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読書感想文

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ネタバレありです。
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2024年2月の記事一覧

「病菌とたたかう人々」(宮本百合子)

 隔離されていたハンセン病患者が書いた文章が書籍になった際の書評として書かれています。検索してみると、文中に出てくる松山くにという女性と「春を待つ心」という書籍は実在していました。特殊な環境に置かれた人の文章をどう扱うべきか、もてあましている様子です。また、話題にすること自体に意義を感じています。
 発行されたのは1950年で、テレビ放送も始まっていません。現代のように自分で発信しやすい環境という

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「百花園」(宮本百合子)

 写生をしている人や短歌を詠んでいる人がいる光景を文章にした作品です。百花園は東京にある向島百花園のことでしょうか。私は行ったことがない場所なので興味が湧いてきます。秋の百花園は活気があり、親しまれていたようです。名物の萩のトンネルも当時からあったようで、私には遠い場所ですが行ってみたくなります。

「人形使いのポーレ」(シュトルム)

 家族で旅をしているリーザイと鍛冶屋の息子パウルが子供の頃に出会います。とても仲良くなりますが、家庭の事情からリーザイは旅立ちました。12年後に運命的な再開をするシーンはとても感動します。
 リーザイは旅をしながら生活しているのでロマと思われます。差別を受けていたこともあり、父親が投獄されたのもなにか理不尽があったかもしれません。なにはともあれ、育った文化が違うパウルとリーザイが幸せになれて良かっ

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「今世風の教育」(新渡戸稲造)

 書かれたのは1903年でありますが、学校教育が試験のための勉強でしかないというのは共通しています。表面だけ記憶して理解したふうになっているだけの人は変わらず存在していたようです。特に研究者などは試験の成績というよりも未知のものを解明しようとする仕事なので、普通の教育とはまた違った経験が必要というのは理解しやすいです。環境がないので自分でやるしかないという話になっていますが、今でもあまり変わってい

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「教育の目的」(新渡戸稲造)

 私は学生だった頃は授業が面白いものという記憶はあまりありません。多くの人もそうだと思いますが、役に立ちそうにないとおもっていました。新渡戸稲造のすごいところは教育を楽しいものにするべきではないかという提言をしているところです。

 現代でも学問を道楽にしているというのはあまり聞きません。今後学ぶことが楽しい社会になっていくように願います。

「デルタの秋」(フォークナー)

 ミシシッピ河とヤズー河に挟まれた三角州で狩猟を行う話です。主人公はここに来るつもりではなかったようですが、心残りから訪れました。恋の話や当時の政治家の話も出てきますが、社会的な話よりも自然と人間の関係が前面に出てくる印象です。
 自然の描写が美しく、キャンプに出かけたくなる作品です。自然の中で人間が溶け込んでいるような雰囲気で、野生のなかでの緊張感も感じられます。

「エミリーへのバラ」(フォークナー)

 一度読んだときはエミリー・グリアソンという女性が父親の死体と何十年もの間同居していたという恐ろしい話で、それ以外の内容が吹っ飛んでしまいました。
 物語の途中、すでになにか様子がおかしくなっているエミリーの描写があります。税金問題や悪臭によるいさかいがあり、薬局でヒ素を買うこともありました。恋人が去っていったのも父親の死体を見て恐ろしくなったのでしょう。終始エミリーの心理が理解できない話で、周囲

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「三色すみれ」(シュトルム)

 ルドルフは前妻と死別し、イネスという女性と再婚していました。ルドルフと前妻の間にはネージーという娘がいて、イネスは母親として見られていないことを悩んでいます。イネスの苦しみももっともですし、ネージーにとって母親は前妻の方であったのも事実なのでとても難しい問題です。悩みながらも最後は良い家族関係を築くことに成功します。こういった親子関係を綴った物語はとても新鮮な気がします。

「みずうみ」(シュトルム)

あらすじ

 ある晩秋の午後、身なりの良い老人がある家で立ち止まりました。家に入った老人はある絵を見ると回想し始めました。

 ラインハルトはエリーザベトと恋仲でしたが、大学生になって離れ離れになってしまいます。イースターで帰省した時にエリーザベトと再会しますが2人の間には見知らぬものがあるように感じます。

 2年後、学業にいそしむラインハルトのもとに母からエリーザベトがえーりひと結婚するという

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「熊」(フォークナー)

 印象に残ったところは、

 という文です。1940年代のアメリカでこういった文を掲載できているところがアメリカらしいところだと思います。人種差別があっても表現の自由は担保されていると感じられます。

 6年間猟師の修行をしてたくましくなった「彼」と「オールド・ベン」と呼ばれる熊の話です。言い回しや表現がとても難しい。なんども読んでいるうちに面白くなってきます。自然に対する考え方を問われているよう

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「古老たち」(フォークナー)

 アメリカインディアンの文化はあまり知らないので新鮮に感じます。少年が一人前になるために狩猟を教わっています。少年の焦りや緊張がわかりやすく表現されています。サムと少年は祖父と孫のような関係性で、独り立ちの準備期間として早めに厳しくしているような雰囲気もあります。
 アメリカインディアンの話ですが、ライフルが使われるようになった時代の話なのでイメージと違ったところもあります。

「青い鳥」(メーテルリンク)

 メーテルリンクの作品で一番有名な、チルチルとミチルが妖精のベリリュンヌに頼まれて青い鳥を探しに行く話です。貧しい生活をしているチルチルとミチルにとっての幸福とは何なのかというのは難しいものです。たいていの悩み事はお金があれば解決できてしまいます。印象的なのは「幸福の花園」の場面です。青い鳥は幸福の花園にはいません。あらゆる贅沢ができていて、幸福であるはずの世界に精神的な幸福がないという強いメッセ

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「ローマの眺め」(メーテルリンク)

 他者の視点でローマを見ることができるところが私にとっておもしろいです。文章にも関わらず映像や写真と違ったものを感じられるというのはすごいことだと思います。ローマを歩いたときの空気、文化の蓄積を伝えてきます。ラファエロやミケランジェロの芸術に「いたる所から押し寄せる、ただ生まれることだけを要求する、隠されたままの、やむにやまれぬ形態を選択し、定着させればよかったのだ。」という発想には驚きました。人

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「ある子犬の死について」(メーテルリンク)

 飼っていたブルドッグの「ペレアス」に対するエッセイです。読んですぐに愛犬家であることが伝わってくる文章で、わずか6ヶ月で死んでしまうまでの思い出が綴られています。

 メーテルリンク自身「ペレアス」のことをよく観察していて、見た目から穴を掘っている様子、他の動物との関係性を人間的な解釈をしているように思います。夜の様子を表現した部分は名の通り騎士として見ているところにユーモアを感じました。