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経済

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2021年12月の記事一覧

政府債務の持続可能性は残高ではなく利払費で判断

年末なのでお蔵入りになっていた記事を蔵出しする。 当noteでは政府債務(いわゆる国の借金)について、 国は永続的存在なので完済期限が無い(寿命がある個人とは違う) 国には徴税権があるので元利払いに充てる収入が滞るリスクが低い(業績悪化のリスクがある企業とは違う) ことから、その持続可能性は残高ではなく利払費の対税収比や対GDP比で測るのが妥当と主張してきたが、FurmanとSummersも1年前に同じ見解を発表している(違いはインフレ率を加味したreal inter

反緊縮派の疑問を解決

Q. A. 政府が民間部門の経済活動を圧迫せずに支出する能力は経済規模にほぼ比例するので、政府は名目GDPの予測値に基づいて支出額を決める。これが続くと中期では"政府支出∝名目GDP"、"政府支出伸び率≒名目GDP伸び率"となるので、各国の値を散布図にプロットすると、原点を通る傾き1の直線の周辺に集まり、相関係数は1に近くなる。 なぜこのような簡単なことが分からないのか不思議である。 "税収∝名目GDP"でもあるので、横軸を税収にしても同じようなグラフになる。

日本史上「最も平等な社会」を壊した思想

バブル崩壊後に「日本的経営」への自信が揺らいでいたところに、アメリカ帰りの財官学のエリートによってこの思想が広められた。 1994年2月の「舞浜会議」における宮内(オリックス社長)・今井(新日本製鉄社長)論争。 この思想に基づいた「改革」は、多くの日本人の 「無能なくせに上にいる連中」を引きずり下ろしたい 他人に貧しさをエンジョイさせたい という願望とマッチするために永続化している。

市場に無視された「矢野論文」と日本経済の問題

「矢野論文」が市場に全く影響を与えなかったのは、サプライズになる新情報が何もなかったからである。「ギリシャのように粉飾決算していました」という告発なら(少なくとも一時的には)国債価格暴落を招いたかもしれないが、内容は財務省のこれまでの主張と変わりなかったので、無視というよりも無反応だったわけである。 この説明👇は正しくない。 国債は借金に例えられる。家計や企業が借金をたくさん抱えると、信用は悪化するものだ。借金過多の人や企業が借り換えをすると、貸し手は貸し倒れリスクを考慮

生産性に関する誤解

人員削減すれば労働生産性が上がると誤解している人がいるようだがそうではない。 労働生産性とは単位労働投入量当たりの産出量(付加価値)なので、 産出量=労働生産性×労働投入量 人員削減して労働投入量を減らせば産出量も減るので労働生産性は上がらない。 賃下げして人件費を減らせば労働生産性が上がるという誤解もあるようだが、付加価値を構成する人件費の減少分が営業純益に回るだけで総額は増えないので、利益率は上がっても生産性は上がらない。 人員・人件費を減らせば労働生産性が上が

優等生が医者を目指す国

「期待値が医者>IT起業だから」でほとんど説明できるのではないか。 優等生の持つ卓越した頭脳をどの分野に活かすか?ということについて言えば、日本では医者が強力な受け皿となっている。医者には、国内最高クラスの社会的地位と高収入は確約されている。その一方で、IT分野についてはたとえ優秀な能力があっても、それを存分に発揮し育てる土壌がない。以上が日本の優等生からIT起業家ではなく、医者が生まれると考える論拠である。 IT分野は一発当たれば超高リターンだが国際競争が厳しく高リスク

賃金停滞は国民の総意

日本特有の理由とは、政策立案者や政治を大きく左右する空気ではないかと思われる。 テクノロジーだけでなく、政治的な影響もある。すなわち、国ごとの賃金の運命は、その国の政策立案者や政治に大きく左右されるのだ。 1961年の時点で、GDPに占める労働分配率の長期的な安定性は単なる奇妙な偶然ではなく、マクロ経済の健全性の前提条件であることを経済学の正統派に確信させたのは日本の経済学者である宇沢弘文氏だった。今こそ日本の政治家はこのことに耳を傾けるべき時である。 雇用者報酬+法人

大韓民国は日本を追い抜くのか

あまりにも薄っぺらな分析に老害感が漂っている。 為替レート変動を無視している上に、生産年齢人口のトレンド反転を考慮に入れると、過去20年間の傾向が今後20年間も続くという想定は無理があり過ぎる。 これまでの 傾向が将来も続くとすれば、数年後に韓国が日本を追い越すのはほぼ確実だ。そして、その後さらに格差が広がっていくだろう。20年後には、日本が4万1143ドルに対して韓国が8万0894ドルとなり、ほぼ倍になるだろう。したがって、人口が半分の韓国のGDPは、日本とほぼ同じにな

「18歳以下に10万円」は不要だが

そもそも「18歳以下に10万円」自体が目的が不明確な政策だが、どうせ配るのであれば、与党の「クーポンというやり方を使って地元の商店街を活性化するなど一石何鳥かでやろうと考えている自治体もある」には一定の合理性はあるので、現金に限定する必要はない。 「18歳以下に10万円」が景気対策や困窮対策として合理的ではないのは、家計消費の低迷が収入減によるものではないからである。大人の貧困の解消は既存の制度で十分である。 感染対策のために外食や娯楽活動、旅行等が控えられたことが選択的

「現金10万円配れ」の非合理性

こういう大衆迎合的な人気取りは止めて欲しい。 家計消費が減少・低迷しているのは(家計部門全体では)可処分所得が減ったからではなく、消費機会の減少と消費マインドの低下なので、10万円給付は有効な景気刺激策・家計支援策にはならない。 経済は「現ナマはすべてを癒す」というような単純なものではない。

ビフォーコロナに戻らない日本経済

日本経済がビフォーコロナの水準に回復しないことについて考える。 日本経済はコロナ危機が始まる2年前の2018年前半から成長が止まっていた。 GDP減少の大部分は家計消費の減少によるものだが、可処分所得は減らず、貯蓄が増えている。 老人は怪我をすると一気に老け込むことがあるが、老化が進んだ日本経済も似たようなものではないかと考えられる。 消費活動にも元気がいるが、ビフォーコロナの時点で活力が低下していたところにコロナ危機という「怪我」をしてしまったために、自然回復では元

資本ストックが増えない理由

昨日の記事に「近年の成長鈍化の主因は財政支出の抑制ではなく、人口減少と高齢化(加えて大企業のグローバル化と株主重視経営への転換)」と書いたが、それらは民間企業の設備投資を抑制するためである。 人口減少は国内市場の量的縮小の見通し→設備投資の抑制につながるが、1990年代末からの日本では、そこに大企業のグローバル化と株主重視経営への転換(→株主資本コストの大幅上昇)が重なったために、投資不足が一段と深刻になった。 日本が投資不足に陥る構造は、1999年に日本銀行の速水総裁(

中野剛志の「残念」な経済分析力

中野剛志は経済分析の能力があまりにも「残念」なので、そろそろ経済について語るのは止めた方がよいのではないか。 この図は、やはり積極財政が経済を成長させるという「新しい見解」を裏付けるものと解釈すべきなのだ。 下のグラフは名目GDPと一般政府支出の2019年/2009年比で、左から順に日本、イラン、コンゴ民主共和国、ベラルーシ、スーダン、アルゼンチン。 名目GDPはベラルーシ9倍、スーダン15倍、アルゼンチン17倍になっているが、国名を聞いただけで、これらが積極財政によっ

山本議員の消費税デマ

山本太郎衆議院議員が「安倍政権になってから、日本経済はデフレではなくなっている」ように見えるのは消費税率引き上げのためで、25年デフレは継続中だと言っている。 理由何か知ってます? 消費税ですよ。強制的に物価上げてんだから。デフレであったとしても強制的に物価引き上げれるのは消費税。これ増税されていけば当然物価自体が上がるわけだからそのように見えて当然なんです。でも、実際の社会ってのは何かっつたら、みんなの賃金下がって、社会にお金回らずに、更にそっからみんなの所得も減っていっ