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CASE1:なくした写真

「探し物をしてます」
届く一通のDM

『詳細をどうぞ』
返事を送るとすぐにポポッという通知音

「なくしてしまった写真を探してます」
『条件は知ってますよね?』
「はい」
テンポよく進むやり取りで
”この人は知っているんだな”
って察する

なら話は早い。

『お支払いはpaypayでお願いします。金額は1万円で』
「わかりました」

こう”物分かりがいい”人は楽。
無駄なやり取りをしなくて済むのはお互いに好都合で私は好き。

『〇月×日場所は上板橋の北口、15時でお願いします』
手元で入金の確認が取れると
日付と時間を指定してその日のやり取りは終わり

迎えた当日
待ち合わせは15時。だいたいこのくらいの時間がちょうど空いてて丁度いい。それでも電車の中の他人の話声が耳障りでヘッドホンが手放せない。再生してる”オーバーライド”の音量をあげて、それをひたすらループ再生して歌詞を頭の中で口ずさむこの時間が色々とメンドクサイ事を忘れられて私は好き。

待ち合わせ場所の北口に到着すると自分と同い年くらいの女子高生の姿。たぶんあの人だろう…って思いつつもちょっと不安なのでDMをささっと送ってみると同時に相手もスマホを取り出す仕草。どうやら今回の依頼人は彼女で間違いなさそうだ

『×××さんですか』
後ろから声をかけるとビックリしつつ振り返って
「!!…ええ、そうです」
『はじめまして”さな”です』
明らかに動揺している相手の反応
そりゃあそうだ。普段からやり取りしている中でもなく
SNSでパパッとやり取りした相手だ
アイコンが”女っぽくても”性別が女性なんて思わないだろうから
だいたいビックリされる

「女性なんですね」
いやいや。。。男性だったら躊躇してたのか?
『お店の中にどうぞ。予約してますので』
そうして二人で星乃珈琲に入っていった

『私は決まっているからあなたがあとは選んで』
ってメニューを手渡すと
「ありがとうございます」
決めている間に店内を眺める
落ち着いた店内と、半個室の席があるので私はこのお店が好き。

「決まりました」
店員さんを呼ぶと
『私は豆乳紅茶オレはちみつ入りのアイスで』
「アイスロイヤルミルクティーで」
注文を済ませたところで改めて”依頼主”に挨拶をした

『”さな”です。よろしくお願いします』
「”×××”です。いや…本名じゃないとわからないんですよね?」
『そうです』
相手の”わかる・わからない”と言っているのは私の能力の話

私は人を見るだけで
”その人の過去”
を見る力がある

いつどういう形で身に付いたのかはわからない。
だけど、中学生ぐらいになってから自分で”わかる”ようになってた。ただし、わかるには条件があって

”相手が私の顔と名前を知っている”
”私が相手の本名を知っている”
”その相手と目を合わせること”
この3つ

つまり、私は依頼者と直接会わなくちゃいけないし
私の”名前”を伝えなくちゃいけないし
逆に相手は自分の”本名”を伝えないといけない

結構ハードルがある能力だ

まぁ、”私の名前”って言っても
ハンドルネームとか適当なものでいい
だから私はいつもSNSの名前をそのまま伝えている
”今は”名前を”さな”にしている

それに私が知れるのは
現時点から2か月前までの期間のみ
という条件付き

それでも割と一部の界隈ではそれなりに有名らしくこうして依頼が入ってきて私は”生活費”のために稼いでいる

値段はヤバそうな内容ならそれなりにもらうけど、だいたいは1万円。
ちょっと高いけど、中高生ぐらいなら支払えなくもない微妙な価格設定。彼女もその噂を聞いて私にDMをしてきたのだ。

安藤 友華 (あんどう ともか)と言います」
そう相手が私の目を見ながら伝えた瞬間、”彼女の2か月間の見聞きしてきたこと”が映像として頭の中に瞬間的に浮かんだ。youtubeで動画を視聴するときに再生速度を調整して早送りで見るあの何倍ものスピードのイメージ。シークバーのように、自分の任意のタイミングで止めたり何度も繰り返し再生できるのが自分の能力ながら便利だ


一気に頭の中を巡る情報量に少しクラッとしつつも
『で、探したいのは写真ですよね?』
「そうです」
『どんな、写真ですか?』
「その…元カレとの写真なんです」

頭の中の”シークバー”を動かしていくと、生々しいLINEのやり取りが見える。どうやら相手の浮気が発覚してそのまま別れて即、画像をひたすらに消していったらしい。っというか画像フォルダそのまま消していた。

『いや、別れたあとに全部消してますよね…画像。』
「!!!本当に”わかる”んですね」

やっぱり疑ってたんだ
ってイラッてしつつ

『冗談でそんなお金なんて請求しないですよ。実際どうなんですか』
「はい…すぐに消しました全部」

でも私は”見た”
彼女が画像フォルダを消す前に未練がましくSDカードにこっそり1枚画像を保存していたことを。

『SDカードの中に入れてますよね?その中は見ましたか』
「!!!…見てないです…」
言葉を続けた
「いや…正確には見れないんです…」
『どうして?』
「一人で見ると辛くなりすぎるのが怖くって」

手元にあるのに見たくない。私にその背中を押してほしい。そんな事からの依頼だったらしい。

”めんどくさいなぁもう。”
「めんどくさくてごめんなさい」
私の顔にそのまま書いてあったのが見えたのか、申し訳なさそうに謝ってくる相手。

『私はあなたの”オトモダチ”でもないし、カウンセラーでもない』
「そうですよね…すみません時間を取らせて」
伏し目がちに回答する彼女の反応に
『でも、それだとお金を払ってもらったのになんか嫌。だから』
「だから?」
『一緒に見ればいいんでしょ』
「ありがとうございます!」
そう言ってカバンから取り出したのは”彼女の記憶”の中で映っていたあのSDカード。

スマホに接続して画像を確認すると、仲良く顔を近づける依頼者と”浮気した”男の姿がパッと映った
「好きだったな…私何か悪いことしたのかな…」
『・・・』
ボロボロと涙を溢れさせながら泣く依頼者を見てゆっくりと豆乳紅茶を一口すする

そう、彼女は写真を”なくした”んじゃなくって、
”なくした”って思いたかっただけ

「私、消します」
『それは自分で決めること。いちいち言わなくていいよ』
「なんか口に出さないと踏ん切りがつかなそうなんです(笑)」
泣いていると思ったら今度は笑っている様子を見て呆れる私の反応も彼女にとっては”オトモダチ”感覚なんだろう

【本当に削除しますか?】
【はい】
【データがありません】
これで本当に彼女は”写真をなくした”

落ち着いてから外に出ると17時前なのにもう夕焼けがまぶしい

「ありがとうございました」
『別に。じゃあ”アレ”して。』
「またお願いするのって…」
『約束は約束』

依頼を受けたら目の前でお互いにブロックをして”もう関わらない”のが私のルール。こういう”人生の裏技”は一回しか使えないようにしないと人って簡単に依存してしまうし、下手に仲良くなるとメンドクサイから。

『さようなら』
「ありがとうございました」

お互いにブロックしたことを確認してその場をあとに
上板橋駅の北口をエスカレーターで上ってそのまま電車を待つ

”まぁ、この世の中ガチャの引き次第で
何もかも説明つくわけだし?
巻き返しに必要な力で
別の事頑張ればいいじゃん(笑)
まぁ、この地獄の沙汰も金次第で
どこまでも左右出来るわけだし?”

オーバーライドの歌詞を口ずさみながら電車を待つ私の手元に

ポポッと届く通知
新しい依頼の音だ

「ある物探してほしいんです」
『詳細をどうぞ』
「母が大切にしていた指輪を探しているんです」

CASE:2 なくした物 へ続く。




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