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経済

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2021年10月の記事一覧

円安貧乏

日本経済にとって円安が益よりも害になっていることの分かりやすい説明なので是非読んでもらいたい。 企業が儲かる一方で、労働者は貧しくなった。 契機になったのはリーマンショック後の円高よりも東日本大震災だったと思わわれる。 2010年代まで日本は「貿易立国」であり、貿易黒字で国内の投資不足を埋めていたが、2009年の円高を契機に、海外生産に移行した。それによって貿易赤字になったため、黒田総裁は円安誘導で貿易黒字にしようとしたのだが、企業は戻ってこなかった。 2か所のマーカ

最低賃金の日韓比較

韓国の最低賃金について見る。 生活必需品CPIで実質化すると、2018・2019年の大幅引き上げでトレンドから上振れしたものの、現在ではトレンドからの乖離はなくなったことがわかる。トレンド成長率は年+5%強と高い。 2021年の韓国の最低賃金(時給)8720ウォンを実勢レートの1ウォン=0.097円で換算すると846円となり、日本の930円(全国加重平均)を下回る。しかし、世界銀行の2020年の民間消費の購買力平価1ウォン=0.116円で換算すると1013円となり、日本を

中野剛志の『矢野財務次官は何から何まで間違っている!』は間違いだらけ

中野剛志の根本的な誤りは、現行の通貨・財政制度の建付けを理解していないことにある。だから、素人には人気があっても、金融系の業界人には全く相手にされていない。 財政・通貨制度これ👇が中野が正しいと主張する財政・通貨制度の建付けで、市中→プール、通貨→水のアナロジーを用いると、国家は無尽蔵に水を創成してプールに注げるので、支出の財源にするために徴税や借入で取水する必要はない。ただし、注水し過ぎるとプールから水が溢れてしまう(高インフレになる)ので、適宜取水して水量を適正水準に保

消費税に関するデマ

一昨日の記事で取り上げたこのプレゼンから、今回は消費税に関する嘘について。 最も酷い取り方をされてるのが消費税。「社会保障のために消費税は必要なんです。皆さん申し訳ございません。支え合っていきましょうね。」とんだ詐欺ですよ。出鱈目ですよ。真っ赤な嘘。 「消費税が社会保障の財源になっているというのは大嘘で、大部分は法人税減税の穴埋めに使われている」という主張だが、論拠のグラフ👇が騙しである。 プレゼンではグラフの赤が法人税減税による減収分を表しているかのように語っているが

「緊縮」の当事者

「公的債務残高は増え続けているのだから財政は緊縮的ではない」というのが反反緊縮派の言い分のようである。 その意味で「緊縮的」なのは企業部門である。非金融法人企業の純債務はピーク時から400兆円以上も減少している。 純債務減少の主体は当初は負債の減少だったが、2000年代後半から金融資産の増加に移っている。 金融資産の増加は現金・預金と対外直接投資に集中している。この二つが内部留保増加の主体である。 第二次安倍政権期に企業は大幅増益となったが、国内需要に回らない金が多い

金を出せば出すほど成長するんだよ

この「金を出せば出すほど成長するんだよ」「経済成長率は財政支出によってコントロール可能」「財政支出をk%増やせば名目GDPもk%増える」という論外な主張が衆議院選挙にも使われているので再度取り上げる。 《動画は該当の発言箇所で再生される》 一般的に、国は経済規模に基づいて財政支出を決め、それに必要な租税収入を確保する(不足分は借入で賄う)。インフレand/or実質成長によって名目経済規模が拡大すれば、ほぼ比例的に支出を増やす。税収も名目GDPにほぼ比例する。 例えば、名

スタグフレーションの逆

高インフレなのに景気後退/停滞がスタグフレーションだが、日本経済はその逆の景気拡大なのにデフレ/ディスインフレの構造になっていると見られる。 第二次安倍政権期の景気拡大の末期には完全失業率はバブル期に近い水準まで低下したが、CPIのインフレ率は日本銀行の目標に程遠い0%台にとどまっていた。 色付き期間は戦後最長(73か月)と二番目に長い(71か月)景気拡大期 企業部門の「財務健全化」が関係していると考えられる。

「格差是正」のボートマッチ

この二択には問題がある。 Q14 格差是正 Ⓐ社会的格差が多少あっても、いまは経済競争力の向上を優先すべきだ Ⓑ経済競争力を多少犠牲にしても、いまは社会的格差の是正を優先すべきだ まず「経済競争力」が企業/株主の利益増につながるものなのか、それとも経済全体の成長につながるものなのかが明確ではない。前者なら「企業の収益力の向上(→株主利益の最大化)のために賃金抑制や非正規雇用の拡大を続けるべきだ」とはっきりさせるべきである。 社会的格差と経済競争力がトレードオフという前提

スイスはデフレ気味だが賃金は上がる

先日の記事に続いて、ABCテレビ『正義のミカタ』の悪質な経済解説を取り上げる。 番組ではディズニーランドの入園料や、100円ショップ、回転ずしの値段が世界でも最も安く、20年間の経済成長率が諸外国の中で唯一マイナスを記録している現状が紹介され、日本の入社1年目の平均年収が約262万円で、スイスと比較すると3分の1以下とのデータも示した。 「20年間の経済成長率が諸外国の中で唯一マイナス」は藤井お得意のデマで、2000年→2019年には15%成長している。マイナスなのはグラ

「給料が上がらない」と人口減少の関係

この記事で取り上げられている要因に一つ付け加えるとすれば、人口減少のために国内市場が量的に縮小していくという予想が社会全体に共有されていることである。 このような予想の元では、企業は値上げに強気になりにくい。売上が増えていくという予想が立てられないので、固定費の増加には慎重になる。給与が増えないので家計消費も増やせない。 ただ、取引先にも顧客にも、安定を求めたり求められたりして、ずっと価格が上がらない。これが日本人の給与水準が上がらないベースにある、自らの姿勢である実感を

「改革」とは民営化

「改革派」が本音を語ってくれている。 政策責任者が、その気にさえなれば「債務残高を数年、長くても10年程度で劇的に減少する」方策はある。なぜかといえば、政府の債務残高の裏側には、同じく膨大な政府の資産があるからだ。政府が資産を売却すれば、資産と債務は両建てで減少するのである。 実は、これが「改革」にほかならない。 それらを民間に売却すれば、資産とともに債務も両建てで減る。いわゆる民営化だ。ほかに約200兆円の公共財産もある。 彼らの財務省批判は反緊縮・積極財政派ホイホイ

岸田降ろし「改革を止めるな」

岸田首相の就任早々、グローバリスト(Anywheres)による岸田降ろしが強まっている。 この記事は意図的なのかそれとも分析力が欠如しているのかは不明だが、的外れな内容に終始している。 岸田を勝利に導いた要因は、その無害さにあるようだ。岸田は船を揺らすことも、波風を立てることもないだろう。その勝利は、現状維持を重視する党の体制によってもたらされたものだ。 The trait that propelled Mr Kishida to victory appears to

矢野財務次官の正論

これに関しては、岸田首相ではなく矢野財務次官に軍配が上がる。 新型コロナの経済対策をめぐっては、財務省の矢野次官が、「バラマキ合戦の政策論」などと異論を唱える記事を寄稿しているが、岸田首相は、「いろいろな意見は当然あっていい」とする一方で、「いったん方向が決まったならば、しっかりと協力してもらわなければならない」と述べた。 現金給付を求める(単純な)人々は、日本経済は深刻な不況にあり、困窮者が大量発生していると思い込んでいるのだろうが、それは「日本は20~30年間デフレが

悪質極まりない『正義のミカタ』

10月9日放送のABCテレビ『正義のミカタ』が藤井聡のデマを垂れ流すとんでもない内容になっていた。 詳しくは後日の記事に回すが、デタラメの一つ目が「日本は30年以上デフレ状態にある」である。実際には、CPIが持続的に低下したのは2000~2006年と2009~2012年の期間に過ぎない。 (2021年4月の急低下は携帯電話料金の値下げによるもの) 「30年以上続く経済停滞」も誤りで、ITバブル崩壊後には戦後最悪と二番目に長い景気拡大を達成している。 人口要因を考慮する