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Today’s Story & Sweets - マージナルby萩尾望都×オレンジ・トルテ

今年、1月にヨーロッパで最大級の漫画の祭典でもある《アングレーム国際漫画祭》で、特別栄誉賞を萩尾望都氏が受賞した。

そのニュースを見た時から読み返したいと思いつつも、なかなか読めずにいた作品がある。

マージナル(文庫版)全3巻だ。

遠い未来、汚染された地球は生殖機能を失った男性ばかりの社会、管理センターで完璧に支配された人々。
その不毛の地でたった1人の女性聖母マザの存在と、科学者によって生み出された希望の少年キラ。そしてキラに愛情を持つ、マザ暗殺グループの1人であるグリンジャと旅の途中知り合うアシジンという2人の青年。

色々な人の思惑が渦巻き幾重にも重なりながら進む物語は終盤、地球の見た夢の中に読者を一気に引き込んでいく。

個人的には萩尾望都作品の中でも1、2を争うぐらい好きな話なんだけど、この物語を読むには気力と体力が充実していないと、その奥深い話の真髄に辿りつくのはなかなか難しい。

さすがに1月当初は、自律神経がかなり遠方へ出張(失調)中のせいで、結局1冊も読破しないまま放置してしまったけど、最近になってようやく全3巻を読み返すことが出来た。

少女漫画の神様と称されるのも頷けるぐらい、彼女の描く美しく壮大なスケールのSFファンタジーは随分古い作品ながら、全く色褪せることなく、今読んでも新鮮にその世界観に没入してしまうほどの吸引力に満ちている。

この物語を読むとドイツ菓子が作りたくなる。

少女漫画のイメージはキラキラしたオシャレなフランス菓子が似合うと思うのに、何故か萩尾望都作品においては全くそのイメージが湧かない。
いや、これはあくまで個人的な感覚で、ジャンル的には、紛れもなく少女漫画なんだけど…

ドイツ菓子と聞くと、一般的にはバウムクーヘンやフランクフルタークーヘン。もしくはクリスマスシーズンに定番化しつつある、シュトーレンのイメージがいまだに強いように思う。
要は、シンプルで重厚感のあるケーキ。

実はそれだけではなく、ドイツ菓子は色々な近隣国の影響を受けつつ、独自の気候風土に根差した味覚と視覚を基盤にドイツ菓子として発展させて来た背景があり、とても緻密にバランスが考えられているケーキが多い。

その整合性が萩尾望都作品と相性が良いと感じてしまうのかも知れない。

文化の異なる複数の集団に属しながらも、そのどれにも完全には属さずに、境界にいる人をマージナルと呼ぶらしいが、それはまさしくドイツ菓子の歴史にも通じる気がする。

ドイツ菓子にハマるきっかけになったのが、爽やかなオレンジを使った《オレンジ・トルテ》なんだけど、少しアレンジして作品のイメージに合わせて作ったのが、題名そのままに《オレンジトルテ・マージナル風》なるもの。

オレンジトルテ・マージナル風

土台はドイツのトルテでは特徴になっている練り込みパイ、いわゆるシュクレ生地を敷き、そこに浮き粉入りのスポンジ生地、オレンジの果肉に白ワインムース、さらにビターチョコレートクリームに、オレンジの果肉入りゼリー、しっかりと泡立てた生クリームと、幾重にも重なる層が味に深みを持たせ絶妙なハーモニーとなって甘すぎず、濃厚な美味しさになった。

タルト生地にジェノワーズ、白ワインのクリームにチョコレートクリームと何層にも重なっていても、甘すぎず食べやすい。

重厚な物語に深い味わいのケーキは現実の混沌とした迷いの中から逃れて、ひと時地球と共に夢の世界に浸たるにはピッタリかもしれない。

熱いコーヒーとともに。

(Nekozawa23)

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