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映画『BLUE/ブルー』感想

予告編
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 全然知らなかったのですが、昨日5月19日は「ボクシングの日」って言うんですってね。

 ということで、本日は日本のボクシング映画から一本。


青コーナー


 ホントにねぇ、誰が言ったか、映画とボクシングは相性が好い。新旧問わず多くのボクシング映画が生み出された、だからこそ我々観客はタイトルが指し示す意味を勘繰りながら観てしまう。シンプルに〈挑戦者〉と捉えるのが真っ当なのか。言い方を変えただけだけど、「まだ勝てていない者」とも見て取れる。挙げれば切りがありません。“BLUE/ブルー” という言葉が持つ様々なイメージが、様々な意味を付け加えてくれる。



 本作で描かれる多くの “未勝利” や “敗北” は、負け組の気持ちを知る者なら胸に刺さってくるに違いない。もっと言えば、ブルー側の気持ちをまったく知らない奴なんて果たしてこの世に何人居るのだろうか

……要するに、多くの人にお勧めできる作品ってことです。今に始まったことじゃないけど、今回は特に、批評や考察なんか微塵も無い、マジでただの “感想文” になりそうです。



 去年公開の映画『アンダードッグ』評(感想文リンク)の中で、「誰もがロッキーになれると信じている」と述べました。そんな気持ちに気付いてしまうと、なおさら本作のドラマは胸に染みてくる。「敗者=弱者」ではないのだと言ってくれている本作は、一見すると優しい。しかし、「熱量があるからといって勝てるわけでもない」という現実も同時に突き付けてくる。人は「ロッキーになれる」と信じなければ前には進めないけれど、信じているからこそ、ロッキーになれない度に精神は疲弊していく。そんなプレッシャーへの対処の仕方が、各登場人物ごとで異なっており、それらが群像劇的に描かれています。

それぞれ違うとはいえ、全員の気持ち一つ一つがわかってしまうのもしんどい。うん、やっぱり本作は優しくない笑。上手くいきそうになる度に、必ず何かが引っ掛かってくる。そんなことの繰り返しと、タイトルが匂わす敗北の気配が、期待感を阻害して心配感ばかり増長させやがる。まさに青コーナー側のボクサー、ないしはそのセコンドにも似た心境です。



 エクササイズ感覚でジムに通うおばちゃんたちに「良い歳なんだから、いつまでもこんなこと~」と言われたり、敗戦ばかりで後輩からも見下されていることを知りながらも、飄々と振る舞う瓜田(松山ケンイチ)の心中なんかは、個人的には一番印象的でした。群像劇と言えど主人公だから印象深くなるのは当然っちゃ当然なんですけど……。なんでしょうね、“わかりみ” ってやつが深いのです。負けてもバカにされてもケロッとしているけど、何とも思っていないわけではなく、一人になると頭をワシワシと掻いてしまう……。それぐらい重たい精神ダメー ジをまともに喰らってしまわないようにするための防衛本能みたいなもの。隠すのが上手いだけで、傷は見た目以上に深い。何より、「オレ、全然落ち込んでいませんよ」という強がりムーブでもある。他人への見栄のように見えて、その実、自分に言い聞かせているだけの節が多分にあるのが本音。誰よりも本気で、でも芽が出なくて、なのに諦め切れなくて……おいおい、本作の瓜田じゃなくて、まるで自分のことを述べているような気になってきちまうよ。


 遊び半分の奴への苛立ち、自分より下だと思っていた奴に追い抜かれる不満、近しい人間の成功、あとはスポーツや勝負事以外でも、生意気な小僧からの難癖、恋敵への嫉妬、パートナーとの不和……etc.

瓜田以外にも、挙げれば切りが無いくらい、ブルー 側の機微がいっぱい詰まっています。様々なブルーが描かれることで、誰もが何かしらでブルー側の想いを抱えながら戦っていること、そしてスポットライトが当たらないブルー側だからといって、熱量が少ないだとか薄っぺらいわけじゃないんだということが窺い知れます。



 そんな熱量が、思いも寄らない形で活きてくるのも面白い。物語の中盤で、冒頭のシーンに戻ってくる展開に「あ、ここで冒頭に戻って、ラストを勝利で飾るパターンか」と早合点してしまいそうになりますが、当然、物語はまだまだ続く。それも、ピースが欠けた状態で。

けれど、常にブルー側だった男への救いにもなるような描かれ方が散見されているんです。そして迎えるラストシーン……。ああ、そうだよな、「良い歳なんだから、いつまでもこんなこと~」などと、結果が出ない事実に対して積み重ねてきた時間を無駄であるかのように揶揄されようと、ボクシングに限らず、熱量があればあるほど簡単には止まらないんだ、やめられないんだ。頭ではわかっていても、いつかロッキーになれる気がしてしまうんだ。

……そうやって、ずっとブルー側に居続ける人々を描いた本作は、やっぱり優しくない笑。


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