って探してたら見つけたんです。時間も丁度良かったしね。4K修復版としてまさかのリバイバル上映だなんて露知らず。はて、一体いつ頃から上映が始まっていたのやら。


 ストーリーは割とはっきり覚えていましたけど、細かな部分までは覚えていなかった本作……というか以前に観た時は、そういったところまで意識して観ていなかったので、今回はとても新鮮な気持ちで楽しむことができました。



 奇形で生まれてきたジョン・メリック(ジョン・ハート)こと、通称『エレファント・マン』は、その醜悪な外見のせいで見世物小屋に立たされていました。

 「自分とは違う」という感覚は、「自分と同じ」という感情を共有する者同士が集まる環境にばかり居座るほど、色濃くなる。「自分は周囲と同じである」という感覚を、ある種の免罪符——自分は間違っていない=自分は正しい——のように履き違え、そんな自分自身とは違う存在、或いはそんな自分自身にとって未知の存在が現れた時、それ即ち “正しくない存在” だと捉えてしまう……。

 その存在が惨めで過酷な状況に追い込まれれば追い込まれるほど、自身がそうならないために、そして「自分はこいつとは違う」と主張するかの如く、跳ね除け、追い出し、無慈悲な人間になっていく。見世物小屋は、人間の差別感情を如実に表してくれる凄まじいツール。それがエンターテイメントとして成立してしまっているほどに恐ろしい。……そんな冒頭シーンから本作は始まります。



 過酷な人生を歩んできたジョンが序盤、上手にコミュニケーションを取ることができない素振りを見せ、あたかも白痴気味だと思わせる姿は切ない。その時点ではその場に居た人物も、劇場の観客も漏れなくそう思わされていたことでしょう。だからこそ、彼が白痴のフリをしていたと知った時、その理由に気付いた瞬間が胸に刺さる。痛みから逃れるために、他の痛みを選択する、心を殺す……。物語が始まって最初のドラマチックな部分。


 本作は、「世の中には悪い人がいっぱい居る。でも心優しい良い人も居るんだよ」、或いは真逆で「世の中には良い人がいっぱい居る。でも本当に下劣で悪い人も居るんだよ」という、 “性善説と性悪説が入れ違いに描かれていく展開” が、個人的にとても面白いと思います。何よりこの二つのメッセージが、前後をひっくり返しただけで言っていることの中身自体が一緒というのもミソなんじゃないかな。自分の中の性悪を疑う善人、自分の中の性悪に気付かない悪人等々、人間の心の色んな側面を行ったり来たりするから、どこか本作からは、人らしさを問うような雰囲気を感じずにはいられません。まぁ結局、人間にはどちらもあるんでしょうけどね。



 舞台は19世紀のロンドン。主人公であるジョン・メリックことエレファント・マンは、実在した人物がモデルとなっています。そこから100年以上経った頃に映画化され、そして今、2020年になって改めて劇場公開された本作……。

「この映画が公開された80年代から何も変わっていないんじゃないか」とか思いましたけど、もしかしたらその当時も「100年前から何も変わっていないんじゃないか」と考えていた人が居たかもしれないですよね。

 なかなか人類は変わらない。でも、今少しずつ変わり始めている気もする。そんな今だからこそリバイバル上映された、なんてのは考え過ぎなのかな?


 終盤になって、布を被って顔を隠すジョンを、町の子供たちが見つけ追い回す。その後、騒ぎを聞きつけた大人たちが彼を取り囲む。好奇心(子供)→好奇の目(大人)に変わっていく流れは非常に印象的。そこから追い詰められ、トイレの端まで追いやられ、まるで檻格子のようなシャッター越しのカットは、堕ちていくことと逃げられないことをテンポ良く映し出していて、絶望感を見事に視覚化していたように思います。

 そこで今まで辛いことから逃げるために言葉を発さずに生きてきた彼が、言葉を発することを選ぶ、しかもそれが「僕は人間だ」という当然の事実。一度は人並みの安寧を手にしたけれど、化け物扱いする奴らに襲われてしまった彼が振り絞るその言葉は、どこか彼自身の心から願いのようにも聞こえてくる切ないシーン。


 ラストシーンについてですが……、僕はハッピーエンドだと思っています。上記の事件の後、再会したトリーヴス(ハンナ・ゴードン)が彼を抱きしめる。本作で初めて描かれた抱擁。人の温もりを知った彼が、最期の最後に “人と同じように” ベッドに入る姿は、今まで周囲から好奇の目で見られながら生きてきて、口でこそ「僕は人間だ」と言いながらも自分自身を卑下してきた彼が、自分を人間だと心から信じられた瞬間に見える。そこから大聖堂へと流れるカメラワー クも素敵。手放しでハッピーエンドと言うと語弊があるかもしれませんけど、本作は普遍的なテーマを描いた名作なのだと改めて思わされました。


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