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【小説】ダイアログ

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小説「ダイアログ」全7話
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【小説】ダイアログ(1)

【小説】ダイアログ(1)



 助手席に座ってから四十分が経過した。そろそろ朝日が昇ってくるみたいで、真っ暗な深海から浮上していくみたいに空の色が黒い青に近づこうとしている。今は水深何メートルくらいだろう。プランクトンの光合成限界点だかについてやってたのは、地理の授業だっけ?生物?なんて考えていたら、後ろから「この隙間かな?」という父の独り言と、折り畳まれた焚き火台がコンテナの間に押し込まれて擦れる音が聞こえてきて、もう

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【小説】ダイアログ(2)

【小説】ダイアログ(2)

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 机に空いている小さな穴に、定規の角を刺してみる。対角を人差し指で抑えてクルクル回してみると、窓ガラスから斜めに切り込む銀杏みたいな黄色の日光に透かされた、ブルーハワイ色の影が机の上を踊る。キラキラと回るそれが、昔母と一緒に見た青い衣装のバレリーナを思い出させて、段々と脳みそが痒くなってくる。十回目を回ったところで、パタリと定規を倒した。

「何?今の」

 隣の席のミヤコ

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【小説】ダイアログ(3)

【小説】ダイアログ(3)

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 三

 気付くと車は停まっていて、運転席には誰も座っていなかった。窓の外に目をやると、グレー掛かった寒々しい雲が空一面に広がっていて、この三時間ちょっとの間で季節が先に進んだのを感じた。手続きを終えてセンターハウスから戻ってきた父がドアを開けると、早朝の空気と同じくらいの清涼な塊が一気に車内を駆け抜けていった。思わず肩を上げたけど、「うう、寒いーっ」と恐らく実感している寒さ以上

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【小説】ダイアログ(4)

【小説】ダイアログ(4)

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  四

 私の見た最後の母は、いつも通りの優しい笑顔だったように思う。またランドセルの蓋が開いてるよと、靴紐を結ぶ私の後ろから声がして、パタパタとスリッパの音が軽やかに近付いてくる。そのまま立ち上がる頃には音はすぐ近くまで来ていて、私の背後でピタッと止まる。つんっと肩に力が加わるのを感じると、ランドセルの蓋のマグネットがカチッと音を立ててくっつき、またカチッと鳴って錠がかけられ

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【小説】ダイアログ(5)

【小説】ダイアログ(5)

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 今日のお弁当はいつもの焦げ多めの卵焼きと白米、昨日の残りの餃子という組み合わせだ。ふりかけは鮭で、袋を開けると本当に鮭だけの色なのか疑わしいくらい鮮やかなピンクが、結露で濡れた白米の表面に散りばめられた。ここまではいつも通りだけど、今日は更にトマトと玉ねぎのマリネを餃子の横に少しだけ添えてみた。もちろん私が作ったものではなく、父が自分のお弁当用に作り置きしているものを勝手

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【小説】ダイアログ(6)

【小説】ダイアログ(6)

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 六

 センターハウスの横にある建物は宿泊施設になっていて、大浴場も併設されている。テント泊の客も別料金を支払えば使用可能で、夕飯を食べ終えた後、私達はそれぞれ入浴の支度をして大浴場へと向かった。道すがら、父は「ご飯食べた後だとそこまで寒くないね」だの「空いてるといいなぁ」だの口にしていたけど、当然のように私は返事もせず、父の斜め後ろを無言で歩いていた。この後、夜遅くまで焚き火

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【小説】ダイアログ(7)

【小説】ダイアログ(7)

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 七

 前にも来たことがあった気がする、ここ。もっと視線が低かったから小さい頃だろうけど、今高い目線から見えてるから現在の私がここを歩いてる的な?表参道のほうが原宿より好きなんだよね。だって人多くない?あと最近若い子増えて居づらい。え?いやいや、もうババアだって高校生なんて。だって中学生女子のキラキラまじでまぶしくて目潰れるよ?てか、隣にいるのママじゃん。死んでどんくらい経つっ

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