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バイオリニストと万年筆

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小説。小説家志望の「私」と、左利きのバイオリニストである「彼」のおはなし。ドイツと日本で手紙の交換をはじめ、それぞれが抱える葛藤を少しだけ前進させるまでのこと。
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記事一覧

短編 バイオリニストと万年筆12(最終話)

「お久しぶり、今日はよろしく」 バックヤードで仕事の準備をしていると、クッキーを突き返し…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆11

演奏後、ノージャケットのスーツ姿で彼は、気がつけば隣に立っていた。 後ろへ撫で付けた髪が…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆10

開演10分前に到着したが、人はまだまばらだった。 女性のお客さんが多いが、男性もまあまあい…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆09

何かが起こるまで、私は待った。 その間、仕事で様々な家電量販店に派遣され、新しい場所へ行…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆08

「高校の3年間、右利き用のバイオリンを練習している間ずっと、僕はこうじゃないのにと思い続…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆07

「どうして僕が手を抜いて演奏をしていることがわかったんでしょうか」 彼から来た手紙の返事…

高梨ぽこ
3年前
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短編  バイオリニストと万年筆06

「善意を蹴飛ばす。 相手の重さや軽さに引きずられない。 自分が本当に思ったことを言う」 私は今日職場で受取拒否をされたクッキーをかじりながら、ノートの端っこにその、三つの言葉を書き連ねてみた。 これは極端だ、とわかっていながらも、彼の手紙が纏っているさりげなさや、長すぎずも短すぎずもしない適切さ、飾らなさ、素直さ、ラフさ、でも紳士的。そんな、私の感じ取るあらゆる美点が、眩しかった。私も同じだけの美点を、手紙に込めたいと思ってしまっていた。 「美点」を同じだけ込められるという

短編 バイオリニストと万年筆05

飲食店でアルバイトしていた時、料理人の先輩が教えてくれたことがある。 どうして料理人は作…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆04

手紙の返事がなかなか書けずに、5日間が過ぎた。 彼が一度使ったあの万年筆を弄び、日がな真…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆03

仕事帰りに郵便受けで見つけた手紙。 私は帰宅するなり手を洗って、足だけシャワーで流して、…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆02

向こうに着いたら僕から手紙を書きます、と彼は言った。 このまま手紙がこない、ということも…

高梨ぽこ
3年前
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短編 バイオリニストと万年筆01

「僕は左利きなんだけど、使っても構わないですか?」 私が差し出した万年筆に伸びかけた手は…

高梨ぽこ
3年前
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