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映画『アルプススタンドのはしの方』感想

予告編
 ↓


 明日、8月6日(日)から全国高等学校野球選手権大会が開催されますね。ということで本日投稿するのは『アルプススタンドのはしの方』の感想文ですー。

 よければ読んでくださいー。


※ネタバレってわけではないのでネタバレのタグは付けていませんが、知らずに観た方が良いんじゃないかなぁ、と思います。未見の方はご注意ください。


主人公


 本作は、全国高等学校演劇大会で最優秀賞を獲得した名作戯曲を映画化した作品。舞台は夏の甲子園……のアルプススタンドの端っこ。そこだけで繰り広げられる冴えない4人の青春ドラマ。とにかくこの設定が素晴らしい!多くの学園モノのフォーマットで言えば、決して主人公にはならない立場だとか、仮にそうだったとしてもコメディ要因としての役柄でしかないことがほとんどだった人達に焦点を当てているのが本作の面白いところ。いっつも同じような人達がスポットライトを浴びて、スクールカーストの下の方は常に脇役。でも逆にそんな人たちにこそスポットライトを当てる。こういうことに関しては日本の青春モノは未だに後れを取っているかもしれませんけど、海外の作品には増えてきましたよね。こういう題材を数年前に既に考えていた演劇部の顧問の先生(藪博晶)は素晴らしい。



 “甲子園” という舞台における主人公は、やっぱりグラウンドでプレーする野球部員。しかし、アルプススタンドのはしの方の人間を主人公にしている本作では、そんな野球部員たちが一切、もぉ全く、一瞬たりとも出て来ない。歓声が上がるような好プレーがあっても、得点が入っても、“カキーン!” というヒット音と同時に空高く飛んでいく白球を思わず目で追ってしまう主人公たちをスローモーションで映す『熱闘甲子園』みたいなシーンがあったとしても、絶対に野球部員は映らない。この徹底している感じは面白いと思います。


 時折、喋っている本人以外にピントを合わせて他の人物を若干ぼかすポートレートみたいな撮り方があるのですが、それはまるでそのシーン、或いはこれからのシーンの主軸となる人物に視線を誘導しているかのよう。「ドラマは喋っている人間だけの物語じゃない」と言わんばかりのこの撮り方は、中心に居る人たち以外に目を向けた本作との相性がとても好いんじゃないかな。同時に、この手法は舞台演劇では出来ない映画ならではの見せ方でもあるから、演劇大会用の戯曲だけど、ちゃんと映画化した意義・意味をも感じられて、なお良いと思います。

 そういう意味で言えば、彼らの感情が昂るクライマックスのシーンで、それまでとは打って変わって強い風が吹いて髪や首にかけたタオルが揺れて、何かが変わり始めた、動き始めたことを教えてくれる演出も良かったです。反対に、全体を通してカットバックが少な目な撮り方は舞台作品の良さが残っているようにも感じられたし、いいとこ取りって感じです。



 単に普段とは違う視点っていうだけではなく、ちゃんと登場人物たちに共感できる内容なのも面白い。悲観的な発言も、諦めや逃げを正当化したような物言いも、自分を守ろうとする防衛本能みたいなもの。自分の心の弱さのせいで自分自身に負けてしまったことのある人間なら、少しは気持ちがわかるはず。

 中でも「しょうがない」というセリフはメインの4人の心の在り様を象徴している。何でもかんでも「しょうがない」で済ませてしまう4人は、“納得” ではなく “逃げ” の理由に対してこの言葉を使っていた印象。

 そんな彼らとは対照的に「しょうがない」に抗っている人達を同時に描いていたからこそ、彼らが映えたのかもしれません。本当はベンチ横で声援を送りたかった暑苦しい先生(こういうのは個人的に一番苦手とするタイプの先生だったけど笑)も、生徒たちの中心で頑張っている久住(黒木ひかり)も、4人とはまた違った彼らなりの苦労や悩みがある。“はしの方” という新しい視点にばかり頓着することなく、はしの方とは対照的な中心人物や、その横にいる人達のことも忘れていないのも見どころの一つ。久住の横に居た女子生徒たちも、最初は「なんちゅー嫌なやつら!」と思っていましたが、最期の最後には「なんだよ、結局こいつらもイイ奴らじゃねえか!」と思わせてくれる展開にはグッと来るものがあります。

 冒頭で「しょうがない」というキーワードをチラつかせてから本編に入り、ここぞという場面でそこに戻ってくるのも映画らしくて良い。ヤノ君もソノダ君も、みんな良い奴ばかりで、この映画は観ていて気持ちが良い



 ラストシーンのアナウンス、飛んできたボール等々、漏れなく笑顔にさせられるような大団円は、それこそ端の方にいるようなタイプの人や、僕のような捻くれ者には〈ご都合主義〉のような展開に見えてしまいかねないのかな? でも青春映画っぽいから許容範囲なはず。本作のテーマの着地自体はありふれているかもしれないけれど、清々しい後味の映画です。


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