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5冊読了(3/6〜3/22)

1『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼

2『小説家という職業』森博嗣

3『学びを結果に変えるアウトプット大全』樺沢紫苑

4『喜嶋先生の静かな世界』森博嗣

5『杳子・妻隠』古井由吉


4月になりましたね。
新年度みたいな感じだと思います。
年度末に本を5冊読み終わりましたので、また感想を書いていきます。

よく見ると上の写真に違和感があると思うのですが、5冊中2冊は合成です。
一番左と真ん中の本だけ、元の写真で空けたスペースに本の表紙の画像を貼り付けています。
なぜそうしたのかというと、現物が無いからです。

僕は電子書籍はまだ手を出していなくて、基本的には本は現物を購入して読むのですが、「オーディブル」や「オーディオブック」という本の朗読サービスも利用しております。
13は朗読サービスを利用して読みました。
なので元々3冊で撮った歯抜け写真に2冊を貼り付けました。
その2冊は床に反射していないですね。
床の反射まで作る合成技術は持ち合わせていないです。

これまでも朗読サービスで読んだ本があって、毎回合成していました。
本の表紙とか、それを並べて眺めることが好きなので、読んだ作品は記事で使う用にこうやって壁に5冊並べて写真を撮っています。
ある時オーディブルで読み終わった本の感想を書くために写真を撮ろうと思ったら、現物が無いのに気がつきました。
その瞬間に感じた困惑と喪失感は忘れられません。
一体どうすればいいのかとパニックに陥りました。
すぐに、まあ合成すりゃいいんじゃんって思いついて実行しましたが、気づいた時の愕然とした感じを思い出すと、自分がひどく滑稽に感じます。

朗読サービスはとても良いサービスです。
両手が空いていない時や歩行中でも読書ができます。
視覚障害者の方にとっても良いコンテンツだと思います。
視覚による読書にこだわりがある方も多いと思いますが、小説は本で読んでビジネス本は朗読サービスを利用するとか、色々作品によって使い分けもできますので、一度試してみてはいかがでしょうか。



1は文句なしに面白かったです。
評判通りこれは凄い作品でした。
その年の年間ミステリーランキングで五冠を獲った大傑作です。
刊行されて話題になった時からずっと読みたくてウズウズしていたのですが、オーディオブックでやっと読みました。

とんでもなく面白かったですねぇ。
世間や著名人の絶賛の評価も過剰ではなくて、ミステリー読みなら誰もが納得できる名作が誕生したと感じました。
書店の帯かPOPに「すべてが、伏線。」みたいに書いてあったと思うのですが、それも的を射ているキャッチコピーで素晴らしいです。
ミステリー小説でこれだけ大きな感動を抱く作品は久々でした。

こういう話題になるミステリーは、フェアかアンフェアかという論争が巻き起こったりするのですが、正直それには興味がなくて、僕は面白ければなんでもいいじゃんという価値観です。
とにかくミステリー要素の衝撃度と、その緻密さに度肝を抜かれたわけですから、細かいところにケチをつけるのはナンセンスです。
というか別に、完全にフェアだと思います。
こんなに読者を楽しませてくれてありがとうと作者の相沢さんには伝えたいです。

相沢沙呼さんの作品は初めて読みました。
よくお名前を見かける作家さんだとは思っていましたが、作品の表紙に美少女が描かれている作品が多く、そのライトノベルっぽい雰囲気から、なんとなく読むことはないかなぁなんて思っていた作家さんでした。
そうしたら2019年にこの作品で突然ミステリー界を沸かせたものですから、完全にノーマークで驚いちゃいました。

僕は「オーディオブック」を利用して読んだのですが、作品の魅力を存分に味わうためには、正直これはお勧めしません。
好みの問題かと思いますが、僕はナレーターの方の読み方や、BGMや効果音が入りまくるラジオドラマみたいな演出はいただけないなぁと感じました。
なのでこの作品に限っては、視覚で読むのが良いかなぁと思います。
もちろんそれでも物語の質が落ちたわけではないので、全然「オーディオブック」でも良いとは思うんですけどね。
でもベストではなかったなぁという感じです。

『mediun』のあとに既に続編が刊行されています。
『invert』というタイトルで、なんだか読みにくい英単語という共通したタイトルでとても良いですね。
キャッチコピーは「すべてが、反転。」
もう絶対読みます。


2はミステリィ作家・森博嗣さんのエッセィです。
最近はこの方の作品を読むことが多く、エッセィでも小説でも作品を読むたびに、作者に対して新鮮な発見があったり、その才能に脱帽したり、更に好きになっていく感覚を味わっています。

このエッセィは10年以上前の本です。
森さんがその当時までの自身の小説家としての来歴を振り返り、プロの作家のなり方や創作のノウハウ、出版業界の現況や未来のことについて書かれた一冊です。

他の芸術にも言えることですが、小説を書くことは芸術活動であるけどビジネスとしての面も大いにあって、そこに金銭のやりとりが生じるなら他人や企業との関係も発生するし、マーケティングとか販売戦略なども意識しなくてはなりません。
そういった領域はプロの作家を目指している段階の人にはわかりにくい部分で、それを森博嗣さんがこの本で詳らかに解説してくれています。
出版業界に興味がある人や小説家を目指す人、単純に本が好きという人にとっては興味が湧く一冊なのではないかと思います。

良い小説を書く方法として、とにかく書くこと、というのを主張されています。
小説の書き方のノウハウを紹介している本を読んでいる暇があったら、その時間でとにかく文章を書いた方が上達に向かうだろうとのこと。
この本も小説の書き方のノウハウを紹介している本なんですけどね。
こういう直截的でユーモアのある意見が森博嗣さんらしいところで、大変面白く読ませていただきました。


3は書店でよく見かける話題の本ですね。
オーディブルで読みました。
同じ著者で『インプット大全』というのもあり、それと対を成す作品です。
そちらはまだ読んでいません。

著者の樺沢紫苑さんは精神科医の方だそうで、科学的に良いとされる、ビジネスシーンや日常生活の中で自己成長につながるアウトプットの方法を、項目ごとに80個も紹介してくれる本です。
勉強や読書でいくら知識を増やしても、それを使わなければ現実にはなんの変化も起こらないので、それを上手くアウトプットすることで効率よく行動に活かせるというのが樺沢さんの主張です。

紹介されるアウトプット法は人とのコミュニケーションや、ノートの取り方、運動や睡眠の方法など様々です。
一つ一つはそれほど難しいことではなく、誰でも習慣として取り入れやすそうなことを具体的に書いてくれているので良いなと思いました。
ただこういったビジネス書には大抵載っていそうな、よく耳にする方法も多くて、まあ「大全」というタイトルだから、まあそうか、という感じでした。


4はまた森博嗣さんの作品です。
2はエッセィでこちらは小説です。

僕は森さんの創る物語を読んでいるうちに、作者自身に対しての興味が強くなっていってエッセィも読み出しましたが、エッセィを読んでいくうちにまた小説も読みたくなりました。

そして森さんはシリーズものの作品が多いですが、シリーズ外の作品がいいなぁと思って探して、この作品が良さそうだと思いました。
紹介を読んでみると、これはミステリィ小説ではなく、なんと森さんの自伝的小説というじゃないですか。
タイトルや装丁の雰囲気からも、娯楽的要素は大人しめで純文学的な傾向がある作品なのかなとも想像しました。

主人公の橋場君が自分の大学生活を回想する形で綴られるお話です。
この橋場君というのが森博嗣さん本人であると思われます。
橋場君は大学で、その後の自分の人生に大きな影響を与えてくれた喜嶋先生という人と出会います。
その喜嶋先生との交流を通して、学問や研究に対する姿勢を学んでいく物語です。

自伝的小説と銘打っていますが、どこからどこまでが本当に起きた話なのかは明確ではありません。
ただ森博嗣さんの奥様のささきすばるさんと思しき女性、清水スピカさんという人物も出てきたりして、少なくとも主要な登場人物の設定や人柄は忠実に描いているのかなとは思いました。
橋場君の飄々とした性格や頭の良さからも、それがお若い頃の森博嗣さんなのだろうと納得できるし、それなら実際に喜嶋先生のような方と出会って、小説内のような、学問と研究に明け暮れた、充実した大学生活を送ってこられたのだろうなと想像できます。

実際の出来事なので(そうだと仮定して)、そこまでドラマティックな展開が起こるわけではないのに、どうしてこんなに面白いのだろうと不思議に感じるほど面白かったです。
それはもう一重に森博嗣さんの描写力によるものであるのは間違いなく、登場人物のキャラクターの豊かさにも引き込まれます。
やはり喜嶋先生は特に印象に残る人物で、彼が学問や研究というものに真摯に向き合う上で発せられる言葉の数々は全てが名言であると感じられます。
大学の先生としてきっと気難しかったり厳しい一面もあるのだろうけど、教え子である橋場君も優秀であるがゆえ彼の目線からではそういった部分はあまり見られず、研究に没頭する姿勢やその実直さ、あるいは浮世離れした生活スタイルとか、対人関係の不器用な部分なんかの方が多く見られて、自然と好感が持てました。

長い回想を終えて、小説の終盤には現在へと辿り着きます。
それは当然、橋場君が大学生だった当時からすれば未来の出来事で、物語の結末が実際の今の状況ということになります。
この物語に登場する人物たちがすべて実在するのだとしたら、登場人物たちの今を知れるわけです。
その終盤の描写に入った時に、僕は言葉では言い表し難い感情になりました。

その結末がどういったものかはもちろんネタバレになるので詳しく書きませんが、自分にとっては衝撃的なものでした。
読み終えた時は茫然自失というか、かなり胸に迫るものがありました。
それほど登場人物たちに好感を持ち、実在しているのだと思い込めるぐらい物語に没頭できていたということです。

そういった結末も含め、僕はこの小説が大好きです。
忘れられない作品となりました。
文庫版の帯に、何度も読み返したくなる本、というような文言がありましたが全くその通りで、こちらの触れ込みも過剰じゃないなぁと感じました。


5は古井由吉さんの作品です。
初めて読みました。
『杳子』と『妻隠』の二篇が収録された一冊です。
『杳子』は第64回芥川賞を受賞した作品です。
ようこ、つまごみ、と読みます。

主人公の男性が山で杳子という名前の女性と出会い、そこからの二人の交流の日々を描いた物語です。
どうやら杳子には精神疾患の気があり、理解するのに困難な言動が見られます。
主人公はそれにとまどいつつも、彼女の謎めいた魅力に惹かれ、二人は男女の仲になっていきます。

この小説全体が暗く澱んでいて、その闇の中に引き摺り込まれてしまうような感覚を覚える作品でした。
いや、引き摺り込まれるほど吸引力があり作品世界に没入できるぐらい魅力が感じられるものだったら良かったのですが、読んでいる時の感情としては、なんだか重苦しくて退屈だなぁと思いながら読み進める感じでした。
叙情的な言葉を駆使したいかにも文学的な描写が多く、そういう部分には、こんな表現があるのかと目を見張るものもあったのですが、それよりはやはり陰湿で暗澹とした雰囲気の方が印象として残りました。

芥川賞を受賞しているわけだし、日本文学界の歴史の中でも名高い作品であるのは間違いないので、この小説の凄さを十分に味わえない自分はまだまだ文学に疎いのだと思います。
登場人物に感情移入や共感ができるか否かとか、物語の展開による娯楽的な快感は、文学を味わう上ではそれほど必要のない要素だと認識しています。
そう認識していても、そういった要素を排除した純粋な文学傾向の強い作品を心から楽しむのは、なかなか今の自分には難しいなと実感しました。

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