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やりたいことだけをやっていたら、それが仕事になっていた【4/5】 【ワーホリ、その後#004】

※本記事は全5回の第4回です。【 第1回第2回第3回

“―あれから、3年”。

「それってなんかさ、ドラマの最終回がいきなり見られるみたいで、ある意味おもしろいんじゃない(笑)?」

2018年、一度はお蔵入りさせてしまっていた2015年のインタビューを、「本当に今さらで申し訳ないが公開させてほしい」と連絡をとったとき、 もとさんはけっこう本気でそう言ってくれた。

「まじでまじで、いいと思う。スポーツ選手とか有名人なら、『あれから3年後』とかいくらでもとれるけどさ。一般人の『あれから3年後』とかってそうそうないから。3年前のインタビューでこう言ってたけど、実際はその後すぐそれを辞めちゃいました、とかもありうるじゃん。3年前の自分が言ってたことが、現在にもちゃんとつながってるんだ、とかわかるしさ

いや、ほんとうにすみませんでしたと謝る私を、そんなふうにひょうひょうと励ます。やっぱり変わらずの自然体で、でも熱量をこめてそんなことを言ってくれるもんだから、あらまあそうかしら、なんて気分にもなってしまう。

“熱いのに自然体。ふざけているようでものすごく真面目。そしてフラット。それが私の中の、もとさんのイメージだ。”

これは3年前の私が書いた、プロローグ冒頭の文章(今回、原稿をみせたとき、本人はこの書き出しをいたく気に入ってくれた)。

―あれから、3年。

追加インタビューをするため、スカイプ越しにひさびさに話したもとさんは、そのイメージと何も変わっていなかった。

3年前、「やりたいことだけをやる」と言っていたもとさん。その後、どんな日々を送ってきたのだろう。前回のインタビューは帰国したばかりのころだったけれど、それから月日がたったいまも、日本の中で変わらず、あのマインドを保てているのだろうか。

ワーホリ、その後。

今年36歳を迎えるもとさんに、その後の「その後」を聞いた。

■事業を拡大、4本柱で展開中

↑ アロマ商品の調合風景。材料をオーストラリアから輸入し、ひとつひとつ手作業で調合しているという。

さあ、さっそく近況を聞いていこう。まずは、仕事の話から。

「前回インタビューしてもらったときは、整体だけだったよね。収入源がひとつ。いまは、収入源が、自分の中で4本柱で。まずは整体と、整体師の育成。あとはアロマブランドの商品販売と、サッカースクール

さすがもとさん、相変わらずいろいろと動き続けている。まず、商品物販というのは初耳だ。聞けば、オーストラリアから輸入した原材料をもとさんのところで調合して、オリジナルのアロマ商品をつくっているのだという。

「これはね、アロマスプレー。空間にスプレーしたり、ティッシュに塗布して香りを吸入したりするとストレス軽減するっていう。いま4種類の香りで出してる。あとバスソルトも作ってるわ。これも材料をオーストラリアから輸入して、うちで調合してて」

実物の商品をスカイプ越しに画面で見せながら、説明してくれるもとさん。整体業のかたわら、アロマ商品の物販を手がけるという発想は、どこからきたのだろう。

もともとオーストラリアにいるときに、アロマの資格をとってたんだよね。世界アロマセラピー機構の資格。その当時は趣味レベルでとってたんだけど。整体業のかたわらで他にもいろいろやってみたいと思ったとき、『あ、俺アロマの資格もってるし』と。調合とかこまごました作業も好きなんだよね。とにかく、好きなことしかやらないから

さっそく出た「好きなことしかやらない」のフレーズに、ああ、変わっていない、とひそかに嬉しくなる。

↑ もとさんの営む麻布十番のクリニック「Body Therapy Ten」でつくっているアロマブランド商品。現在通販ショップはないが、気になる方はこちらからお問い合わせを。

「これは炭酸バスと、ハーブと、ソルトの3種類を入れてあるんだけど。それぞれ単体の商品はわりとあるんだよね、炭酸バス単体とか、ただのピンクソルトをお風呂に入れるとか。それを3つ全部加えちゃったという。これが炭酸バスで、ここにハーブがちょっと入ってて」

宣伝しようとがっつくわけもなく淡々と、画面越しに商品説明をしてくれるもとさん。1つ1つ手作業で詰めていくのは手間がかかる。でも好きだから、その作業も楽しい、という。美容院や薬局での売れ行きもなかなか好調だとか。

自分の好きなフィールドで、楽しみながら、納得のゆくものをつくり、売る。自然と結果がついてくる。シンプルだけれど往々にして見失いやすいところを、見失わない。

■ 整体の知識を投入したサッカースクール、始動

4本柱の最後の1本は、サッカースクール。

オーストラリアでサッカー講師としても生徒たちから絶大な支持を集めていたもとさん、日本でも新たにサッカースクールを始めるという。

「サッカースクールはね、いまはまだ、個人で一対一でしか教えてないんだけど。7月には、1回6、7人くらいのグループで教える、個人能力アップ専門のスクールっていうのを始めようと考えてるんだよね」

さっきまで女子力あふれるアロマ商品について熱く語っていた人物が、もうその次の瞬間、サッカー講師の顔をして語っている。しかもどちらも、本人がメインでやっている話だ。この多面性がまた、彼の魅力でもある。

「で、やっぱり、普通のサッカースクールをやりたくなくて」と語るもとさん。それが「個人能力アップ専門の」というところにあらわれていると思うのだが、わたしがサッカーにうといので、具体的にどういうことをやるのか聞いてみよう。

「まずね、サッカーに必要な要素の表をつくるわけよ。シュート、とか、ドリブル、とか。それで、たとえばドリブルなら、10種類、自分の得意なドリブルをつくるために繰り返し繰り返し練習する。シュートも、あるシュートがきれいにできるようになるまで、繰り返し練習する。そういう教え方ってあまりしていないから。でも得意な技を作っておけば、試合中に自然とそれが出せるんだよね」

ふむふむ。項目別に特訓して、その技を自分のものにしていくんだな。一般的なサッカースクールとはどう違うのか、もうちょっと聞きたい。

「一般的なサッカースクールだったら、シュート練習します、というとき、コーチがボール転がしてきて、生徒が一列に並んで、順番に次々と打っていく、みたいな感じ。俺がやろうとしているのは、一回蹴ったらとめて、これ、この場所で蹴るんだよ、ってのを覚えてもらうんだよね。整体師の観点も入れて、そのしくみを体に覚えさせるというか

たしかに、整体の知識、解剖学の知識があると、筋肉や骨の上手な動かし方についても専門的なアドバイスができそうだ。

「ドリブルとかでもさ、『またいで、抜く』みたいな動きがあるわけよ。でも最初はその動きをうまくできないわけ、股関節が固いから。それで、まず股関節を柔らかくするためにはどうしよう、みたいなところからはじまっていく。走るのが遅い子もさ、普通のサッカースクールだったら、ひたすら走り込むんだけど、そうじゃなくて。どこの筋肉をどう使って走るんだ、というのを、解剖学に基づいて教えていく。整体師とサッカーコーチが組み合わさったパターンってなかなかないと思うから

おもしろい、すごく。なにより自分の好きな整体を、自分の好きなサッカーに活かす、さらにどちらも仕事にしてしまうという発想がまた、もとさんらしいな、と思う。

「感覚じゃなくて、実際にからだには筋肉があるわけだから。それを正しく使うと、ものすごいことになるんじゃないかと。だから、個人能力アップ専門のサッカースクール。あえてチームプレーとかは一切無視してね。個人の能力をひたすらあげて、日本代表にっていうのが僕の目標なんだけど

突然とびだした”日本代表”、という言葉にドキッとする。スクールの本格スタートは7月からになるということだが、目指すべきところ、いや、目指したいところは、すでに彼のなかには明確にあるのだろう。応援したい。

■ 好きなことだけやって、生きてます

整体師、整体師養成、アロマ商品の製作販売、そしてサッカースクール。

もとさん、相変わらずいろいろやっているねぇと言うと、こんな言葉がかえってきた。

「まあ好きなことだけやって、生きてます」

もうこの言葉が聞けただけで、今回追加インタビューをできてほんとうによかった、と思う。前回のインタビューの最後に「やりたいと思っていることを追求し続ける」と語っていたもとさん。3年後のいまも、その言葉は確実に受け継がれている。

一方で、彼はこう続けた。

「いやぁ、でも、失敗も多くて。たとえば美容師さんと組んで、アロマシャンプー作ろうって話があったんだけど。もう商品も完成したってときになって、美容師さんのイメージと最後の最後ですりあわなくて。何十万かかけて作ったんだけど、全部おじゃん、とかね。あとは整体を教えている生徒さんでも、途中でうまく噛み合わなくなってさよならになっちゃった人もいたし。まあ試行錯誤しながら、今やっと四本柱といえるようになったという感じですね」

失敗談も入れていかないとね、と笑いながら、そんなふうにさらさらと失敗を語る。

そう、一部を切り取れば順風満帆なように思えるストーリーも、その成功までにはいろんな苦労や、けっこうディープな逆境なんかが隠れているものだ。

いわゆる”成功”しているように見える人は、ただ単に、行動の絶対量が多いだけなんじゃないかなぁ、と、最近思う。ひとつの種をまいて、それが枯れたことを嘆きつづけるんじゃなく。どんどん新しい種を巻き続けていれば、枯れてしまうものもあれば、花が咲き、実をつけるものもある。

誰のことばだったか「成功の秘訣は、成功しつづけるまでやることだ」みたいなフレーズを耳にしたことがあるけれど。きっと、そういうことなんだろう。

■ 技術を磨きつづけていれば、結果につながっていく

もともとの整体業のほうも、いまではクチコミで順調にお客さんが増え、事業も安定しているそうだ。「ありがたいことだよね」と、つぶやくもとさん。

それでもやはり、最初から絶好調、だったわけじゃない。

最初の、1、2年目とかはいつも考えてたよ。大丈夫かな、大丈夫かなってのは。3年目、去年くらいからじゃない? 安心してそんなに考えなくなったの。最初のうちはやっぱり、頭を悩ませてた。でも、広告とかはやらなかったんだよね。クチコミでやりたいと勝手に思っていて」

それは技術に自信があるからこその戦略。実際にいまでは、自然とその結果もついてきている。けれどその、不安だった時期はどうやってのりこえてきたのだろう。

「不安は不安だったけど、でも時間があれば、勉強して技術を増やせるから。勉強にうまく費やせたと思う。開業したときは、整体業として5年目だったから。まだまだわからないこともいっぱいあって。苦手だと思う症状もいくつかあったけれど、この時期に勉強して、克服することができた。それで結果、お客さんの症状をしっかり治せるようになって、ここなら治せる、っていうクチコミが広がってくれたのかもしれない」

お客さんに媚を売ったり、誰か紹介してくださいよと言ったこともない。ただただ、症状を治すことを追求して、そのための技術を磨き続けた。

それを続けているうちに、症状が治ったお客さんたちが、からだがつらくて困っている身近なひとたちを、自然と紹介してくれるようになったのだという。

「だから1、2年目の、まだお客さんが全然入らなかった時期も、よかったと思うよ。学べたから。ほんとに。いい時間だったと思う」

不安だったその時期も、いまではそんなふうに振り返る。

■ 奥さんの「どうにかなるよ」に励まされ

↑ ハワイ・ワイキキでのウェディング撮影のひとこま。お幸せに!

ちなみに、その不安定な時期を乗りきることができた背景には、奥さんの精神的な支えも大いにあったそうだ。

そうそう、この3年間に起きたプライベートの変化も聞いておかないとね。

「オーストラリア時代に出会った彼女とは、1年弱の遠距離の期間を経て、日本に帰ってきて、2年目にプロポーズをして、3年目、去年の3月に結婚しました」

おめでとうございます!

「またね、奥さんが本当にいい人でね。それに助かってるよ」

こちらからまだなんの質問も投げかけていないのに、こんな言葉がさらりと出てくるところに、ふたりの関係性が垣間見えて、いいなぁ、とほほえんでしまう。たとえばどんなところ?と、聞いてみちゃおう。

「なんかね、常に軸があって、感情の変なアップダウンがないのよ。こう、常にフラットになってるから。怒ったりとか、感情を全面に出したりとかがないの。付き合いを初めてからだと5年目だけど、ケンカをしたことがない。仕事でトラブルとかがあったとしても、プライベートでストレスがなくて。だからなんとかうまくやっているんだろうと思うよ」

フラットなもとさんが言う、フラットな奥様とは。なんて安定的に互いを支え合えるご夫婦であることか。話を聞きながら、我が身を振り返ってちょっと反省する。こちとら、子どもが生まれてからはケンカばかりのような……? まあこれはあれだ、また3年後くらいに経過を聞いてみたい(笑)。

いずれにしても、そうやって落ち着いて支えてくれる奥さんの存在は、事業が軌道に乗る前の1、2年目も大きかった。

「どんなときでもそれこそフラットでいてくれたから、助かったよね。そのときに、『このままで大丈夫なの?』とか言われてたら、もうどんどん追い詰められて、いやになっていたと思うけど。そういうの一切なかったから。どうにかなるよ、私も稼いでるし、みたいな感覚でいてくれたから、助かったね」

いいなぁ。オーストラリアで出会ったという奥さんも、海外生活経験者の「その後」を追う身としてはぜひ、いつかぜひ話を聞きにいってみたい。

「だからこそ、結婚しようと思ったんだよね。大丈夫だと」

心が、もうほかほかとあたたまった。

(つづく)

* * *

いよいよ次回、最終回。ひととおり近況を聞けたところで、そんなもとさんに、働き方、生き方について思うところをもういちど聞いてみました。

第5回 <2018年追加インタビュー>
・ 海外生活は、いまの幸せの起点
・ とりあえず一回、からっぽな自分になってみる
・ 今も常に、つぎは何をはっちゃけようか考えてる

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