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今だから考えるクラウドシステム導入の難しさ?! 「文化シャッターとIBMとの販売管理システム開発失敗訴訟19.8億円賠償」

こんにちは。

昨年の日経コンピュータの「動かないコンピュータ」シリーズに

「文化シャッターのシステムの開発頓挫で、日本IBMが19.8億円の賠償を命令ぜられた理由」

という記事が掲載されていました。ご覧になった方も多いと思います。

この事例は一般的なシステム開発案件ではなく、近年最も増えている
「PaaS型システム」「クラウド型システム」の導入失敗事例ということで改めて皆さんにシェアしたいと思います。

「IBMと文化シャッターとの開発失敗訴訟」ですが、以下のような経緯だそうです。

文化シャッターは2015年1月から販売管理システム刷新のプロジェクトを立ち上げました。最初に日本IBMに新システムのRFPの作成を依頼し、作成後、開発ベンダーの選定を行います。そして複数ITベンダーから提案を受けた上で、結局、日本IBMにシステム開発も委託することになります。

日本IBMからの提案は以下のようなものでした。

「Salesforce」の「PaaS」である「Salesforce1 Platform」を用いて、その上に標準部品で80%、それ用の専門言語である「Apex」「Visualforce」で20%
で開発して1年半後の2016年7月にカットオーバーする
総開発費用は約12億3400万円

そしてスタートした文化シャッターとIBMとの「PaaS型システム」開発プロジェクトは順調に進んでいたかに見えましたが、次々に問題が発生します。

1. 開発方法論の突然の変更
当初、両者はアジャイル開発とウォーターフォール開発の併用を目指していましたが、途中からウォーターフォール開発のみに開発方法を変更しました。

その理由は明らかにされていませんが、要件が膨らみすぎた、またはユーザー要件をハンドリングできなくなったのではないかと推測されます。
また、それ以前に、後にも出てきますが、IBMのPMがアジャイルに慣れていなかった可能性もあるかも知れません。

2. ユーザー受入テストで多数の不具合が発生したためPMを交代
受入テストを行ったところ、多数の不具合が発生した。最終的に1000件ほどの不具合であったが、日本IBMによると、そのうち800件は仕様変更であった。

この受入テストでの不具合1000件は多い気もしますが、その内のほとんどが仕様変更?であったことを考えると、純粋な不具合は200件で、決して多いとは言えません。日本IBM側がここでPMを交代する理由がこれだとよくわかりませんね。このあたり、日本IBM側の対応にモヤモヤします。

3. 実はこの時点で「Salesforce1 Platform」の標準機能の部分が5%で、カスタム開発の部分が95%となってしまっていた。これによって稼働後に年3回程度予定されている「Salesforce1 Platform」のバージョンアップへの対応が難しくなることが予想された。

この後の日本IBMの行動を見ると、この時点で日本IBM社内で最も問題となっていたのは1000件不具合の件ではなく、この「標準機能が使われていない」件であったと想像されます。

つまり、ウォーターフォール方式で開発していく中で、カスタムメイドでのプログラム部分をたくさん作り過ぎてしまって、これでは「Salesforce1 Platform」を使うメリットがない、むしろバージョンアップもできない、まずい、と気づいたのではないかと思われます。

実はこの時期にIBM米国本社のセールスフォース製品を専門とするチーム「Blue Wolf」(かっこいいネーミング!)が日本IBMと協議した内容文書が裁判に提出されていて、プロジェクトにダメ出しをしていたようなのです。
要は、日本IBMの従来PMと従来SEチームが作ったカスタム95%のシステムを米国本社の「Salesforce1 Platform」に詳しい専門家が査察?品質管理?に入って、ダメ出しをして社内で問題なり、PM交代となったのではないか、と想像されます。

今から考えるとプロジェクト前半にもっと「Blue Wolf」チーム巻き込んでプロジェクトを編成しておけばよかったのに、と思ってしまいますよね。

4. 文化シャッター側は、日本IBMが純粋不具合と認める200件を修正してシステムを稼働させることを日本IBMに要請する

5. ところが日本IBM側がこれを拒否して、新たに追加費用21億5000万円の「「Salesforce1 Platform」の標準機能を活用した再開発」を提案したが、顧客側は当然のごとく、これを拒否。

ここでの日本IBMの対応が非常にまずかったでと思われます。
いきなり追加費用21億円、元の提案金額の倍近くの提案って?
さすがに顧客側も納得できなかったようです。

全てがオンプレミス(クラウドではない)システムであれば、ここで200件の不具合を修正して、新システムを動かす、という選択肢がありました。
ところが今回当初より「Salesforce1 Platform」を使うということで作り直す提案しかできなかったと思われます。

つまり、要件が多く、カスタムメイドが多くなりそうなシステムは「Salesforce1 Platform」のようなクラウドPaaSでは無理がある、向いていないということです。どうしても「Salesforce1 Platform」を使うのであれば、文化シャッター側もカスタマイズはせずに、要件は極力、標準機能でまなかうことを理解して確約しておくべきでした。

また、逆に思うのは、今回のシステムは「Salesforce1 Platform」の「PaaS型システム」などにはせず、インフラだけAWSとかクラウドにして、あとは全部カスタムメイドで普通に作れば、こんなに揉めなくてすんだかもしれませんよね。

クラウドのPaaSを使うカスタムシステムは今後増えてくるでしょうから、この文化シャッターと日本IBMの案件は考えさせられる話です。

それでは。

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