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“無戸籍” を描く作品

Poetic Mica Drops音担当茂野です。
私が音楽を担当している舞台演劇作品「川辺市子のために」公演が、2月3日よりサンモールスタジオ(新宿)で始まりました。
作•演出 戸田彬弘
主演 大浦千佳

この作品のテーマは“無戸籍”です。

離婚後300日問題

現代の日本において、生まれた子が無戸籍となる要因の多くが、“離婚後300日問題”だと言われています。
女性が前の夫との離婚後300日以内に新しいパートナーとの子を出産した場合、生まれた子の父親は前の夫と推定されるという、明治時代から続く民法の規定が残っていて、これが問題なのです。
この条件下で出生届を出すと、生まれた子は前の夫の戸籍に入ってしまいます。
前の夫が否認した場合にはそうはならないのですが、離婚の原因が夫からのDVなどの場合、女性は前の夫と連絡を取ることを避け、生まれた子の出生届を出さず、その子が無戸籍のままおかれてしまう、という現実があるのです。

「川辺市子のために」の主人公•川辺市子は、こういった背景をもち、抗えない境遇を背負い、無戸籍のまま生きている女性として描かれています。

演劇「川辺市子のために」

物語は、1987年に生まれ2015年に謎を残したまま行方不明になった川辺市子の人生を、市子に関わった人々の証言から解き明かしていく構成になっています。

川辺市子とは何者だったのか?

抽象的な舞台空間でセリフが交わされていきます。

無戸籍のまま育った市子には3歳年下で戸籍のある妹月子がいました。月子が2歳の時に難病で寝たきりになると、母なつみは市子と月子の名前と年齢を入れ替え、市子が実年齢9歳の時に6歳の川辺月子として小学校へ入学させます。市子は月子の名前で高校まで通うことになります。戸籍のない市子に少しでも普通の生活をさせてあげたいという母の思いだったのかもしれません。
しかし市子は、高校3年の時に起きた事件をきっかけに、嘘の自分を捨て、本当の自分、本当の名前で生きたいと歩み出します。
その後の生活の中で出会った友人、一緒に見た儚い夢、恋人とのひと時の幸せ、失踪、残された謎。
市子に関わった人々の証言から浮かび上がる市子の実像。
市子という本当の自分、月子という嘘の自分。

正解とは? 間違いとは?

演劇「川辺市子のために」を観る観客は、正解は何かということが分からなくなるかもしれません。
市子も、自分のしてきたことが正しかったのか間違っていたのか分からないまま生きています。
それでも生きていたいと叫ぶ市子の言葉が耳に残る中、舞台は静かに暗転していき、終演します。

映画「市子」

演劇「川辺市子のために」は、演出家戸田彬弘氏自身が書いた戯曲です。
初演が2015年、再演が2018年。(再演時に同時上演された「川辺月子のために」には、Poetic Mica Drops声担当熊谷弥香が出演しています)
そして、この原作を基に、戸田彬弘氏が映画監督として自ら映画化した作品が、2023年12月8日から公開されている、杉咲花主演「市子」なのです。(映画は現在も公開が続いています)


“無戸籍”という社会問題の解決へ

公開まで伏せられていた映画「市子」のテーマは、もちろん「無戸籍」です。
この無戸籍という社会問題は、世の中ではあまり広く知られていなかったようで、映画を観て初めて知って衝撃を受けた人が多かったみたいです。

無戸籍者支援団体の長年の働きかけもあり、国会と行政が動き、無戸籍問題は少しずつ解決に向かっています。明治時代の倫理観を基にした民法が、部分的ではありますが、ようやく改正されます。改正民法施行は今年2024年4月1日。
大きなポイントは、離婚後300日以内に子が生まれた時点で新しいパートナーと結婚していれば、生まれた子は新しいパートナーとの子として認定される、というところです。これで市子のような無戸籍児は確実に少なくなると思います。
今回の改正民法に対し、まだまだ問題解決にはほど遠いという意見も多く聞きますが、このわずかな前進が、この先へ向かう大切な一歩だと私は感じています。

市子の言葉

ここで「川辺市子のために」ラストシーン、市子の言葉をテキストで、そこで流れる音楽と共に公開します。
市子の心の叫びを文字から感じてください!
大浦千佳演じる市子の声でお聴きになりたい方は、ぜひサンモールスタジオへお越しください! 公演は12日まで続きます!

茂野

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