四つ星レストラン
友人の結婚式の二次会は、エキゾチックなタイ料理をフレンチ風にアレンジしたレストラン。内装はレトロな感じ。70〜80年代のデザイン。インテリアを古く見せるように加工が施されている。けれど決してわざとらしくないのが好い印象を醸している。わたしたちはすぐにそのレストランを好きになった。嫌いになる理由はひとつも見当たらなかった。わたしたちは、チャーンの樽生ビールを注文した。ビア・シンの樽生だったら、用意がある店もたまになくはないけれど、チャーンの樽生を置いている店は初めてだ。一瞬、自分の眼を疑った。わたしたちは顔を見合わせて、お互いが同じことを想っているのを確認して微笑みあった。あなたはビア・シンの樽生を2人分注文してくれた。いつも通り、あなたはパイントで、わたしはハーフパイント。程なくして3つの円卓を囲むすべての人々にドリンクが配られた。給仕たちはドリンクをつくる順番を心得ているようだった。樽生ビールは一番最後に円卓に運ばれてきた。そのため、時間の経過によって泡のきめ細かさが劣えたりするようなことはなかった。幸せな日の幸せなビール。わたしの左手はあなたの右手をぎゅっと握りしめた。すると、ほどなくしてそれはぎゅっと握り返されたので、わたしはびっくりして、体を仰け反らせてしまう。あなたは無言でわたしの顔を心配そうに覗いて、大丈夫? と訊ねてくる。大丈夫、わたしたちの目の前には前菜が、すでにサーブされているのだから、まずはそれを食べましょう。わたしは左手をつかわずに、右手に掴んだフォークだけでエビとサーモンのシャルロットを食べた。あなたは利き手と反対の——左手で不器用にフォークを握って苦戦するようにそれを食べた。皿のうえで、エビはまだ生きているみたいに、あなたのフォークに捕まるのを嫌った。
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