賃金停滞は国民の総意

日本特有の理由とは、政策立案者や政治を大きく左右する空気ではないかと思われる。

テクノロジーだけでなく、政治的な影響もある。すなわち、国ごとの賃金の運命は、その国の政策立案者や政治に大きく左右されるのだ。
1961年の時点で、GDPに占める労働分配率の長期的な安定性は単なる奇妙な偶然ではなく、マクロ経済の健全性の前提条件であることを経済学の正統派に確信させたのは日本の経済学者である宇沢弘文氏だった。今こそ日本の政治家はこのことに耳を傾けるべき時である。

雇用者報酬+法人企業所得(分配前)に占める雇用者報酬の割合は80%台から70%台に縮小している。このことは、賃上げが「マクロ経済の健全性の前提条件」の回復に有効なことを示唆している。

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それにもかかわらず、岸田首相が訴える賃上げ促進には「株価が下がる」「中小企業が潰れる」「社会主義的」などと否定的な反応が多い。その一方で、議員歳費削減や、この件👇のような「受け取らせない」ことには熱狂的な賛成意見が付く。

日本人は事業家やスポーツ選手、芸能人など「本人が実力で直接稼いでいる」ように見える人々の高所得は称賛するが、安定雇用に就いていたり、給与・報酬の原資が税金の人々(公務員や議員)への支払増には敵意を露にする。そのような人々は「実力や働きに比べてもらい過ぎ」なので、減給が正義になるわけである。

低成長が定着した1990年代以降、国民の関心は所得増から支出減に移り、政治も「公共事業中止」「公務員人件費削減」「議員定数削減」「仕訳け」「身を切る改革」などとそれに迎合するようになった。このような賃下げ・経済縮小を志向する空気・国民の総意の強さこそが、賃金が停滞し続ける日本特有の理由の(重要な)一つになっていると思われる。

非がないにもかかわらず謝罪するから「空気」がますます暴走する。


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