資本ストックが増えない理由

昨日の記事に「近年の成長鈍化の主因は財政支出の抑制ではなく、人口減少と高齢化(加えて大企業のグローバル化と株主重視経営への転換)」と書いたが、それらは民間企業の設備投資を抑制するためである。

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人口減少は国内市場の量的縮小の見通し→設備投資の抑制につながるが、1990年代末からの日本では、そこに大企業のグローバル化と株主重視経営への転換(→株主資本コストの大幅上昇)が重なったために、投資不足が一段と深刻になった。

日本が投資不足に陥る構造は、1999年に日本銀行の速水総裁(当時)の講演で指摘されていた通りである。

わが国の経済がダイナミズムを取り戻すための鍵が、新たな産業・企業の成長と、これに伴う「投資の活性化」である点は明らかです。そうであれば、自然に沸いてくる次の疑問は、「一人当たりGDPが世界最高水準にあり、家計が金融資産を1300兆円も保有するほど、貯蓄が豊富な国において、なぜ国内投資の活性化が容易でないのか」という点ではないでしょうか。

その答えを先取りしてやや比喩的に言えば、「経済のグローバル化が進み、資本が国境を越えて自由に移動するようになる中で、資本蓄積の最も進んだ日本は、資本にとって居心地の悪い場所になってしまった」ということだと思います。

このことを資本の側からみますと、同じGDPを得るのに必要な固定資産の量が趨勢的に増加している、すなわち、資本の生産性が落ちているのです。・・・・・・このことは、投資家からみれば、「日本では資本が効率的に利用されていない」ということに他ならず、資本移動が自由化された下では、海外の投資家だけでなく国内の投資家ですら、日本企業への投資を躊躇するということになると思います。・・・・・・わが国企業は、早期にバブルの負の遺産を処理していくとともに、収益率の高い新規の分野を開拓して、そこに資本や労働等の経営資源を振り向けていくという困難な課題に直面しているということになるのです。

「日本経済の中長期的課題について」
1999年7月27日・共同通信社主催「きさらぎ会」における日本銀行総裁講演

2002年頃に「バブルの負の遺産を処理」し終えた日本企業は、「収益率の高い新規の分野を開拓して、そこに資本や労働等の経営資源を振り向けていく」のではなく、

  • 投資は投資利益率が高い海外にシフトする

  • 国内では割高になった資本の代わりに低賃金労働を増やす

路線をとった。

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株主利益の最大化としてはこの路線は大成功で、企業利益は史上最高を大幅に更新したが、日本経済の成長の持続可能性の面では逆効果で、就業者1人当たりの実質GDPは第二次安倍政権期から伸びが止まってしまった。このままでは経済の縮小が必至である。

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  1. 人口減少のために需要の量的拡大が見込めない

  2. 資本利益率が海外よりも低い

  3. 株主資本コストは海外並みを要求される

  4. 質の高い労働力を低コストで雇える

国内投資を抑制するこれらの構造的要因は、政府が財政支出を増やしても解決できない。日本経済は需要側よりも供給側の方が深刻な状況なのである。

参考

企業経営と資本市場のグローバル化→日本企業の強みの「低い資本コスト」が失われる→「低い労働コスト」への転換

The commission investigated the reasons for the low level of U.S. investment by asking for testimony from a wide range of economists. To our great surprise, they were in agreement. The consensus of their opinion was that high capital costs are a competitive disadvantage for American firms. In fact, compared with Japanese costs, American capital costs are at least twice as high.

I think this is very important. The cost of capital generally receives less attention from the press or from the public than does the cost of labor.

The two most important ingredients in our competitiveness posture are labor and capital. We cannot, and I don't think anyone wants to, drive down our cost of labor or wage rates; but we can and should pay attention to the other ingredient which is our cost of capital.

1985年3月29日・米上院財政委員会公聴会"Review of Findings of the President's Commission on Industrial Competitiveness"におけるHardage委員の発言

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