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バイバイ、またね!

また風向きが変わるんだ

うすうすわかっていることって多い。
なんとなくしっくりこないことは、やっぱりしっくりこないんだ。人間ってのは「見る前」に決めているし、「やる前」にわかっている。そういう直感は誰でも持っている。ただ、無視しちゃうだけだ。

春は、奇妙な季節で「あ、なんとなくこの人と離れていくな」という、淋しさがある。毎年ある。春は別れの季節だと思う。別れの季節は秋のような雰囲気があるけど、絶対に違う。別れは春に来る。私の場合は……。

別れっていうか、分かれだと思う。音は同じだけど漢字にすると違いは明白。「分岐点」なんだよね。あれ、あなたとはずっと一緒だと思っていたのに、あんなに気が合っていたのに、あなたはあっちへ行くんだね。私はこっちなんだけど……。
春はそういう季節だ。
「バイバイ、またね」の「またね」には「もう会わない」じゃなく「もう合わないかもしれない」的なせつない雰囲気がある。

春はチェンジの季節だった。そういえば、3年前にコロナウィルスが感染拡大をして世界が閉鎖されたのも春だった。あの時は「世界が止まった」のを体験した。すごい経験だったな〜って思う。不思議だけど、あの静止して飛行機も船も電車にも人が消えた世界を、だんだん忘れ始めている。

動き出して、マスクもしなくていいよってなった時、いったいあの騒ぎはなんだった? みたいな、狐につままれた気分。ねえ、ほんとうになぜ感染は止まったの? 集団免疫ができたから? ワクチンのおかげ?どういうことなの。無数の疑問符が風船みたいに空に上がっていく。それを見送っている。テレビでは毎日、ショーへイの話ばっかり。日本はそれほど平和なのか? ってもやもやする。ショーヘイ、すごいよ。でもさ、野球のニュースの影で大事なことが決められていないかな。

あのさ、確かにこの春はまた世界が動き出したけれど、それは三年前と同じ状況に戻るってことじゃないよね。だって、三年前はロシアとウクライナは戦っていなかったし、円だってこんなに下落していなかった。核の脅威だって今ほどじゃなかったし、政府が原発を再稼働するなんて話もなかった。

大手企業が給与を上げる……みたいなテレビニュースが流れているけれど、なんかすごく偏った報道ばかりになっちゃって、こんな大変な時に政治家は「全部、ねつ造です」なんて、報道へのプレッシャーを否定しているけれど、あのね、安倍政権時代にマスコミはほんとうに骨抜きにされたんだ。ぜんぜんまともな報道ができなくなった。それがどういうことかわかってるの? って思う。

この春のチェンジは、すごく大きい。風向きが変わる。どう変わるかはどう生きているかってことでそれぞれ違う。私は、逆風にいる。世の中が向おうとしている先が自分とは違うことを感じる。多くの人と意見が合わなくなるかもしれないし、もしかしたら苦労するかもしれないけれど、元の世界に戻れるなんていう「嘘」は信じないよ。

だって、60年以上生きてきて歴史を見てるんだよ、一応ね。いつ頃からこんなふうに人間に冷たい国になっていったかも、肌で感じてきたんだぜ。小選挙区制が導入された時……、バブル経済が弾けたあと自由経済に大きく舵を切った時……、就職氷河期がやって来た時……、原発事故が起きた時……、何度も風向きが変わった。そしてきわめつけがコロナなんだけど、ほら、今また風向きが変わった。
強い風、熱い風。
むせてしまうような、埃っぽい風だ。

この風には乗れない。この風の行き着く先に私が望むものはない。

私はもうそっちには行かないんだ。別の電車に乗るんだ。そう言って、ホームに立っている。
「そうなの、じゃあまたね」
みんな電車に乗って、楽しそうだ。この急行列車はとても速くて快適だ。でも私はそれに乗りたくない。昔なら乗ったろうけれど、年をとっていろんなものを見てきたから、その行き先がうすうすわかるんだ。
「あなたの乗る電車も同じレールを走るんだよ、だから行き着く先は同じだよ」
と、誰かが言う。そうかもしれない。

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