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映画『AIR/エア』感想

予告編


心に響かせる


 ——「エア・ジョーダンの誕生秘話」「ベン・アフレック×マット・デイモン」——。もうこの売り文句だけで観に行きたくなってしまいます。

ちなみに、クリスチャン・カンタメッサという方の監督作で『AIR エアー』という本作と同名のSFスリラー映画がある(未見)のですが、まったく関係ないのでご注意ください。本項は、2023年4月7日公開、ベン・アフレック監督、マット・デイモン主演の映画『AIR/エア』の感想文です。念のためにね笑。



 僕自身、バスケットボール事情には詳しくないんですが、エア・ジョーダン、っていうかマイケル・ジョーダンの存在は誰だって知っているんじゃないかと。まさかエア・ジョーダンが生まれるまで、NIKEのバスケットボール部門がお荷物部署だったなんて思いも寄りませんでした。僕が物心ついた頃から、NIKEといえば靴に限らず、スポーツやらファッションやら、圧倒的な存在感を放っていた印象しかありません。

そんなNIKEにもチャレンジャーだった時代があったことが描かれる本作ですが、劇中、主人公ソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)がデビュー前のマイケル・ジョーダンにNIKEとの契約をプレゼンしていたシーンで、ジョーダンの経歴に言及します——「高校時代、チームを外された。それでNBAを目指し、チャンピオンになった」——。ソニーは「アメリカ人はそういう物語が好きだ」と口にしていましたが、本作『AIR/エア』自体も同様に “そういう物語” な気がして面白かったです。



 実は鑑賞後に、とあるネット記事を見つけたんです。それは、物語の舞台となる1984年当時はNIKEのCEOで、現在は同社の名誉会長でもあるフィル・ナイト氏の自伝についてのネット記事。その自伝の序章で彼は「世界は馬鹿げたアイディアで出来ている。歴史は馬鹿げたアイディアの連続である」と語っており、その上で「馬鹿げたアイディアだと言いたいヤツにはそう言わせておけ。走り続けろ。立ち止まるな。」と自身を鼓舞していたのだとか。

そんな言葉とは裏腹に、劇中では「役員が認めない」「社長が認めない」など他者の見解(想定)を言い訳に、或いは「慎重に思慮深く」という腰の引けた理由でもって、ソニーの提案は悉く否定され続けていきます。そんな中で、ハワード(クリス・タッカー)がソニーに掛けた言葉——「他の奴らの考えはどうでもいい。君(ソニー)がどれくらい信じるかだ」——は、まさに先述のフィル・ナイト氏の言葉、延いては彼が(共同で)立ち上げたNIKEの精神をも象徴していたように思います。そんな風にまで思いを馳せてしまえるのは、まるでNIKE礼賛映画とでも言わんばかりに、同社の企業理念が幾度となく映し出されていたからでもあります。

一方で、度々映し出される同社の企業理念のその一文一文が、どこかこの物語を章立ててくれているような気もしてきます。ある時は、これからのシーンで描かれていく出来事を暗示するかのように、またある時は、それまでのシーンで描かれてきたことを総括するかのように、場面ごとに合わせて、NIKEの企業理念である十ヶ条のうちのどれか一文が、バシッとスクリーンに映し出される。単に観易さに繋がるとも思えますが、「ここから流れが変わっていくのかな?」というワクワクといった期待感にも繋がっていたようにも思えました。




 ある時、ジョージ(マーロン・ウェイアンズ)がソニーに自身の思い出話をする。かの有名なキング牧師のスピーチについての話。そこで明かされたのは、あの感動のスピーチの後半部分がキング牧師によるアドリブであったというもの。ジョージ曰く、「聴衆の心に響いていない」と判断したキング牧師が、咄嗟の機転でスピーチ内容を変更したのだそう。

先述したシーンの話に戻りますが、実は、ジョーダンにNIKEとの契約をプレゼンしていた際、そんなキング牧師のアドリブスピーチを彷彿とさせるかのように、ソニーによるアドリブのプレゼンが突如として始まります。きっと本作を観ていた観客は漏れなく、キング牧師のアドリブを連想したことでしょう。

NIKEとの契約に前向きではないジョーダンの様子が気になって仕方がないNIKEメンバーの心情を浮き彫りにするかのように、劇中では終始、ジョーダンは後ろ姿しか描かれません。そして案の定、自社をアピールするビデオを流している間もソワソワしていたソニー。滞った流れを断ち切るかの如く、アドリブでジョーダンに語り出したのは、キング牧師同様、「心に響いていない」と判断したからに他ならないと思います。

ここでBGMのように少しずつ、うっすらと、鼓動のような音が聞こえてくるのも面白い。まるで何かが動き出したようなドクン、ドクンという重低音は、それこそソニーの言葉がジョーダンの心に響いているのかもしれないと思わせてくれます。



 また、誰もが『エア・ジョーダン』という存在を認知している、即ち “ある種のネタバレ” がある本作だからこそ、物語の中(1984年当時)では誰も知り得ないはずの “マイケル・ジョーダンの歴史” をカットインさせる映像が抜群の威力を発揮しています。この映像は、今でこそ多くの人が知るマイケル・ジョーダンの姿の一面かもしれませんが、それと同時に、ジョーダン自身がNBAでの今後の活躍ついて、ソニーの言葉によって鮮明にイメージさせられていたことを教えてくれるシーンでもあると思います。
 もぉとにかく、このシーンは実際に観てみるのが一番良い。オススメの見どころの一つです。

 また、そんな彼がアドリブの最中、いみじくも口にした、「我々は、命が尽きれば誰もが忘れ去られる」という言葉も非常に印象的でした。ただのスターではなく、NBAの象徴になるであろうジョーダンを称する言葉でありつつも、本作『AIR/エア』の存在(もしくは興行的な成功)によって、忘れ去られると思われていた者たち(ソニーやピーター、フォークなどなど……。エア・ジョーダン誕生に尽力した者たち全て)が、多くの人々の記憶に残り得るかもしれないと思わされます。こういった形で誰かの心に響かせる、記憶に刻まれるというのは、〈映画〉が持つ魅力の一つなのかもしれません。



 とまぁ、色んな形で僕の心に響きまくった本作ですが、クライマックス、フィル(ベン・アフレック)がソニーに言った「こうして起業した」というセリフが、どこか〈マット・デイモン〉×〈ベン・アフレック〉という親友コンビのことを指しているように感じてしまったのは、流石に思い込みが過ぎるかな?笑


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