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映画『1917 命をかけた伝令』感想

予告編
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 たまたま知っただけなのですが……

 本作は、1917年の今日——4/6に実際に起きた出来事を基に作られた作品なんだそう。

改めて観直してみようかな。


ちなみに、例のごとく公開当時の感想文なので、3年前のオスカーの話とかしちゃってますが、その辺はご愛嬌、ということで。



ワンカットの真意


 本っ当によお!オスカーノミネート作品をオスカー発表前に観られないだなんて、どうかしてるっ!!……今に始まったことじゃないんだけどね笑。でも授賞式は全力で楽しみたいから、どうにかして欲しいというのが本音です。誰に頼めば良いんですか? 配給会社?

 まぁそんなことは置いといて……。これは凄い映画、いやマジで。たしかにワンカットというだけで言えば一昨年の『カメ止め』にもあったし、有名どころだと『バードマン』とか、あとヒッチコックもやっていたから、珍しさはともかく目新しさは無かったかもしれない。けど、「ワンカットを売りにしていたけど、正確にはワンカットじゃねえじゃん」という理由での低評価は納得いかないっすよ。

夜から朝への時間経過を、燃え盛る炎や、水中に飛び込むタイミングを利用していく等の “ワンカットに見せる” 工夫や、それらを可能にする技術的凄さも然ることながら、“ワンカットである意味・意義” が感じられたからこそ本作は素晴らしい。……あーもう、多分どっかのタイミングでネタバレしちゃうかなぁ……。未見の人は気を付けてください。


 視界が一つしかないワンカットだから、「ここを曲がった先に敵が居るかも」「ここを越えたら敵に見つかるかも」という、主人公スコフィールド(ジョージ・マッケイ)らが抱えるシンプルな緊張感が常に作品を支配しています。何かに気付くのも、見つけるのも、全てが主人公と同じタイミング。ポップに例えるならVRのお化け屋敷みたいなもんなのかな笑。

泥濘に足を取られ、視線を足元に移した途端に死体の足部分だけが映ったり、よじ登っている姿の直後にまた別の死体の(まるで登ろうとしていたかのような)腕が映ったり、見せ方の妙が光っているというのもありますが、実は音楽がめちゃくちゃ効果的なように思えます。時計の秒針のようなチクタクという音が混ざったBGMは、「急がなければならない」という枷を嵌めたスコフィールドの心情と同様の焦りを観客に煽ってくる印象です。クリストファー・ノーラン監督の映画『ダンケルク』の時も似たようなことを感じましたが、本作も同様に、そのチクタクという音が1秒間よりも短い間隔で刻まれているのも効果的だったんじゃないかな。

他にも、聞こえるか聞こえないか程度の音量で、まるで心臓の鼓動を想起させるような鈍い音が刻まれ、それがじわじわと大きくなっていくことで登場人物の不安感や嫌な予感を如実に表してくれているシーンも良い。爆発や銃撃音といった戦争映画ならではの音も楽しみたいところではあるけれど、音楽も見どころ……いや、聴きどころの一つです。



 本作は、チェリーの木がとても重要なメタファーとなっていたと思います。こじつけに思われるかもしれないけどさ。
 本作にとってチェリーの木は、人の命そのものの象徴。はじめに出てきた時は、爛漫と花が咲いていながらも切り落とされていた。まだ若く、生命力に溢れていながらも無残にも殺されてしまった姿は、戦争によって刈り取られる若者の命なのだと示しているように見える。

 物語の終盤、川へ飛び込み、流された先でスコフィールドが水面に浮かんでいるシーンでは、多くの花びらが散り、花筏ができるほどの量だった。まるで戦争で散っていった命の暗喩なのだと思わされたのは、その直後のシーンで死体の山が川に浮かんでいたからでもあるわけだけど、何より、ここで彼が拳を握り締めたから。散りゆく多くの花びら(=人の命)の中で、拳なめ主人公という構図のおかげで、拳が彼より大きくスクリーンに映る。このカットによって、彼が握っている命の大きさ、或いは彼自身の中での認識の大きさを改めて観客に植え付けてくれる

そしてラストシーンでは、まるで震災時の奇跡の一本松を想起させるかのような一本の大きな木が、生き残った彼の逞しさや立派さ、そして同時に “一人だけ(一本だけ)生き残った” ということを印象付けてくれている。

主人公スコフィールドは、物語の中で様々な生死に直面してきた——死にかけたところを助けられ、その後は敵ながら一人の命を救った。けれどその男に仲間を殺され、怒りのあまり助けたはずのその男を殺してしまう。先へ進み敵を倒し、殺されかけた後、今度は偶然、一つの小さな命を救うことになる——。
消えゆく命、生まれたばかりの命、色んな生死に触れてきた彼だからこそ、拳を握り締める瞬間に重みが出てくるのかもしれません。



 話は前後しますが、ラストシーンはしばらく忘れられそうにありません。サカナクションの『アルクアラウンド』のMVを思い出したというか……。ワンカットで冒頭と同じシーンに戻ってきたかのように見えるあのラストは、観客に無限ループを予期させ得る。まるで本作のワンカットが、劇中でマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が口にしていた “終わりが見えない” という戦争の残酷さを表現するためのものだったんじゃないかと突き付けられる瞬間。さらに言えば、同じカットに戻ってくることで、同じではない部分——居なくなった者の存在——が浮き彫りとなるのも非常に印象的。ワンカットならではの魅力が詰まった傑作だったと思います。


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