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手と手

地下鉄の階段を上って、銀座の地を歩き始めた頃、太陽は今にも沈もうとしていた。夕空は青と桃色に染められ、一面のアスファルトは真っ黒いテーブルクロスみたいに闇を敷き詰めていた。頭上の空が粘り強く明るさを維持しようとしているのと対照的に、足もとでは一足早くに、夜のしたくが始められているみたいだった。ショーウィンドウを横目に夫と手を繋いで歩いた。時折、わたしのスマートフォンが鳴ったり、夫のスマートフォンが鳴ったり、同時に鳴ったりすることがあった。その度にわたしたちは、繋いだ手をいったん離して、各々スマートフォンを見やる。見終えて、夫がそれを上着のポケットにしまったら——わたしがトートバッグのなかにそれをしまったら——もう一度手を繋ぎ直す。自然と。どちらか一方が差し出した手を、どちらかもう一方の手が迎える。


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