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フルシロ・ユウ
2024年4月14日 16:04
「ホントにいいんでしょうか?お邪魔してしまって。」「いいですよ!自分の家だと思ってのんびりして下さい!」申し訳なさそうな美咲をよそに紗枝はきびきびと動いている。遠慮がちな美咲は彼女の勢いに圧倒されているようだ。「でも・・・。」「はい、これ着替え。私のなんですけど着れるかな?美咲さん、背高いですよね~。あ、でもこれ元々オーバーサイズだから大丈夫かも。」「あ、はい。すみません、色々。」「気
2024年4月9日 00:33
ゲーセン2階のたまり場にコーヒーの香りが漂っている。信哉の叔父から譲り受けたコーヒーメーカーはズボラな男3人には似つかわしく、普段は埃を被っている。今日は久々の稼働だ。和樹も翔も、眼の前のソファに腰掛ける美女にかける言葉がなく、沈黙の中でコーヒーメーカーの低い稼働音と豆の香りだけが漂っている。翔がカップにコーヒーを入れて差し出すと、詩織は小さく会釈し、何かを囁いた。あまりに小さくて聴こえなか
2024年3月15日 22:05
高校の頃、私はイジメられていた。何だか自分が惨めに思えるから、当時はイジメられていると認めたくなかったが、今から考えるとはっきりイジメられていた。理由は分からない。最初は廊下を歩いている時に後ろからクスクスと笑い声が聞こえるだけだった。それも一度も話した事のない違うクラスの女子グループだったから、まさか自分の事を指して笑ってるなんて思ってなかったが、頻繁にその場面に出くわすと流石に気づいてしま
2023年10月29日 21:46
フラワーロード付近、神戸国際会館の裏手に位置する少し奥まった場所にカフェ『river』はあった。木戸詩織がアルバイトをしていると言う店だ。先程彼女がアパートに帰って来るのを見ているため、店にいない事は分かっている。摂津本山のアパートからここに辿り着くまで、和樹は「彼女の素性調査も探偵の仕事」と3回は口にしている。3回も言うという事は自分への言い訳なのだろう。 翔はメニュー表を見ながら悩んでいた
2023年9月20日 08:22
JR摂津本山駅から歩いて10分ほど、4階建てで薄茶色ともベージュとも言い難い色合いの鉄骨造のアパートを見上げながら和樹は言った。「愛の花園にしては、何か無骨やな。」「大学生同士の同棲なんかこんなもんやろ。」翔はつまらなさそうな言い草だ。「夢がないね~。」「夢というより金がないね。」和樹と翔は2人が住んでいるアパートに来ている。と言っても、正確には彼氏は転がり込んだだけらしい。信哉は
2023年7月30日 16:03
依頼人の名前は品川美咲。同じ岡本学園大学に通う大学生で、経済学部の2回生だった。淡い緑のワンピースにサンダル姿で決して派手な服装ではないが、それが目鼻立ちのはっきりした顔を際立たせている。身長も信哉より少し高いから170cm近くはあるだろう、誰がどう見ても美人である。「要するに、そのお友達を彼氏と別れさせたいと?」信哉は確認を促した。彼女の依頼は友人を彼氏の暴力から守りたいというものだった。
2023年7月22日 19:01
和樹は翔と一緒に溜まり場を出た。外に出た途端に途方もない暑さで目が眩む。見るからに熱そうな手すりは触らずに階段を下りていく。「こないだ配信でブラック観てたんやけどさ。」「ブラック?」「仮面ライダー。」「古っ。」和樹は映画や音楽の趣味が総じて古い。そのせいか昔からクラスで友達ができにくいタイプだったが、大学で信哉と出会って初めて音楽の話で盛り上がった。信哉の母親は若い頃44マグナムの追っか
2023年7月22日 13:08
「あっついな…」「おう、暑いな。」8月上旬のうだるような暑さでソファに転がる物体が二つ、うわ言のように呟いている。先ほどから口を開けば同じことを言う。「あっつ…」「うん。」奥に転がっている物体は和樹、手前のは翔。共に今年岡本学園大学に入学したばかりの華の1回生である。そして今は最初の夏休みをまさに謳歌している。そんな2人を何となく部屋の外から観察すること30秒、未だに入口に立つ信哉に気が