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韓国語と朝鮮語。ある知合いとの対話

 ちょうど1年くらい前、参議院選挙がありましたね。ぼくがどの党に投票したかわかりますか?わからないでしょう。ぼくもあなたがどの党に投票したかはわかりません。

 政治と宗教の話はしない。特に職場において。ひとつのマナーとしてよく言われることですね。ノンポリ。このノンポリということばも今や死語に近いですが、普段付き合っていて、政治性が明らか丸わかりな人ってなかなかいないですよね。

 かつてはそうではありませんでした。ぼくやあなたが生まれる前、学生運動が盛んな頃には、左翼の人たち独特のことばが生き生きとしてありました。例えば「総括する」などという表現があり、対極として右翼の人たち独特の表現もありました。そしてそれぞれが、その独特なことばを口にし、時に叫んだものでした。多くの人が自分の政治的立ち位置を表明することに何ら躊躇しませんでした。そして対立、議論することも。

 今でも垣間見えないことはないのです。例えば安倍総理がいい例でしょう。普通に総理と呼ぶ人もいれば、憎々し気に「アベ」とわざわざカタカナで書き、呼び捨てにする人もいます。アベと口にする人を見ると漠然とですが、ああこの人はこの前の参院選挙は立憲民主党か国民民主党か、れいわ新選組か共産党に入れたのかなと思いますよね。

 右翼と呼ばれる人たちもいます。彼らのことばづかいというのは実に独特です。ぼくが出会った、右翼の中でもかなり純度の高い人たちのことばづかいは実に頑なで、また新鮮でした。ある方が「ニッホウキョウ、ニッホウキョウ」と何度も口にするのです。ニッホウキョウ=日本放送協会=NHKの略だと気づいたのは、その方が話を始めてしばらく経ってからでした。帰りに彼らの機関紙を頂いたのですが、そこには博物館に飾っておきたいと思うほどの、かつてはよく聞かれた、しかし令和の時代の日本ではなかなか聞かれない純度の高い政治性に包まれたことばが、それは絢爛豪華に散りばめられていたのでした。

 Twitterを始めとするネット空間ならさらに政治性が見えてきます。直接的なことばではなくても、リツイートする発言や、相手からその人の政治的な立ち位置が見えて来ますね。

 でもそれについては触れない、議論しない。まぁ色々あるやねとそっと蓋を閉じて政治性を抜きにしたつきあいを何気なく継続する。それが多くのぼくやあなたを含む日本人の姿ではないでしょうか。特にぼくは政治性の純度の高いことばや、政治的意識の高い人と触れると、その偏りに疲れることが多く、ここ数年で自分と合わない多くの付き合いを絶ってきましたが。

 あなたがぼくにした韓国語と朝鮮語の違いは何かという問いに答えましょう。まずは方言。そして、分断されて70年以上経ったことによる変化があります。時間による変化に加えて、細かい発音の違い、外来語などが混ざりこのことばは北と南で独自の変化を遂げています。

 そして政治性の有無。これが肝です。韓国において北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国のことを「朝鮮」「共和国」と呼ぶことは、かなり危険なことです。「偉大なる金正恩同志におかれては~」などと口にしたら国家保安法違反、真面目に通報されてしまいます。国家保安法違反者を通報すると、昔は多額の賞金が出たそうです。今は腕時計になったと聞きました。

 だからそこは北韓でないといけない。北韓以外の答えはない。そして金正恩委員長。せめてそこで止めなければならないですね。

 数年前に殺害された金正男氏は、日本人ジャーナリストとのやりとりの中で「北韓」ということばを使っていたそうです。これは字面以上に衝撃的なことなのです。金正男氏がただ粋がって「北韓」を使っていたとは思いません。これは彼の、祖国とその政権への距離感を如実に表明したものと言えるでしょう。国名ひとつに、自分の政治性を表明するのです。

 逆に北朝鮮では韓国のことを「南朝鮮」と呼び、「偉大なる金正恩同志」と呼ばないとまずい。「韓国」はまだ「無識な外国人だからしょうがない」と数回は赦されても後者はダメ。「金正恩」と呼び捨てにしたら面罵される、少なくともその人との関係性は破綻してしまうでしょう。

 あなたは「愛の不時着」をきっかけに韓国語を学び始めたとのことですが、素晴らしいきっかけだと思います。ドラマをきっかけにその国のことばを学ぶことは、韓国に限らずどの国のことばでもよくあることですし、長い目で見れば両国のいい関係にも繋がるでしょう。

 ただこのことばは常に政治性を問われること。ドラマにしても同じく、ただ娯楽として見て消費するのではなく、そこには政治性が含まれ、また問われているということは忘れてはいけません。このドラマは今の政権、文在寅政権だから出来た、前の朴槿恵政権では決して作り得なかったドラマだとぼくは思います。それをふまえた上で見てみましょう。主人公のふたりが北と南を行き来する姿を、政治的な視点を意識しながら見ると、違和感やより深い面白みを感じることが出来るはずです。

■ 北のHow to その72 
 「愛の不時着」。「梨泰院クラス」。コロナウィルスによる巣ごもり需要を端緒とする韓流ブームが、ぼくの周りでも起こっています。それをきっかけに朝鮮・韓国語を学ぶ人もいるようで、ここ最近、複数の方から北と南のことばの違いや「愛の不時着」の感想を求められました。ことばもドラマも日本からは失われた、むしろ口にしない、聞かないようにして来た政治性が常に問われるものというところに大きな違いを感じます。それを分断の悲劇と見るか、面白さと見るかは人それぞれですが。

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