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どこかのだれかに宿る、ストーリー。

昨日、とある取材で素敵なご夫婦の自宅に伺ってお話を聞く機会があった。

取材内容としても、人生の転機や生き方に触れるものだったので、おふたりの想いにふれてなんだかこちらまでわくわく、幸せな気分になった。

ああやっぱり、ひとの生き方に触れるストーリーを伺うのは、とても魅力的だなあ。それにまつわるインタビューは、やっていて幸せな仕事だと思う。

これまで何度も思ってきたことだけれど、何度でもまた、思うんだろう。

単純に、わたしはこれが「好き」なんだなあと、最近は自覚するようになった。

* * *

先日、まだ通いはじめて2回目の美容室で髪を切った。

たわいもない雑談をしていたはずが、いつのまにかついつい、美容師さんのストーリーを聞こうとしてしまっていたりする。

「10代で進路を決めるって、すごいなあと思うんですよね……。どうして美容師になろうと思ったんですか?」と、なんだか純粋にそのひとの背景を知りたくなって、聞きはじめてしまう。

もちろん答えたくないようなそぶりがあれば、それ以上深追いはせずに話題を変える。けれどたいていは、そーですねえ、と言いながらちょっとはにかんだような目をして答えてくれたりして、ときには予想もしなかったような思いが聞けたりもするのだ。先日はこんな感じだった。

「実はもともとやりたかったのはコスメなんですけど。結局、就職先を探すときに、コスメだとすごく限られてて。美容部員になってブランドの商品を売りたいわけじゃないしなあって。わたしはほんとうは、自分に自信が持てないっていうか、そういうひとがメイクを通して自信をもってもらえるような、そんなことがしたかったんですけど……」。

パッと見の偏見を承知でいえば、いわゆる“キラキラ女子”から、そんなふうにとても真剣な想いが出てきたりして、ハッとする。無意識に先入観でラベリングしていた自分が恥ずかしくなる。

ああ、そんな背景を持って、いま彼女はここで髪を切るにいたっているのか。どうりでわたしのくせ毛コンプレックスのカウンセリングもていねいだし、悩みをちゃんと解消してくれようとする姿勢が感じられるなあ。

そんなふうに勝手につながりを見出して、納得したりして。

* * *

また別の日、ライフワークとして不定期にやっている人生インタビュー『ワーホリ、その後』の第一弾となったもとさんが、福岡へ来てひさびさに再会したときも。

わたしがもとさんの近況報告に突っ込んで「え、なんでなんで」「それはどういうこと?」と聞いていると、「ほらー、すげえ掘るからさあ!」と苦笑しながら言っていた。

いや、もちろんデリケートすぎる話題には気をつかえるくらいの年にはなった(失敗を繰り返したうえで)はずなので、掘り下げる対象は選ぶけれど。

単純に、「なんか楽しそうに語っているし、たぶんまだまだ話したいことあるかも」と思えるところについては、つい興味があって詳細を聞いてしまう。時と場合を選び、気をつけなければいけないクセでもある。

* * *

書きながら思ったけれど、相手によっては、だいぶめんどうくさい人間だろうなあ。

でも、気になるんです。

なんでそう考えたのだろうとか、どうしてそう考えるようになったのだろう、とか。いったいどんな経験をして、そういう行動や思考をとるようになったのかとか。気になる、気になる。

それは著名人にかぎらない。むしろ、著名人のストーリーは世の中にすでに知られているものが多いから、個人的にはそういう、小さな美容室の美容師さんとか、自分の友人とか、特別なスポットライトを浴びることのない、いわゆる身近なひとたちのストーリーのほうが気になるし、聞いてみたいと思ってしまう。

自分とはちがうからこそ、「はああ、なるほど!」となったり「へええ、そういう考え方もあるのか」と思ったり、ときには「理解はできるけど共感はできない」となったり、「わああ、自分には無理だけどおもしろい!」と感動したり。

ほんとうに皆、色とりどりで、ばらばらだ。

* * *

なんで人の人生ストーリーを聞くのがやたらと好きなのだろう。

改めてそう考えてみたら、わたしはそこに映画や小説のような、コンテンツ性を見出しているのかもしれないな、とふと思った。

テレビ番組や映画よりも、リアルなひとの身近なストーリーのほうに惹かれてしまう。話を聞いているときの自分の気持ちは、そういえばそんなストーリーの小説や映画を読んだり見たりしているときの自分にちょっと近い気がする。

過去の話を聞いていて、脳内でそのようすを画像や映像のようなシーンでビジュアル的に想像して、ああ、と浸ってしまったりすることもある。

色とりどりのストーリーを聞かせてもらいながら、たくさん、ああ、と思う。自分にはなかった視点、考え方をたくさんもらう。

そうして立ち返って自分をみて、さあわたしにとっての幸せはなんですかね、どういう状態であればわたしは嬉しいんですかねと、いつも問いかけているのかもしれない。

(おわり)

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