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リサーチャー生産者たち

最近、面白い生産者と出会う。なにが面白いかというと、業種は色々なのだが皆さん我々研究者とよく似ているのだ。人間としてのスタンスが。

まず好奇心駆動型である(自分の守備範囲以外のものに対しても興味シンシン)、そしてこれまでの常識を疑う、論理的に考える、実験・試行錯誤を厭わず繰り返す、情熱が半端ない、etc。

いずれも優れた研究者に共通する資質だが、別に研究者の専売特許じゃなくて良い。

伝統的な産業では、従事者はどうしても型にはまって、これまで行われていたことを無批判に惰性で踏襲しがちだが、それでは突破・イノベーションは産まれない。

鹿児島県獅子島で超絶美味しいデコポンを作るPondOriginさんは、論文を読みあさり、直接役立たない生命科学の様々な知見も貪欲に吸収し、そこから産まれるインスピレーション、スペキュレーションからがんがん新しいことを試す、まんま実験科学者だ(実際プライベートな研究所を作ってしまった)。

ただ大学の先生とは違い頭でっかちにならず、あくまで土や天候と真っ正面から向き合っている点が素晴らしい。そして、美味しい柑橘類を作ることに賭ける情熱が今どき珍しいぐらい激しい。火の玉小僧だ。実はまだ会ったことがないのだが、それが分かる。

PondOrigin農園のデコポンやジュースは、ちょっと想像を超える味わいだ。信じられない甘さなのだが、すっきりもしていて、こんなことが果物で可能なのかと感動してしまう。

隠岐島で出会った漁師のLuckRiverさんの獲った石鯛の刺身を食べたとき、旨さに驚いた。さすが隠岐島、新鮮なんだろうと思ったら、5日間熟成させたという。

牛肉みたいだ。考えてみたら、牛でも魚でも筋肉の細胞の成り立ちは同じだから、熟成で旨味が出るのも一緒なのだが、そういう発想はなかったなぁ。ただし、ただ獲るだけではなく神経の処理が大事だそうだ。

彼は、魚をより美味しく食べるために、魚突き漁を行う。めちゃくちゃ効率が悪いし、体力も忍耐力もいる。でもそれでもペイする販路も開拓している。旨ければ高くても買う料理屋はあるのだ。うん、私もこれなら高くても払う。

彼もとても研究熱心だ。美味しさを追求し、そのためにどうすればいいのか、考え続けている。

3人目も隠岐島で出会った。陶芸家のCourageさん。陶芸家も広い意味で生産者。土を探し求め続けて,今の場所を見つけた。作陶には不向きな面もある土だが、工夫を凝らす。トライアンドエラー。そして隠岐焼を創設した。

工房に閉じこもらず、積極的に外に出て交流するところも良い。好奇心旺盛。クールでかつ暖かい彼の作品に魅了された。

みんな若い。それも素晴らしい。そしてこれは偶々だが、みんな島に住んでいる。まあ日本自体島国だから、日本中のあちこちに、こういうリサーチャー生産者(私が勝手に作った名称)がいるのかも。

もしそうなら、日本の産業の未来は暗くない。

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