映画「浅田家!」今と未来を見つめる優しい眼差しを私は決して忘れない。

中野量太監督の「浅田家!」の優しさは

今、日本中、いや世界中の多くの方に必要だと思う。‬

Q-One シネマエッセイ
映画「浅田家!」今と未来を見つめる優しい眼差しを決して忘れない。


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※予告編や公式サイト情報以外のネタバレはありません。

【あらすじ・キャスト】

無茶で奔放だけど人間味溢れた写真家・浅田政志(二宮和也)は、カメラ好きで主夫として家族を支える父(平田満)と、背中をそっと押してくれる看護婦の母(風吹ジュン)、やんちゃな弟を見守り、力になってくれる兄(妻夫木聡)を巻き込んで“家族がなりたかったもの”“家族でやってみたいこと”を撮影して、思わず笑みがこぼれてしまうユニークな《家族》写真集「浅田家」が生まれる。
プロの写真家を目指す政志は家族や幼なじみの若奈(黒木華)の支えもあり写真界の芥川賞とも割れる木村伊兵衛生を受賞する。その後「あなたの家族写真(どこでも)撮りに行きます!!」と様々な家族の写真を撮り始め、奇跡の家族写真を紡いでいく。
そして東日本大震災の東北の姿を目の当たりにした政志は、津波で泥だらけになった写真を洗浄し持ち主に返すボランティア活動に参加し、大学院生の小野君(菅田将暉)など作業に励む人々共に、より大きな《家族の絆》《写真が持つチカラ》に気づいていく。

私は映画を観終わった後、しばし放心状態だった。

ただ屋外の空気に触れて気がついた。

なぜか視界がくっきりしているように感じ

そして街が活き活きと鮮やかに見えて

行き交う人たちが何とも愛おしく感じられるような不思議な感覚。

景色が変わるはずはなく

でも見える景色が変わって見える。

それはある人の眼差しを

心に焼き付けたからかもしれない。

写真家の浅田政志を演じた二宮和也の眼差し。

思えば二宮和也という役者にはいつも特別な眼差しがあった。

イーストウッド監督作「硫黄島からの手紙」で見せた虚空の眼差し。

「母と暮せば」で見せた切なくも無垢な眼差し。

「浅田家!」では彼が今まで見たことのない眼差しを見せてくれる。

幾つもの喜び、悲しみ、慈愛に満ちた眼差し。

家族の想いを一身に受けファインダーを覗く時。

東日本大震災のあの姿を目の当たりにした時。

津波で泥だらけになった写真を洗浄している時。

そんな彼の眼差しと共に

彼を包む家族や仲間の眼差しもまた温かい。

浅田家の長男で政志の兄を演じた妻夫木聡。

弟に振り回され「困った奴だ」と思いながら

憎めない弟を何かと全力で手伝う兄 笑 

等身大の兄を自然に想いを滲ませて演じる

妻夫木聡が素晴らしい。

母役の風吹ジュンの優しく大きな

何という晴れやかな存在感。

夢に走る政志にその‘重み‘を諭しながらも背中を押す姿にぐっとくる。

そして父役の平田満からは癒し感が溢れて

ひとしお息子たちへの愛の深さが沁みるが

私は政志が父と2人で語らう場面が好きだ。

「父ちゃんは、なりたかった自分に、なれとんの?」

「ん~ん、全然なれとらんなぁ…そやけど、今の父ちゃんにも誇れることはある。息子二人を、健康に育て上げたことや…政志は、なりたい自分になれたらええなぁ」

なりたかった自分になれた人も

なりたかった自分になれなかった人も

自分の人生を丸ごと愛して楽しんでいく。

全ての人の人生を肯定してくれる優しい物語。

政志の幼なじみの若菜を演じた黒木華や

出版社社長の池谷のぶえも政志の写真に

「いいものはいい!」と信じ抜いてくれる。

そんな「人を信じる力」が奇跡を呼ぶ。

政志と共に津波で泥だらけの写真を洗浄し持ち主に返す青年役の菅田将暉は

最初、彼とは気づかないほどいつもと全く違う表情、雰囲気で改めて凄まじい役者だと思った。

あの場で感じた’喪失感と無力感’が全身に滲む彼の深い嘆きに心が震えた。

また共にボランティアをする渡辺真紀子も「チチを撮りに」から中野量太監督作品には欠かせない人間味溢れた力強い印象を残す。

津波で行方不明の娘を探す父親の北村有起哉や、震災で父を失った少女もまた素晴らしい演技を魅せ心が鷲掴みにされる。

あの日の無数の方々の想いが心から溢れて、嗚咽を止められなかった。

そんな「浅田家!」の家族や、写真に撮る家族や、被災地で出会う方々との絆を紡いでいく彼の姿を眺めているうちに

力がすっと抜けていくような感覚になった。

忘れがちではあるけれど、いつも家族に守られながら生きていた。

ただその想いを大切に、その想いに触れて、繋げて生きて行けばいい。

そんな風に言われたような気がした。

コロナ禍において

以前のように上昇志向だけでは前には進めない。

いったい私は何がしたかったんだろう。

自分の一番大切なものって何だったんだろう。

幾度ともなく浮かんだ問いにすっと答えが出たような気がする。

浅田家では“家族写真の撮影”を心底楽しんでいる。

たとえ写真集が誰の目にも触れなかったとしても

かけがえのない時間は決して色褪せるものではないだろう。

コロナ禍の後、そんな家族の何気ない時間が

決して当たり前のことではないことがわかってしまった。

だから彼らの日常が余計に愛おしく心を揺さぶる。

どうなるか先が見えない世だからこそ

いつ会えるかわからない家族に想いを寄せて

希望を抱いて今を思い切り楽しむこと。

「浅田家!」は今、まさに観て欲しい映画だ。

きっとあなただけの眼差しが見つかる映画

劇場を出る時にどんな場面が脳裏に焼き付けられるだろうか。

映画の場面や過去の記憶がオーバーラップして

幼かった頃のこと。

家族との思い出。

見果てぬ夢。

きっとあなたにとって一番大切なものが

心の奥の深いところの真ん中で

シャッター音が鳴り響いて

永遠の記憶として焼き付けられるはずだ。


「カシャッ!」




最後に個人的なものではございますが

写真を撮るのが大好きだった父の写真をいくつか掲載させて頂きます。

先日父は、中野量太監督の「長いお別れ」をしみじみ観ていました。

残念なことに難病で劇場には行くのが難しい父ですが

本当に優しい素晴らしい写真を撮るので、息子としてはまた撮って欲しい。

いつか「浅田家!」を父と一緒に観て

もう一度父がシャッターを押す日がくるように。

願いを込めて、ささやかな父の写真展です。


元日の午後

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冬ごもり

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雪どけ

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春堰

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コスモス

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もぐら

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へび

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みみず

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梅雨の晴れ間

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ハンティングワールド

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ピアス

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ターゲット

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憩息

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台風一過

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台風一過2

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台風がすぎて 水たまり

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対岸の街並み

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ひこうき雲

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放課後

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秋穀

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ジュデッカ運河1

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ジュデッカ運河2

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サンマルコ広場の月

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夜のゴンドラ

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落日

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野に遊ぶ神々

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回廊にて

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天高く

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恍惚

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※私のお気にいり写真のラスト5枚は大きめなサイズで貼り付けてます。


町一番のさくら

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みこし

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台風が過ぎてーやなぎ

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台風が過ぎてー鬼ごっこ

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どちらへ

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「『浅田家!』の劇場この辺のはずだけど、、、」


※シネマエッセイと父の写真展ご覧頂きまして、ありがとうございます🙇‍♂️

季節の流れに添って、父の写真を並べていく中で

どうしても最後はあの亀の写真だなと自然にラストを飾りました。

すると父親から私にメッセージが入りました。

あの亀の写真のタイトルは「どちらへ」

元は「Quo Vadis」(クォ・ヴァディス)というラテン語で

「主よ、いずこへ」(あなたはどこへ行くのか?)を暗喩しているとのこと。

元は新約聖書「ヨハネによる福音書」から引用されたこの言葉は

その後ポーランドの作家のヘンリク・シェンキェヴィチの歴史小説「クォ・ヴァディス」に主題として小説に引用され有名になり2度映画化され、

1951年にはマーヴィン・ルロイ監督、ロバート・テイラー、デボラ・カー主演映画でアカデミー賞作品賞含む7部門にノミネートされた名作だということを教えてくれました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%A9%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9

その後父から「浅田家!」がワルシャワ映画祭(ポーランドの首都)に出品されたニュースを見て

不思議と全て繋がってるんだなぁ。

と密かに興奮して連絡がありました。

「浅田家!」がワルシャワ映画祭を皮切りに世界中に広がっていくことを予兆しているような父の発言はきっと現実になることでしょう。

さて「浅田家!」はどちらへ

どこまで行ってしまうのか。

そして

私たちはこの時代をどこに向かっていくのか。

その’サイン’はきっと「浅田家!」を観た

あなたの心の中にハッキリと写るはずだ。



※映画の感想や写真に関して

何か感じるものがありましたら

是非コメントお待ちしています✨☺️✨

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世界に愛を届けるシネマエッセイストのクワン Q-Oneです。皆さまにとって、心に火が灯るような、ほっこりするような、ドキドキするような、勇気が出るような、そんな様々な色のシネマエッセイをこれからもお届けします。今年中に出版を目指しています。どうぞ末長くよろしくお願いします✨☺️✨