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映画『キーパー ある兵士の奇跡』感想

予告編
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 イギリスの国民的英雄となった元ナチス兵のサッカー選手バート・トラウトマンの実話を基に描いた本作。
 
 そして本日、7月19日はトラウトマン氏の命日。たしかHuluやアマプラなどでも配信中なんだとか。

 よければ読んでくださいー。



ダンス


 近年、実話を基にした作品、実際にあった出来事に着想を得た作品ってのが増えてきた印象。『最強のふたり』のヒット辺りからかな? それともクリント・イーストウッドが連続してそういう作品を撮っていた頃からかな? なんてテキトーな憶測はともかく、“実話” を引き合いにした映画にはたくさん出逢ってきましたけど、その中でも個人的に指折りで感動する実話でした。そして、それに負けず劣らずの感動映画でした。ネタバレはしていない(ちょっとはしてるかな?)ですけど……、なんていうかね、勘の良い人なら展開を想像できてしまいそうな物言いになっちゃいそうなので、本作の感動を味わうなら、本項は読まずに先に映画を鑑賞した方が良いと思います。



 憎しみを消すのは難しい……。それも戦争の話となるとなおさら。罪を許すことの難しさ。それは敵に対してだけではなく、自分自身についても。本作の主人公トラウトマン(デビッド・クロス)は、戦時中のトラウマをずっと抱え続けてきた男。そんな彼の過去の引きずりっぷりの見せ方が本当に見事。マジで胸に刺さる。度々描かれる過去の記憶。その反復によって観客の脳に刻み付けたイメージを、ある時、ぶっ壊す。“してしまった後悔” ではなく、“できなかった後悔”、その重さが如実に伝わるよう。あの時の理想を重ねて描くからこそ、彼の「あの時、ああしていれば」という思いの深さ・大きさに繋がる。

 このシーンに限らずですけど、本作は過去の回想への移行がとても滑らかな印象で、そのおかげもあって、より感情移入できる気がします。



 イギリス国民が抱くナチスへの恨み憎しみは、僕ごときには想像を絶する。本作、いや映画やドラマに限ったことじゃないですけど、その人の本質がどうであれ、その人を枠組みで見てしまうと、途端に人として見られなくなる。あくまで例えとして、「日本が嫌い」≠「日本人が嫌い」というのと同じな気がするというか、当人が選択したコミュニティではなく、たまたま生まれ持っただけの枠組みでしかないはずのもの。……でも、なかなか簡単には割り切れないのが人間。だから、その感情ごと嫌悪や憎悪を膨らませてしまう人それ自体を否定したりはしない。

 戦争で多くの人が傷付いた。そんな敵国の人間が矢面に立っているのだ。現代のネット社会同様、人々は格好の的に向かって石を投げる……。そんな中でマーガレット(フレイア・メーバー)は「憎む方が簡単」と真っ向から言い切る。(時代もあったのかはわからないですけど、)そのシーンが、男性ばかりの空間で、女性がマーガレット一人しか映っていないというのも、四面楚歌の状況を浮き彫りにしてくれていたんじゃないかな。

 以上のシーンも含め、作中、憎しみや恨みを許すことを説くようなシーンが多々ありますけど、説教臭くないのも本作の魅力の一つだと思います。だって、明らかに弱い立場の人間の、決死の主張なんだから。




 本作の魅力は言わずもがな、兎にも角にもその物語の美しさ。しかし、ナチスという暗い要素を孕んでいながらも、ユーモアがあったり粋な演出があるのもまた、この映画の隠れた魅力。特に “ダンス” の使い方が面白い。もはや本作の隠れたキーワードと言っても過言ではない気さえします。作品の冒頭、人々がダンスを楽しんでいるんですが、ここでのカメラワークが、後々に描かれるトラウトマンとマーガレットのラブシーンで活きてきます。物語の途中で、マーガレットに対しトラウトマンが口にする「戦うより君と踊りたかった」というセリフ、バーでのダンスシーンなどなど、様々な所で韻を踏むように引き合いに出されるダンスというキーワードが炸裂する瞬間だと感じました。

 これは言葉にするより是非観て欲しい場面のうちの一つ。そして、最期の最後もまたダンスで締め括る。いやぁ素晴らしい!



 様々な苦難を乗り越え、サッカーという競技で英雄となった実在の男・トラウトマン。ブーイング、或いは歓声……。様々な声や視線の中でプレーしてきた彼が一体どんな心境だったのか。それを教えてくれたように感じた一つの出来事がありました。試合中、彼は怪我を負ってしまいます。口にこそしていませんでしたが、どう見ても辛そうな怪我。それでも彼はピッチに残り続ける。責任感だったり、使命感だったり、理由は様々あるでしょうけど、そんな彼の姿と同時に描かれる、おそらく試合後に彼を診察したであろう医師の言葉があまりにも印象的

 首に大きなダメージを負っており、あくまでも奇跡的に立っていられるだけだという彼の身体について、「何か衝撃が加われば死ぬかもしれない」と語っていたんです。怪我の重症度への驚き、そんな状態でもなおプレーしていたという驚きと同時に、「ある種、それは彼の心情そのものなんじゃないか」とも思えてしまう。彼はその身体以上に、精神的にギリギリの状態でピッチに立っていたのかもしれない、と。

 僕は、本作で描かれるスポーツの素晴らしさに胸が熱くなった、彼を支える心優しき人達に胸打たれた……。けれど何より、主人公バート・トラウトマンという男に胸をふるわせられた。『キーパー』というタイトルのシンプルさ(邦題は副題が付いちゃっていますけど)が何を指していたのかを考えさせてくれるようにも思えます。


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