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コロナの真ん中で考える、これからの「豊かさ」と「暮らし方」(セッションレポート)

もう10年くらい(になるのかな?)、色々なところで「これからの豊かさ」をテーマにした研修などをしてきたこともあってか、鹿児島県の経営者が集まるフォーラム(SELF)で「豊かさ×コミュニティ」というテーマでセッションをさせてもらいました。

SELF(Satsuma Emerging Leadership Forum)の参加者は皆本当に熱い方が多く、鹿児島と日本を良くしていきたいと心から思っているのがひしひしと。
自分にとって、これまで「桜島と西郷どん、、、だよね?」しか出てこないくらい遠い場所だった鹿児島が、一気に「日本の中でもとびきり熱い、未来の実験場」として身近になりました。

どんな魅力的な人がいたか、みたいなことはまた別途書こうかと思いますが、自分がSELFの合宿レポートに寄せた文章を、せっかくなのでnoteでも記録しておきます。

自分の内容はレポートというより宣言文やエッセイに近いですが、読んでもらえたら嬉しいです。そしてもしピンとくる方がいたら、何か一緒にやりましょう(^^)。


では以下本文。

[1]わたしたちの現状認識と課題感


かつての日本では、豊かさのモノサシは一つだった。

社会全体で効率とスピードを追求し、モノを増やし、カネを稼ぎ、より多くを手に入れること、もしくは交換可能なお金をたくさん持つことが豊かさの象徴だった。

都市への人口集中、核家族化、競争と自己責任の加速。
それらが行き過ぎることで分離や分断も生まれたが、その逆効果を見ないようにしながら、社会全体で効果を追求した。全体のパイが広がっていれば、痛みも覆い隠せた。

しかし、日本が世界トップの超高齢社会となり、さらに人口減少フェーズにも突入。
既存のモノサシでの豊かさや幸せには、フィットしなくなってきた。

異常なほど長く続くデフレ。
富の流動性の低下と二極化が進み、1900兆円を超える家計金融資産と貧困が併存。
毎年減らない自殺者。希望が持てない若者の死因1位が自殺に。


そんな閉塞感の中、徐々にではあるが「豊かさのモノサシ」のバリエーションが増えてきたのが、平成の終盤であったと言えるだろう。

消費の対象がモノ→コトへと移行し、国の方針にもシェアリングエコノミーが取り入れられ、SDGsという言葉も徐々に認知されるようになった。

人の繋がりや内面的な豊かさも注目されるようになり、マインドフルネスや幸福学などのキーワードもビジネスの世界で聞かれるように。
「コミュニティ」という言葉が(半分ビジネスのための手段となった側面もあるが)これだけ声高に叫ばれるようになった時代も、過去にはなかったのではないか。


物理的な「暮らし」という側面でも、
三大都市圏に住む20代の4人に1人が地方移住に関心を持ち(国交省調べ)、
二拠点生活をする人の数は2011年の9.7万人から2018年17.1万人でほぼ倍増の勢い(リクルート住まいカンパニー「デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査」)。
国内デュアルライフ(二拠点生活)意向者が1100万人を超えた(リクルート トレンド予測2019)。

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元号も平成から令和になり、その傾向がさらに強まろうとしていた矢先。

コロナショックが訪れた。

緊急事態宣言が発令され、外出すら自粛が求められる。
「ソーシャルディスタンス」「3密」という言葉が毎日ニュースで取り上げられ、人が集まる場所に行くこと自体がリスクとされるように。

企業活動でもリモートワークがスタンダードになり、オフィス自体をなくす企業も生まれるなど、働き方も抜本的に変わりつつある。
都市への集中、通勤ラッシュなど、まだまだ根強く残っていた過去の「当たりまえ」が、経済と共に強制的にストップをかけられた。

「アフターコロナ」と言える時代がいつ来るのかは見えず、1年先とも10年先とも言われるが、もうコロナ以前の社会の形に戻ることはないのではないか。
きっとあとから時代を振り返れば、(痛みも伴いながらだが、)平成の終盤で始まりつつあったパラダイムシフトが、一気に加速する歴史的な節目となるのだろう。


そして、少なくともアフターコロナへの過程である「withコロナ」のフェーズから、過去の流れが逆転しはじめる。

都市への一極集中から、地方への分散へ。
「開疎化」という言葉が生まれつつあるように、開かれた形で、疎である(密ではない)という暮らし方/働き方に注目が集まっていく。

街づくりの文脈でも、いかに効率的に人を密集させるかではなく、空き地の重要性が注目され、モノからコト、さらにその先の「ソト」へのシフトが起きつつある。

しかもそれが、日本のみではなく世界中で。
そんなグローバルなパラダイムシフトの中で何が起こるのかは正直誰にも予測できない。

しかし少なくとも、
「これからの時代だからこその豊かさとは何なのか?」
という(答えのない)問いを持ち、追究し続けることが必要となる。
さらに言えば、答えを探すというよりも、答えを創る。

そういった時代に突入していくのだろう。


[2]ビジョン


withコロナ、アフターコロナの時代には、全国で「持続可能な域内生活圏(経済圏)」へのチャレンジが生まれていくことだろう。
その単位が、「町」なのか「コミュニティ」なのか「鹿児島」なのかは分からないが、いずれにしても、日本全体で「都市と地方」という形で分業していたよりも、小さな単位だ。

その単位の中で、天然資源、空き家、歴史的建造物など地域の資源を有効活用した自給サブシステムが目指される。おそらくは、過去の先駆者たちが目指した様々な形が、複合的に取り入れられることになるのではないか。


『里山資本主義』
で謳われたような、林業を中心とした最低限の水、食料、エネルギーを自給するサブシステム


経営者と従業員の賃金比率上限を設定するなど、人と労働者主権に基づいたビジネスモデルに従って運営され、スペインで7番目の規模にまで拡大したこともあるモンドラゴン協同組合企業


「成長の限界」を著したドネラ・メドウズらが試みた、持続可能な生活を追求するカブヒルコーハウジング


入居希望者が組合を結成し、その組合が事業主となって、土地取得から設計者や建設業者の手配まで、建設行為の全てを行うコーポラティブハウス(Building co-operatives)


「適正な量のエネルギーを使いながら、地域の人々が協力し合う柔軟にして強靭な社会、持続可能な社会」への移行を目指すトランジションタウン


これまでの、血縁で繋がる家族から、ポスト資本主義社会を見据えた意識でつながる「拡張家族」を実現していくCift 


それらに先端テクノロジー(特に直近はバイオセンサー等のウイルス対策技術や、クラウドデータ処理技術等)が掛け合わされるという意味では、

トヨタが立ち上げたWoven City Projectがモデルケースの一つになるかもしれないし、


『限界費用ゼロ社会』
で謳われたような技術発展によって、生活に必要なモノやエネルギーが極めて小さなコストで生み出せる世界にも大いに期待したいところだ。



ただし、上記のような変化があるからといって、
突然「全員が地方でスローライフを送る」という時代がやって来るわけでもない。大都市としての機能とグローバリズムも、確実に残り続けることになる。
(そもそも日本は土地も資源も少ないので、完全自給を目指せないのが苦しいところ)

では

「ローカルな地方での生き方とグローバルな都会での生き方、どちらを選ぶのがよいのか?」

個人としてはそんな問いを突き付けられそうだが、しかしその問いの立て方もいささかピントがずれていると言えるだろう。

どちらか、ではなく、どちらも。
「どう両立するか」を模索していかなければ、全体としては分断を生み、結果として皆が苦しむことになる。

都会か地方か、ではなく、都会にも地方にも住む。
奪い合うのではなく、分かち合う。人口ですら。

一人ひとりが複数の拠点を持ち緩やかに流動することで、連帯し分かち合っていく時代に。
分断から統合へ。それが令和の地域共同体の在り方なのではないか。


そしてその移行プロセスの中では、
一人ひとりが、これまで絶対的な力を持っていた「金融資本/金銭資本」だけではなく、社会関係資本、文化資本、時間資本など、豊かさを測るモノサシ自体を複数持つことが当たり前になっていく。

それはwithコロナ、アフターコロナ時代のリスクヘッジにもなりつつ、豊かさ自体の解像度を上げる事にもつながっていくだろう。


[3]すでに取り組んでいること

・ADDress

全国の空き家を中心に借り上げ、リノベーションをし、会員でシェアをするというビジネスモデルで、2019年4月よりサービス開始。「定額全国住み放題」というコンセプトが注目を浴びる。
各拠点には「家守」という管理人兼コミュニティマネジャーが存在。会員同士や地元とのハブにもなり、滞在する会員が地方に根を下ろす助けとなる。

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日本は「人口減少フェーズにも関わらず、新築信仰が非常に強い」という特殊な環境のため、2033年には日本全国の空き家率が30%、2,000万軒を超えるという予測もある。ADDressのビジネスモデルは、全国の空き家問題解決へのアプローチとしても注目されている。

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人口減少に悩む地方にとっても、観光以上、移住未満の「関係人口」をどう増やすかが喫緊の課題となっており、国土交通省の勉強会等での講演に呼ばれるなど、ADDressは関係人口づくりの旗手としても期待されている。
なお、2020年4月時点で全国約50拠点を展開しているが、鹿児島県にはまだ拠点がない。

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[4]今後のアクション

アフターコロナを見据え、全国展開のADDressと、SELF/リバーバンクのコミュニティ、ネットワークの連携を模索していく。

■鹿児島県内のADDress拠点づくり
現状ではまだADDress拠点が無い鹿児島県だが、ADDressとANAとの実証実験対象(後述)に鹿児島空港も入っていることもあり、拠点ができることが臨まれる。
直近のADDressにおける開発優先順位としては東北や関西中国地方が優先されているが、鹿児島エリア全体としての協力体制が築けるのであれば、拠点を作れる可能性もあるだろう。

以下、そのアイデア等。

・SELFやリバーバンクの拠点に、ADDress会員が滞在できる場所を併設する。
・鹿児島県の持つ天然資源等を活かした、アクティビティもセットでの拠点開発を行う。
・高いスキルを持つ人材を必要とする鹿児島企業とADDress会員の、仕事面でのマッチングを行う。
・鹿児島県内の地域課題を題材にした、人材育成研修とセットで企画立案。
・コロナウイルスの影響を考慮した、特定域内限定プランの策定。
・移住検討者向け長期滞在プランの策定。
・拠点展開のスピードを上げるためにも、物件オーナーがリノベーション費用のローンを組めるように、地銀等との連携。
・ADDress鹿児島支社設立。

※参考:ADDress MaaS構想
ADDressは、滞在する場所だけではなく「移動」も含めたMaaS経済圏の実現を目指し、JRグループ、ANAホールディングス等との実証実験を開始している。
現在ANAホールディングスとは、月額3万円~4万円を追加すれば、一か月に4回までANAを利用できるプランで実証実験中。

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以上、SELFレポートの、池田担当部分でした。
今回はADDress中心のアクションを書きましたが、非金銭資本を中心としたライフデザインなど、他にもいろいろとトライしていきたいところです。

長文を最後までお付き合いいただいたみなさん、ありがとうございましたm(_ _)m。そして、もし読んで何かピンとくる方がいたら、何か一緒にやりましょう(^^)。


※他にも、一緒にセッションを担当した坂口修一郎さんのリバーバンクの話や、気候変動系のレポート記事などなど、、、かなり読み応えのあるSELF(Satsuma Emerging Leadership Forum)のレポート本編はこちらです。


※ちなみに、、、記事冒頭の写真は、記事内容とは関係ないですが、息子(3歳)の誕生日にプレゼントした自作のドキンちゃん。息子の好きなものを色々思い浮かべながら石を探す時間がとても豊かに感じられたので(^^)。

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