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思わず涙ぐんだ、「人生が1時間だとしたら」(こどもと詩⑧)

詩のソムリエが子育てのなかで考えた、詩のはなしをちょこっと。今日は、息子の人生を思ってほろりとした詩を紹介します。

窓辺にうつる思い出たち

0歳5ヶ月の息子は、電車に揺られ、わたしの胸ですうすう眠っている。揺れが心地いいのだろう。わたしも親になったからこうして目をあけているが、車や電車でよく眠ってしまう質だ。車窓からの光が、赤子のふわふわの毛で遊んでいる。今日もいい天気。

子を起こさないように、かばんからそっと本を取り出した。
斎藤倫さんの『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集 』。
おとなの男性である「ぼく」と小学生の「きみ」とが、20篇の詩をめぐってさまざまな考えをめぐらせるストーリーだ。

そのなかに、こんな詩があって、わたしは思わず涙ぐんでしまった。

「人生が1時間だとしたら」 高階杞一

人生が1時間だとしたら
春は15分
その間に
正しい箸の持ち方と
自転車の乗り方を覚え
世界中の町の名前と河の名前を覚え
(中略)
それから
覚えたての自転車に乗って
どこか遠くの町で
恋をして
ふられて泣くんだ

春は、季節ではなく、人生の春(青春)ということだろう。15分の間に、実にいろんなものと出会い、知り、自分の足で遠くまで行き、生まれた街を離れ、そして恋を知る。ちょっとほろ苦い恋を。

人生が1時間だとしたら
残りの45分
きっとその
春の楽しかった思い出だけで生きられる

『高階杞一詩集』(ハルキ文庫、2015年)

これを読んで、「ほんとうのことが書いてある」と圧倒された。そしてぶわぁっと、春の思い出が蘇った。辛いことの方が多いと思っていた青春だったけど、なつかしい顔や、楽しかったデート、踊って、笑い転げたこと…思い出たちが車窓に映って胸がいっぱいになった。

わたしの人生は青春から朱夏へ。残りの人生は、じゅうぶんすぎる思い出たちが、わたしの心を暖めてくれるだろう。

「男の子です」と言われた日から

さて、わが息子は、どんな「15分」を過ごすだろうか。

男の子です、と産婦人科医に言われた時から、おなかの中のひとは生命物体ではなく「男の子」としてイメージを結んだ。男の子かぁ。どんなスポーツをするのかな。どんなお友だちができるのかな。どんな人を好きになるのかな。

子を産んでからというもの、小学生男子たちが楽しそうにボールを蹴っていたり、男子高校生たちがなかよく自転車を並走していたりすると、息子の将来の姿に見えてきて胸が熱くなる。いい仲間に恵まれるといい。たくさん笑って、失敗して泣いて、また顔をあげて歩いていけるといい。

わたしの15分も、なかなかいいものだった。息子の人生の春もまた、あたたかくて楽しい思い出に満たされますように。

↑ In the Morning(人生の朝)という曲を思い出した

▼これまでの「こどもと詩」シリーズ
① 詩のソムリエ、母になる (新川和江「赤ちゃんに寄す」)
② 鯉のぼりの、その先(まど・みちお「うさぎ」)
③ 生まれたての君(ウィリアム・ブレイク「行きて愛せ」)
④ 世界に用意された椅子(新川和江「わたしを束ねないで」)
⑤ 淋しいという字(寺山修司「Diamond ダイヤモンド」)
⑥ 詩のソムリエと子守唄(北原白秋「揺籃のうた」)
⑦ 出産の勇気をくれた歌(阿木津英「産むならば世界を産めよ」)

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