「作者=主人公」と捉えられがち問題 ~綿矢りさ『インストール』を例に~
先ほど、綿矢りさ『インストール』をオマージュした実験小説をアップしましたが、それの解説的な記事です。オマージュ小説を先に読まれることをおすすめしますが、こちらを先に読んでも楽しめます。そしてタイトルに興味があれば『インストール』が未読でも楽しめます。
先ほどアップした「綿矢りさ『インストール』が好きすぎてオマージュ小説を書いてみた」は、女子高生作家リサと話にツーショットチャットルームを訪れた客たちと、リサの会話ログを記した実験的な小説でした。
実はこの中のリサのセリフは全て、小説『インストール』からの引用です。
つまり、私が書いたのはチャット客のセリフだけで、半分は本から盗んだだけ。
チャット客との会話が噛み合うような、噛み合わないような、絶妙な塩梅になるよう、小説からの引用をしまくって作ったんです。
「なんでそんな謎な試みをしてオマージュ小説を作ったの?」と言うと、「作中主体と作家本人の混同」について、書きたかったからです。
■エロチャットの小説でデビューし、「美人女子高生作家」として時代に翻弄された綿矢りさの運命
綿矢りさは2001年、17歳で『インストール』で文藝賞を受賞、現役女子高生作家として華々しくデビューしました。
「女子高生がエロチャットで一儲けする話」を女子高生が書いた、しかも本人は可愛い。
当然マスコミは騒ぎました。
そして、『インストール』を読んだ人の頭の中に
「作中に出てくるエロチャットは作家本人も体験したものか?」
「主人公は17歳の女子高生。作者と同じ設定だけど、どこまでが実体験?」
という問いは、否応なしに浮かばざるを得ませんでした。
もちろん、どんな私小説においても、作中主体と作家は別な存在です。前者はフィクション、後者はノンフィクション。
しかし、ここまで作者本人が取り沙汰されると、こうしたゲスの勘繰り的な問いはどうしても振り払えない。
私が文芸同人誌破滅派「作家の処女作オマージュ特集」寄稿用に綿矢の処女作『インストール』を再読し始めた際も、やっぱりこの問いが看過できなかった。だから逆に正面から扱うことにしました。
つまり、「作品に関係ない質問をしてくるゲスい読者」vs「作家」のバトルです。
具体的には
「作中のエロ描写を書く時、リサちゃんも濡れてたの?」
「主人公は17歳の処女だけど、リサちゃんも処女なの?」
とゲスなことを聞いてくるチャット客
VS
「どうせ作中主体と作家本人を混同するんでしょアンタらは。もう本に書いてあることを使って好きに妄想していいよ。ただし小説以外の「私自身の言葉」は、絶対にアンタらには与えない」とばかりに立ちはだかるリサbot
という対決構造としました。
■チャットルームで「女」に妄想を押し付ける、哀しい男達
基本的にゲス客たちは『インストール』を読んでいないor読んでも流し読みという設定です。作品そのものより作家に興味がある。そして自分の頭の中の妄想とおしゃべりするばかりで目の前の相手(=リサbot)に対峙しない。だから目の前の相手がbotということにも気づかない。(この辺は、私自身のチャット嬢体験から来る実感をかなり込めました)
ただ唯一の例外は、ラストに出てくる客、聖璽。
こいつは『インストール』原作にも出て来ます。
『インストール』原作では、うっかりチャット嬢にガチ惚れし、チャットルームに何時間も居座るキモい客として描かれていましたが、しかし、26歳人妻チャット嬢の「中の人」が「実は女子高生だった」と見抜いたのも、彼ひとりだったのです。
あまりに不器用でキモいコミュニケーション方法しかとれなかった彼ですが、それでも、一番まともだったのは彼だったんです。
だから私のオマージュ作品でも、「最後に聖璽だけが見破る」というモチーフを原作から拝借しました。
■というわけで……
野暮な解説記事ですが読んでいただきありがとうございました!
同人誌の締め切りギリギリに作ったため、
「読者にいつbotだと気付かせるか」「botとしての精度をどれくらいにするか」を微調整したいなという悔いはあります。あるいはタイトルを変更して、ヒントを入れるということもできるかもしれません。
いつかするかもしれないリライトと、「こういう解説記事って需要ある?」と探るため、アンケートに答えてもらえると超超超超幸いです! 本記事のコメント欄にお願いします。(恥ずかしかったらinfo@rayshibusawa.her.jpへメールか、Twitter@RayShibusawaにDMもOK)
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■Q1 りさの言葉は全て『インストール』からの引用だと
A 聖璽のセリフ以前からわかった B 聖璽のセリフで分かった C最後までわからなかった
■Q2 『インストール』を
A読んだことがある B読んだけどかなり昔だからほとんど何も覚えてない C読んだことはない
■Q3 私のオマージュ小説を
A先に読んだ Bまだ読んでいないが、これから読みたい C読んでないし、読む気も起こっていない
■Q4 この解説記事を
A読んでよかった B読まない方が良かった
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答え方は、「1A 2B 3A 4B」みたいな感じで大丈夫です!
ちなみに、いち綿矢ファンとして、綿矢りさの文体の独特さをbotに誇張させて再現させたいな、っていう小テーマもありました(わくわく、とか、ぶるぶる、とかやたら魏態語が多い)へへへ。
自分にとって大事な小説の、オマージュを書いてみるの、楽しいから、オススメです!
渋澤怜(@RayShibusawa)
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小説書くにあたって、女子高生AI「りんな」のノリもかなり参考にしました。LINEで友達登録して雑談してみると楽しいよ。
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