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When We Were Young 《アデル全曲紹介3/39》

昨日発売したアデルのアルバム「30」を買い、今、バスに揺られている。ショートヘアの女の子と別れた彼はどこで降りるのだろうとか、マスク越しでもわかる香水の匂いをかぎつつ、人は年をとれば誰だってこんな香りをつけるようになるのだろうか、とか取り留めもないことを考える。

周りで読書灯をつけているのは私しかいないから、他の乗客からも外の車からも、私だけ光って見えるかもしれない。人生を振り返るには早すぎる年齢だが、周りの視線が年々気にならなくなってきていると感じている。

話が逸れてしまった。大事な新アルバムを買った今日は、アデルの曲で一番好きな「When We Were Young」の話をしよう。


曲の基本情報

2015年発売の3rdアルバム「25」に収録。今年公開されたVOGUEの73インタビューにて、過去作の中でのトップ3を訊かれた際にこの曲を挙げているほどの自信作だ。語りかけるような序盤から、地面を揺らすような終盤のハイトーンまでの移り変わりが圧巻。


あなたとアデル、二人だけの空間

目を覚ますとあなたはスポットライトを浴びている。ステージの上にいるのはたった二人。あなたとアデルだけだ。

彼女は正面を向いてたたずんでいる。あなたはそれをほぼ真横から見ている。金髪の1本1本や、衣装から舞うホコリが見えるくらい、彼女との距離は近い。

ピアノがどこからともなく鳴り始める。スゥッと大きく息を吸い、アデルは歌い出した。

客席には誰もおらず、非常口の緑と白だけが発光している。彼女は暗闇に向かって歌っているのだ。力強く、憂いと湿り気を帯び、天井を突き破って雲を掴みそうなほどの伸びやかな歌声。あなたはその声に迫られ、世界が自分と彼女の声だけになったように感じる。

「あのアデルが自分のためだけに歌ってくれているんだ」と錯覚するが、彼女が歌っているのは誰のためでもない。最高の出来で誇らしいこの曲を、観客のいないホールでひとり、淡々と歌っているだけなのだ。でもその姿、声があなたの胸を打ち、自然と涙を溢れさせる。

"movie"という単語が出てくる「When We Were Young」。この曲自体が壮大でドラマティックな映画のようだと私は思う。


夢が現実になったような人

You're like a dream come true      夢が現実になったような人

この歌詞で思い出したのは、「夢のような人だから」の歌い出しのKOH+「最愛」。

「最愛」は曲名通り、死ぬまでずっと消えない不変の愛がテーマだと思う。一方で「When We Were Young」は、再会して思い出した恋が何年たってもかすかに燃え続けている、という感じがする。いつかは消える火として。

ただ、どちらも「自分には勿体ないくらいの素敵な人だった」と夢を夢のままに終わらせているのではないか。2曲聴いてみると面白い。

夢みたいに素敵な人、あなたにはいますか?いましたか?人じゃなくてもいい。動物でも、物でも、場所でも。せわしない現実を抜け出して、夢の中に連れて行ってくれる存在こそが、私たちの生きる意味だと思うのです。その存在への恋や愛は消えても、無我夢中になった「若かったあの頃」はずっと残り続ける。あなたの中に。そしていつでも、手にとって眺めることが出来るのです。


書いてみての感想

大好きな曲はバスの中でも思考が進みますね。


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