吉森保

大阪大学・生命機能研究科/医学系研究科教授。生命科学者。専門は細胞生物学。オートファジーの研究をしている。トレイルランニング、ラバーダック蒐集など趣味多数。https://www.facebook.com/tamotsu.yoshimori

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  • コラム:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について

最近の記事

細胞老化の論文が世界で反響を呼んでいる

一番新しい私達の論文の細胞老化に関する博士課程大学院生の崔さんの研究成果が、世界中で報道されているようである。 掲載された学術誌PNAS(米国科学アカデミー紀要)が把握しているだけでも世界21の媒体で報道されており、英語圏のみならず仏語スペイン語でも発信されている(逆に日本語は1件のみ)。PNASにこれまでに出た論文の中でもトップ5%の報道件数らしい。 https://pnas.altmetric.com/details/158025430/news NewsweekとT

    • 老化の仕組みの解明を目指して

      私が専門とする細胞生物学は、実験結果を出すのに時間がかかり、ひとつの論文に数年から下手したら10年以上費やすこともある。従ってラボとしても寡作なのだが、ここ1〜2年実りの季節という感じで論文が豊作だ。ひとえにラボの院生、スタッフ、テクニシャンの努力の賜物である。 この1年ほどの間の成果は以下の通りで、いずれも阪大からプレスリリースが出ている。論文が受理された学術誌は各々まあまあ中堅どころで、それも喜ばしい。 ここ何年か、我々のラボは老化の研究に力を入れている。以下の成果も

      • 世界最高の研究所を訪れて

        アメリカ合衆国・ワシントンDC近郊の生命科学の研究機関HHMI Janeliaに招聘され講演を行った。ジャネリアは、応用ではない基礎研究に特化した世界屈指の研究所であり、そして世界中の研究者の憧れの場所だ。 建物が美しい。ガラスを多用し、優美な曲線を描きハイセンスでとてもクール。実験室もガラス張りで明るく清潔感が溢れる。日本のチープでセンスのない大学や研究所と大違い。周囲の広大な敷地に広がる緑も素晴らしい。 そんなもの研究と関係無いだろうという声が聞こえてきそうだが、環境

        • 中学生には難しい?

          以前、夏休みの中学生達に、オートファジーについて講演したことがあった。父兄も大勢来られていた。 講演後アンケートの結果を見せて貰うと、ひとりのお母さんがご立腹だった。「先生は中学の教科書をご覧になったことはありますか? 中学生が習っていることを踏まえずに、あんな難しい内容を話されると困ります。」という主旨。 実は私は事前に中学生の理科の教科書に目を通していた。その上で、なるべく専門用語を使わなければ、中学生でも十分理解できるだろうと判断した。オートファジーのことを理解する

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          みんな、好きなことをやろうや

          某月某日、知らない高校生からメールを貰った。 こういうのは、嬉しいなあ。 それにしても、日本からの頭脳流出が増えていく実感がある。でもその子にとって、そして科学全体にとっては良いこと。 −−−−−−−−−− 吉森先生へ 初めまして。 8月1日に「オートファジーって何?」のイベントをオンラインで参加させてもらった〇〇○○と申します。今年の6月に〇〇〇〇を卒業しました。大学の生物学を探していた時に、阪大のウエブサイトを拝見しこのイベントに参加しました。オートファジーの研究には前

          みんな、好きなことをやろうや

          リサーチャー生産者たち

          最近、面白い生産者と出会う。なにが面白いかというと、業種は色々なのだが皆さん我々研究者とよく似ているのだ。人間としてのスタンスが。 まず好奇心駆動型である(自分の守備範囲以外のものに対しても興味シンシン)、そしてこれまでの常識を疑う、論理的に考える、実験・試行錯誤を厭わず繰り返す、情熱が半端ない、etc。 いずれも優れた研究者に共通する資質だが、別に研究者の専売特許じゃなくて良い。 伝統的な産業では、従事者はどうしても型にはまって、これまで行われていたことを無批判に惰性

          リサーチャー生産者たち

          高校生 in 細胞生物学会大会

          私が大会会長を務め、奈良で開催した第75回日本細胞生物学会が昨日無事に終了した。 今年は高校生の参加も呼びかけ、平日であるにもかかわらず7名ほどが全国から参加してくれた。私のラボで研究しているふたりもポスター発表をした。 多くの人が彼女らのポスターを訪れ、高校生も堂々と説明し質問に答えていた。ある他大学の先生が、うちの院生より優秀だと舌を巻いていた。 彼女らは今流行りの「ギフテッド」で大学院生並みの知識を持つスーパー高校生なのだろうと思う人もいるかもしれないが、ごく普通

          高校生 in 細胞生物学会大会

          巨人の肩に乗って

          東京で開催された花王科学賞贈呈式に出席した。私は医学生物学部門の選考委員長を仰せつかっている。 この賞は45歳以下の優れた研究者に与えられる。毎年応募してくる人達のレベルが高く、選考中にわくわくしてしまう。ひとりの研究者として、素晴らしい研究に出会えるのは大きな喜びだ。オリジナリティに溢れた若い研究者達がいることに、日本あるいは世界の未来を想ってほっとする。 今年激戦を勝ち抜いて栄冠に輝いたのは、順天堂大医学部のForestDown君。彼はなんと12年かけて、100年間謎

          巨人の肩に乗って

          孫泰蔵さんとお会いした。

          孫泰蔵さんとお会いした。 孫さんは、出版されるなり4万部超えのベストセラーとなった今話題の「冒険の書」の著者である。 現在の教育と社会のシステムの破棄を唱える危険なこの本に非常に感銘を受け(私の感想はこちら )、会ってみたーい、と言っていたら、私の著書「ライフサイエンス」が同じ日経PBから出ている誼で、中川ヒロミ編集長が対談をセッティングしてくれたのだ。 初めてお目にかかった孫さんは、温厚謙虚な、「俺が俺が」なところが皆無の、だが静かな情熱のマグマを感じさせる人だった。そ

          孫泰蔵さんとお会いした。

          『冒険の書 AI時代のアンラーニング』を読んで

          自然界の謎が大好き、研究がしたくてしかたがない、という子供達がたくさんいる。めばえ適塾という、そういう小中学生を集めて大学レベルの講義をするNPOで講演したときに、彼ら彼女らの好奇心とモチベーションの高さに驚いた。理解力もイマジネーション力もアイデアを出す力も抜群だ。 そのときに私の講演を聴いた女子中学生が、高校生になり今私のラボで実験している。私のラボがある大阪大学には、SEEDSという高校生を受け入れて研究して貰う制度があるのだ。今3人の高校生が私のラボで研究している。

          『冒険の書 AI時代のアンラーニング』を読んで

          思考の溝

          先日出演したラジオ番組は、スポンサーの凸版印刷のブランディングが「すべてをTOPPA(突破)する会社」なので、ゲストは「あなたがさまざまな「壁」を突破して、今活躍しているステージの扉をひらいた【突破ストーリー】」を聞かれる。それに対して、私は「運です」という身も蓋もない返事をしている。 ほんとうなので仕方ないが、時間があったらもう少し話したかった幾つかのことがある。そのひとつが、「発想の転換あるいは発想の自由さ」だ。これも陳腐といえば陳腐だが、我々が携わる科学研究における「

          思考の溝

          オートファジーGO,GO!!

          先日、私が創業した大学発ベンチャー・AutoPhagyGO Inc.(APGO)の第3回株主総会が開催され、全ての議案が無事に可決された。 ちょうど3年前にペーパーカンパニーとして設立したAPGOも、今や役員2名と従業員10名(私は社外技術顧問)の立派な会社に。基礎研究しか経験のない私が始めた無謀ともいえる試みがここまで辿り着き、感無量である。 これもひとえにCEOである石堂美和子の獅子奮迅の働きのお陰であり、またずっとサポートをして下さっている阪大のベンチャー支援ネット

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          進化した人類

          私は若い頃から人の名前が憶えられない。あまりにひどいので、よく呆れられる。ラボの新入生とディスカッションするときは名札を付けてもらう。 昔、毎朝通勤途中で会う人がいた。同業者のようで、どこかで会っており、向こうは親しげに毎朝話しかけてくれる。私も顔はよく憶えているのだが、どこの誰かがわからない。 毎日話しをするのに半年以上経っても思い出せない。最後に学会のプログラムに写真が出ていて名前が判明した。 会話で、よく知っている人の話が出たので名前を言おうとしたら、出てこない。

          進化した人類

          学問への扉

          昨日は、阪大の新一年生全員の必須科目「学問への扉」(通称マチカネゼミ。実施される豊中キャンパスの地名が待兼山なので)の私のラボ担当のクラスの1回目だった。 学問への扉は、高校までの受動的で知識蓄積型の学びから、主体的で創造的な学びへと転換するための「課題・文献など一つの内容をもとにアカデミック・スキルズの指導を含む、大学における学びの基礎科目」と位置づけられている。 そのためにひとつのクラスは最大17人までで、教員が一方的に講義をする形式ではなく、学生同士でディスカッショ

          学問への扉

          学位授与式式辞

          大阪大学大学院・生命機能研究科長として、生命機能研究科の学位授与式で以下のような式辞を述べた。原稿を用意せずアドリブだったので、憶えている範囲のおおよその内容である。また授与式は、修士と博士の2回に分かれていたので、各々で話したことを合体している。 >>>>>>>>>> 皆さん、本日の学位授与、まことにおめでとうございます。私も研究科長を「卒業」するので同じくらいめでたいです。 皆さんは、コロナ禍のなかで研究しなければならず、とても苦労されたと思います。様々な制約があり

          学位授与式式辞

          「ある高校生からのメール」その後2

          以前Noteに見ず知らずの高校生からメールを貰った話を書いた。研究が大好きな高校生からのメールだった。その高校生は夢を実現し、夏休みに東京から大阪に来て泊まり込みで大学の私のラボで実験をした。その彼女の体験記が、ネットにアップされている。 最後に彼女はこう言っている。 「研究の新しい方法や具体的なやり方などいろいろなことを獲得することができたが、そもそも研究している人の様子、日常的な様子、「こういう感じなんだ」というものを見ることができたのが一番大きかったです。一日研究だけ

          「ある高校生からのメール」その後2