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映画『罪の声』感想

予告編
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 明後日、10月11日(水)にWOWOWにて放送予定の本作。

本文中、最後の方で「今年公開の~」と述べておりますが、例の如く公開当時の感想文なので、今の時勢・時節とはズレています。すみません。

2020年の話かな?


よければどうぞー。


正々堂々


 映像や音声を用いながら、時間を費やし人々を作品の世界観に没入させ、観客の興味や注意、関心を促し、受け取り手のアンテナがビンビンの状態になったところで、伝えたいことを明確に言語化(セリフに)することは、恐ろしいほど観客の胸に刺さると思います。「知らない世界を見られる」といった映画の魅力や意義については様々な形容が為されてきたと思いますけど、こういっ たことも所謂、映画の魅力の一つだと感じます。本作もそんな魅力が詰まった映画。



 自身の知らないところで犯罪に関わってしまっていたことを知った主人公・曽根俊也(星野源)が、事件の真相を追い求めるミステリードラマ。


 未解決のまま時効を迎えた事件の真相を記事にしようと奔走する記者であり、且つ本作のもう一人の主人公・阿久津英士(小栗旬)。真相を追い求めていく過程で、罪の無い人々を巻き込むこと、過去の傷を掘り返しかねないこと等々、事件を記事にして報道すること、不必要なまでに詳らかにすることの価値や意義・意味に疑問を抱き、上司にその想いをぶつける阿久津。返ってきたのは「マスメディアの責任」という言葉。

劇場型の事件に踊らされ、人々を大いに煽り、世間を騒ぎ立て続けたマスメディアの責任、使命だと言う。それに対し、阿久津が答える——「それはこっち(マスメディア側)の勝手な都合ですよね?」——。
その通りなんじゃないだろうか。しかし現実には、個人の尊重など二の次の報道が矢鱈と目立つ。結局このシーンでも明確な答えは出せないまま物語は進むのですが、ここでのやり取りが、クライマックスシーンに色濃く反映されているように思えてなりません。


 クライマックス、真犯人のもとへ辿り着いた阿久津。真犯人が彼に向かって淡々と、それでいて時折、抑えきれない熱い感情を滲ませながら動機を語り出す。自身が受けた、感じた理不尽な経験。不条理な社会への不満……。それを正すきっかけにするため、正義を示す、突き付けるための行いだった、と……。

まさしく先程のセリフそのまま。それは勝手な都合であり、エセ正義。何も知らない善良な人々を巻き込んだ卑劣な行為であり、犯罪を正当化する口実には決してなり得ない。この映画は、芝居や音楽、回想シーンを用いながら加害者の気持ち——罪を犯した側の声——を丁寧に描き、言い分や事情をしっかりと汲み取った上で、真っ正面から全否定する、正々堂々と正義を語っている映画。

しかも事件の真相が明かされるクライマックスシーンにおいて、一方の主人公が罪を叱責・糾弾し、もう一方の主人公が反省を促すというか説教しているようにも見えるから、W主人公ってのがしっかり活きている印象にもなっている。逆説的に、映画全体を通して遠回しなマスメディア批判にも感じられたから、それもまた面白い。


 そんな目線で見ると、ラストの結末……というか犯人についての締め括りは、変わらぬ社会(≒マスメディア)を揶揄しているんじゃないかとすら疑ってしまうものです。



 前半はサスペンスとかミステリー色が濃く、後半になるとドラマ感が強くなる本作。カッ ト替わりの直前からセリフが流れ出したり、次に登場する人物の声が聞こえてからその人物の姿を映したりといった場面転換、会話の切り替え方をするからとてもテンポが良く、前半の展開との相性も好い。何よりテンポが良いと退屈に感じないですしね。

 そして後半に入るともっと面白くなる。曽根は、自分と同じ過去を背負う人から「今、幸せですか?」と問われる。その人の存在を知り電話をかけた時と、実際に会って事件の話を尋ねた時の二回。ここも見どころの一つなのですが、曽根が答える前に場面が切り替わるんです。その後の阿久津との会話シーンでもわかるように、曽根は「同じ過去を背負っている人が居る中で、自分だけが幸せになってしまっている」という “背負わなくても良いはずの罪悪感” に苛まれていた。この切り替わりは、彼がその質問に “何も答えられなかった” ということを観客に暗に示してくれる場面転換。描かずにそこを表現するのは上手いと思うし、口籠ったり、狼狽える姿すらあまり描かずに観客の想像力だけに任せることで、物語のテンポも失われずに済んでいるんじゃないかな。


 先述のマスメディアへの批判っつーのは少し大袈裟というか深読みし過ぎかもしれませんけど、ミステリーとしてもドラマとしても面白いし、正義の在り方、或いは同じく今年公開の映画『コリーニ事件』(感想文リンク)でも感じたような、時効という制度への違和感などを考えさせてくれた一本でした。


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