【短編小説】水面から顔を出して
足音をわざと立てて歩くのはわりと疲れる、とラスターは思った。盗賊兼情報屋兼何でも屋という職業柄、自分の居場所をお知らせするような振る舞いはしたくない。とはいえ日中の大通りを忍び足で歩くほどバカでもない。口笛で流行の歌を吹きながらそれらしく歩いていると、井戸端会議に盛り上がる婦人の集団を見た。
「あのアンヒュームたちが街を破壊した事件があったでしょう? 私ほんとに怖くて怖くて」
それに八百屋の婦人が笑う。
「アンヒュームなんてね、見れば分かるんですよ。私はね、長らくいろーん