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読書感想文

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2023年11月の記事一覧

「日日平安」(山本周五郎)

井坂十郎太は江戸に向かう途中、切腹しようとしている菅田平野と出会います。菅田は同情を誘って借りようとしたのですが、介錯してやると返されて狼狽します。そんなコントをしているような出会いから始まります。
井坂十郎太の国許では政争が起こっています。百性や町人が苦しんでいるのに、十郎太の伯父である陸田は城代なのに何もしてくれません。悪政の原因である者達は十郎太が江戸に向かったのを知って、伯父を拉致しま

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「彩虹」(山本周五郎)

樫村伊兵衛は鳥羽藩の筆頭年寄で、藩の重臣にあたります。実直な性格で、間違ったことができない性格です。色恋にはうといようで、料亭の娘の、さえの気持ちには全く気づいていません。勉学を終えて江戸から戻って来た脇田宗之助にもすぐに気づくようなことですが気づきません。脇田が嫁に欲しいとプレッシャーをかけますが、最後まで気づきません。さえが思わず口に出した言葉でやっと理解します。脇田がとても良い友人だなと思

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「七日七夜」(山本周五郎)

本田昌平は旗本の四男で、いつもなにか我慢しています。侍は体裁を気にして生きていかないといけません。使用人以下の扱いが続いて自制心の限界がきてしまいます。兄嫁からお金を奪って家を出ていきます。七日間遊び歩いてお金は底をつきます。人生何が起こるかわかりませんが、最後にたどり着く居酒屋の店主とその娘の千代は善意にあふれた人で、ずぶ濡れになった昌平を気づかってくれます。熱で錯乱している昌平を助けてくれる

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「晩秋」(山本周五郎)

ある日、中村家をしている都留(つる)は、進藤主計(しんどうかずえ)の身の回りの世話をするよう言いつけられます。都留の父親は進藤主計が行っていた政策を止めようとして切腹させられていました。
進藤主計はとても不器用な人で、味方も少なかったと思われます。生涯をかけて役目に取り組み、最後まで正しく評価されません。必要なことだと言われても納得できないところは政治の世界の理不尽さがあり、もやもやします。

「夢」(萩原朔太郎)

現在でも謎の多い夢をみる現象の話です。夢への情緒を大事にした話になっていておもしろいです。祖先の古い生活経験からくるものという説も興味深いものです。
夢が現実的でないのは連続していないから、というのはとても納得できるところです。夢が毎夜続くものなら現実と区別がつかなくなるでしょう。支離滅裂なものだから夢はおもしろいと思います。

「月の詩情」(萩原朔太郎)

昔から月を題材にした詩や俳句、歌は世界中で親しまれています。文化が違っていても悲しみが伴う表現が多い所が普遍的なものとして受け入れやすいです。近代になってから月の存在感が薄れていきます。天文学が発達して神秘性が失われたことや、電灯によって夜が明るくなったことが原因です。現代で月の魅力を見つけづらいのも納得です。

「喫茶店にて」(萩原朔太郎)

作者と大阪の友人が喫茶店で話をしています。ゆっくりした時間を楽しんでいる人とせわしなく働いている人との対比がおもしろいです。100年前と比べると現代は時間に余裕がある人が多いと思います。もっとのんびりとした時間の使い方を探したくなります。理想を求めすぎるとそれはそれで不幸になりそうではあります。

「石段登りの街」(萩原朔太郎)

伊香保はどんな所ですか、と問われてはっきりと答えるのは難しい。東京から近い山の温泉で、鳥の鳴き声がよく聞こえる自然豊かな場所です。田舎っぽさが少なく、全体的に女性的で中庸な温泉街です。友人からの評価は可もなく不可もなくでした。
私には伊香保温泉は馴染のない温泉街です。パッと出てくるのは城崎や有馬、地元に近い場所を思い浮かべます。知らない場所を紹介されている感じで、読んでいて新鮮な印象があります

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「秋と漫歩」(萩原朔太郎)

萩原朔太郎は四季のうち、秋を好んでいます。趣味娯楽を持たない作者にとって唯一の娯楽で暇つぶしである漫歩に適した季節だからです。一日中外で歩き回ったり、公園や停車場のベンチに何時間も座って人間観察をしていたりします。
漫歩とは目的をもたずにそこら辺を歩くことです。散歩よりも目的が無い状態を言います。読んでいて一番羨ましいところは時間を自由に使えるところです。休日が少ない身なので時間を気にしない一

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「虔十公園林」(宮沢賢治)

いつも笑って森や畑を歩き回っている虔十は、子どもたちからバカにされていました。虔十は素直で親に言われたことは何でもやります。ある日虔十は杉の苗を買ってくれと頼みます。これまで何も頼んでこなかった虔十の頼みだからと両親は買ってくれました。家の裏手にある野原に杉の苗を植えるときは兄が手伝ってくれました。杉は八年経っても3mくらいにしかなりませんでしたが、子どもたちの遊び場として使わ始め、虔十の死後も

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「水仙月の四日」(宮沢賢治)

赤い毛布にくるまったひとりの子供がカルメラ焼きのことを考えながら歩いています。その子に二匹のオオカミを連れた雪童子が遭遇します。人の目には見えない雪童子は子供にヤドリギの枝を投げてからかいます。子供は不思議に思い枝を拾います。子供は家に帰ろうとしますが、天候が悪くなり雪ばんごがやってきます。吹雪の中で子供は眠ってしまいます。夜が明けて雪童子は昨日からかった子供を助けてあげます。
自然の厳しさと

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「雪わたり」(宮沢賢治)

雪が積もり、固まるくらい残った日、空は晴れていて日光で雪は輝いています。四郎とかん子は外を歩き回っているときつねを見つけます。出会ったきつねから幻灯会に誘われます。きつねの幻灯会の日、時間通りに行くときつねたちに歓迎されます。
寒い中でも外に出て行きたくなる楽しい空気か漂っています。雪原のまぶしさや美しい月夜、自然の描写を読んでいて飽きないです。きつねたちの優しい世界もとても良いところで、四郎

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「よだかの星」(宮沢賢治)

みにくい鳥のよだかは周りの鳥から一緒にいるのも嫌がられています。鷹には名前を返せなどと理不尽な事も言われてしまいます。何もかもが嫌になってしまったよだかは星になろうと空に旅立ちます。
よだかが旅立つ場面の深い悲しみが込み上げてきます。生きている者を食べて生きている自分を、食物連鎖の運命を儚んで死を選ぶのはとても人間的で現世に絶望している。よだかがカシオペア座の隣で輝く星になり、美しくなっているの

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「どんぐりと山猫」(宮沢賢治)

ある日おかしなはがきが主人公の一郎に届きます。一郎はワクワクしながら送り主の山猫に会いに行きます。山に入り、くりの木や滝など色々な相手に山猫の行方を聞きながら山の中を進んで行き、山猫に会うことができました。山猫に話を聞くと、どんぐりの中で誰が一番偉いのか争って収拾がつかなくなっています。一郎は機転を利かせてすぐに解決してしまいます。
一郎のはがきが届いて嬉しがっていたり、前日からワクワクして

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