どんな人生を歩んで、なぜ農家になったのか、聞いてみた その4
私達が運営する『東北農家fan&fundクラブ プリサポ』は、掲載されている農家さんを100円~支援出来る、サイトである。
『東北農家fan&fundクラブ プリサポ』(https://pri-sapo.com)
そのサイトに掲載されている農家さんは、どのような人生を歩んで、現在まで至ったのか、農家さんを取材をして、記事として掲載している。
noteでは、掲載されている農家さんを紹介していきたい。
第二の人生を桃に捧げた男
60歳で公務員から農家へ
桃源郷のような観光農園
青森県五戸町の高台にある『ももや観光農園』
とても見晴らしが良く、一日中眺めていても飽きないくらいの爽快感と、景色の美しさがある、とても素晴らしい場所であった。
私は、きれいに整備された農園を眺めながら、竹洞さんを待っていると、たくさん実がなっている桃の木のアーケードを、穏やかな顔で歩いてきた。
「暑い中、どうもご苦労様です」
竹洞兼雄さん、71歳。
月並みな言葉であるが、とてもそんな年齢を感じない、言葉の力強さと、知的な雰囲気があった。
竹洞さんは、ももや観光農園を運営し、毎日桃と格闘している。
前職は公務員だったよ!
「前の仕事は、消防員で公務員だったから・・」
観光農園とは似つかわしくない言葉が、竹洞さんの口から出てきた。
竹洞さんの前職は、八戸広域の消防職員であった。
「やりがいのある仕事がしたい」
その言葉と共に、当時を振り返った。
竹洞さんは、デスクに座りながら仕事をする、「ホワイトカラー」を好まない性分であった。
消防員として、救助活動を通して、人助けに関わりを持ち、人に感謝されることに生きがいを感じながら仕事をしていた。
しかし、定年間際は、デスクに向かう仕事が多くなり、その実感も薄れていったという。
「もう一度、やりがいのある仕事がしたい」
その想いが、定年後、第二の人生を送る原動力となった。
「定年したら、残りの人生15年、もしくは20年、限られた時間の中で、もう一旗あげて勝負したいと思ったんだよ」
在職中から、定年後は農業をやろうと考えていたという。
当時を振り返る竹洞さんの表情は、一片の後悔など感じさせず、言葉にしてくれた。
そう話しながら、竹洞さんは感慨深く、『ももや観光農園』の一面を見渡していたのだった。
独学で学び、ゼロからのスタート
なぜ『桃』だったのか、竹洞さんは経営者的目線で、戦略的に桃を選択したのだ。
桃は苗木から3年で実を付け始める。
「桃、栗3年。柿8年。この歳から始めるなら、桃だと思った。この辺りで、やっている人も少なかったからね」
3年という短期間で収穫できるという事と、地元周辺では、桃を大規模にやっている農家が少なかったという理由。
戦略的な理由で桃を選んでいるあたりが、経営者の感覚を持ち合わせていると感じた。
今のももや観光農園は、元々、竹洞さんの父親がりんご農園を営んでいたが、数年間もの間、放置されている状態だった。
そのりんご農園だった場所に、≒55rの桃の木を3年間かけて230本もの、桃の木を植え直したのである。
「退職金を使いながら、植え替えていったよ、桃を育てる為の土壌を変えるのが一番の苦労だったね、環境づくりが大事だから。木が健康に育つには、根が大事だからね」
農業の知識、桃の知識が無くても、食物を育てる本質は見抜いていたようだ。
五戸町周辺では、桃を栽培している農家はほとんどなく、大量の本を読み漁り、他県で桃農家を探しては、ノウハウを教えてもらい、遠方の桃農園を視察に行くなど、ゼロからのスタートとなった。
竹洞さんは笑いながら、こう話した。
「でも妻は何も言わなかったよ、寛容な人だな!(笑)」
まるで、当時の苦労を楽しんでいたかのようであった。
桃一個100円の想い、地元で愛される直売所
「私たちからすれば、桃は行事ごとがある時しか食べられない高価なもの。その桃を安く買ってもらい、みんなに食べてもらいたかった」
その気持ちは、竹洞さんが販売する桃の値段を見れば、一目瞭然だ。
「1個100円の桃は、やり始めの頃から変わらないよ」
倍以上の値段で、スーパーなどに並ぶような桃が、1個100円とは驚きだ。
観光農園に来るお客さんは、沢山にぶら下がっている桃の木を眺め、一生懸命吟味し、その桃をカゴ一杯に詰めている。
6月初旬から9月中旬頃までが、観光農園のシーズンである。
「口コミで広がって、近場の人達だけでなく、遠方からのお客さんも多い、外国の人もたくさん来てくれる、有難いね、景色も良いからみんな必ず写真を撮っていくよ」
竹洞さんは、とても嬉しそうに話す。
竹洞さんにとって、お客さんが桃を喜んで食べてくれることが、一番の喜びであり、『価値ある仕事』となっている。
美味しさを追及する飽くなき探求心
「毎年、試行錯誤、その年の反省を生かし、課題を持つ。去年の桃より美味しくしたい、美味しさの為に土壌環境を改良し、研究を重ねる、毎年が勝負だよ」
やはり、美味しさを求める探求心は計り知れない。
「桃を育てている中で、一番の喜びは収穫する時だよ、たくさんの桃が色付き始め、それを一つ一つ収穫する、その年の集大成だから。毎年、子供を育てているようなものだからね!」
竹洞さんが笑いながら、見つめる先には、桃狩りを楽しんでいるお客さんがいる。
竹洞さんが言う『やりがいのある仕事』
それは、消防署員時代、人助けをし、感謝されることに感じていた。
今は違う。
『やりがいのある仕事』とは、お客さんが桃狩りを楽しみながら、桃を食べ、美味しいと喜んでくれること。
『いつまでも人の為に尽くす事』
竹洞さんの桃を食べると、熱意と優しさが口の中に広がってくるようである。
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