見出し画像

老化の仕組みの解明を目指して

私が専門とする細胞生物学は、実験結果を出すのに時間がかかり、ひとつの論文に数年から下手したら10年以上費やすこともある。従ってラボとしても寡作なのだが、ここ1〜2年実りの季節という感じで論文が豊作だ。ひとえにラボの院生、スタッフ、テクニシャンの努力の賜物である。

この1年ほどの間の成果は以下の通りで、いずれも阪大からプレスリリースが出ている。論文が受理された学術誌は各々まあまあ中堅どころで、それも喜ばしい。

ここ何年か、我々のラボは老化の研究に力を入れている。以下の成果もその流れに中にあり、こういう基礎研究(すぐには役に立たないが、謎を解き明かすための研究のこと)の積み重ねから、老化に対抗し健康長寿を実現する方法が産まれる。

Shioda T, et al.(博士課程の大学院生塩田達也さんの仕事)
Neuronal MML-1/MXL-2 regulates systemic aging via glutamate transporter and cell nonautonomous autophagic and peroxidase activity.
Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 120: e2221553120 (2023)
動物実験により、生殖細胞の除去などさまざまな処置によって寿命が延びることが判っているが、メカニズムは不明な点が多い。今回我々は、線虫を用いて、神経からシグナルが出て全身の細胞のオートファジーが活性化することで寿命延長が引き起こされることを突き止めた。つまり神経が寿命を制御していると言う興味深い事実が明らかになった。
阪大のプレスリリース https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230919_1

Shima T, et al.(学術振興会のポスドク志摩喬之さんの仕事)
The TMEM192-mKeima probe specifically assays lysophagy and reveals its initial steps.
J Cell Biol. 222: e202204048 (2023)
細胞の消化器官であるリソソームに傷が付くと有害物質が出てくるので危険である。そのために細胞は、傷を修復するか傷ついたリソソーム自体を除去する。後者の仕組みであるリソファジーは我々が以前に発見したオートファジーの一種であるが、今回リソファジーだけを特異的に検出する方法を開発した。細胞がリソソーム障害をどのように克服しているか知るために有用である。
阪大のプレスリリース https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20231117_2

Ogura M, et al.(博士課程の大学院生小倉もな美さんの仕事)
Microautophagy regulated by STK38 and GABARAPs is essential to repair lysosomes and prevent aging.
EMBO Rep. 24 :e57300 (2023)
オートファジーには現在3つの様式があることが知られている。最もよく知られているマクロオートファジーに対し、ミクロオートファジーと言うリソソーム膜が陥入して細胞質の物質を取り込む様式は役割や仕組みなどがほとんどわかっていない。今回このミクロオートファジーの仕組みの一部を明らかにすると同時に、ミクロオートファジーがリソソームの損傷修復に働いており、それが寿命の短縮を防いでいることを明らかにした。このことは、リソソーム損傷が老化の一因であることを示唆している。
阪大のプレスリリース https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20231121_1

Cui M, et al.(博士課程の大学院生で中国からの留学生崔夢瑩さんの仕事)
HKDC1, a target of TFEB, is essential to maintain both mitochondrial and lysosomal homeostasis, preventing cellular senescence.
Proc Natl Acad Sci U S A. 121: e2306454120 (2024)
リソソームとミトコンドリアはどちらも細胞の生存や健康維持にとても大事だが、しばしば損傷を受ける。今回損傷リソソームの修復と損傷ミトコンドリアの除去の両方に働くタンパク質HKDC1を見つけた。HKDC1を実験的に無くしてしまうと、細胞老化が加速した。老化した細胞が増えると個体も老化するので、HKDC1は老化を防ぐ大事な存在であることが判る。
阪大のプレスリリース https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2024/20240110_1

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?