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源頼家に《世襲議員》を想う(エッセイ)

NHK「鎌倉殿の13人」では、頼朝の死後、家督と共に《鎌倉殿》の地位を引き継ぎ、その「実権」をふるいたい頼家とその側近、および頼朝以来の御家人(13人の評定衆)の対立が深刻になってきています。

ここには、いわゆる《世襲》に共通した問題が潜んでいるように思います。
先代の手法や古い価値観と決別し、成功すれば「改革」と呼ばれるであろう新たな施策を実行したい後継者 ── これに対して先代の支持者や時には先代自身が立ち塞がり、大きな路線変更を許さず、自分たちの権益を守ろうとする

ファミリービジネス企業の代替わりにはたいていそんな軋轢あつれきがあるようです。
一例として、老舗旅館「星野温泉」を父親から引き継ぎ、星野リゾートを創り上げた星野佳路さんへのインタビュー記事を引用します。

「父から私への事業継承は、決してスムーズではなく、衝突もありました。例えば人材活用。父は、旅館スタッフのモチベーションは自己責任という考え。私は雇用した人に長く勤めてもらえる環境を作るのは会社の責任という経営です。時代背景が異なるので、どちらが正しいとは単純に言い切れませんが、互いに譲れない部分があったのだと思います」

日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKDZO66376010U4A200C1NNSP00/

けれども、星野佳路さんは、
ファミリービジネスの強さの秘密は「30年に一度のビジネスモデル転換システムがビルトインされていること」
(「星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書」日経BP)
と言っておられます。
つまり、およそ30年ごとに経営トップが一気に若返ることで、ビジネスモデルが大胆に見直される、とのことです。

しかし、そうした事業継承者による「大胆な経営見直し」には、当然「若造のやり方についていけない」古参メンバーもあり、「御曹司を見限る」重鎮も出てくるのでしょう。

それでも、企業の場合は、
・生き残りをかけ、
・さらなる発展をかけ、
軋轢があろうとも《経営改革》せざるを得ない。

ただし、それが常に成功するとは限らず、経営が傾き、後継者と共に退場していった企業、あるいは後継者が退場し、先代が復活した企業、あるいは他所から来たプロに経営者が置き換わった企業も多いことでしょう。

さてここに、《事業承継》が実にスムーズに行く確率がきわめて高い《業界》があります。

国会議員、それも保守系与党の国会議員職です。

国会議員の世襲は与野党ともにありますが、自由民主党は特に多く、2021年の衆議院選挙では、当選者の3分の1が世襲議員でした。
(父母、義父母、祖父母のいずれかが国会議員、または三親等内の親族に国会議員がいて同一選挙区から出馬した候補を「世襲」と定義)
引用元:新人当選、大幅増の97人 自民、3分の1が世襲【21衆院選】:時事ドットコム (jiji.com)

世襲候補者は、新人でも既に知名度が高く、当選しやすいからに他なりません。

政権交代が起こった第45回衆議院議員総選挙では、自由民主党が歴史的大敗を喫したが、このとき自民党で当選した119人のうち世襲議員は50人と、非世襲議員よりも選挙に強いことを実証した。この結果、自民党衆議院議員に占める世襲議員の割合は、解散前の32%から42%、ほぼ4割となった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E8%A5%B2%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%AE%B6

さらに、世襲議員は若くして当選するので政権与党内での出世も早い
その結果として、日本の内閣総理大臣、たとえば村山富市氏から橋本龍太郎氏(1996年就任)が引き継いで以降の自民党の総理大臣は9名おられますが、このうち、世襲議員が実に8名、菅義偉氏を唯一の例外として、残り全員が世襲です。

こんな国は、少なくとも民主主義国家では他に例をみません

「世襲だって優秀な人ならいいじゃないか」
とも言う声も聞きます。
(たいてい世襲議員本人か、側近関係者からですが)

《本当にそうでしょうか?》

世襲議員は、先代(祖父母、親、親戚など)の地盤を引き継ぎ、先代の関係者(秘書、地元議員、後援企業など)の応援を全面的に受けて当選します
今問題になっている、宗教がらみの団体後援もその中に複数入ってるのでしょう。

── だから選挙に強いんですよね。

ですから、世襲議員は、事業継承を受けた経営者とは異なり、これら「先代から受け継いだ関係者」を裏切ることはできません
裏切れば、(衆議院の場合)いつあるかもわからない次の選挙での応援を期待できなくなり、一挙に職も収入も断たれてしまいます。

言い換えれば、彼ら「守旧勢力」の利権を守ることが、きわめて重要なミッションになってしまうのです。
先代から引き継いだ宗教がらみの後援も、縁を切ることなんて、もちろんできません。

日本という国が、特に最近、
「改革」に後ろ向きだとか、
「枯れ木に水や肥料をやる」ような補助金が多いとか、
そしてその結果、
「成長」が滞り
国として「衰退」に向かっているのではないか
とか言われるのは、

国の運営を担っている中枢部分が、《世襲》という、きわめて特殊な環境下でその職を得ていることと関係があるのではないか?

と私は考え始めています。

「世襲だって優秀な人はいる」
それはそうでしょう。
でも、そんな優秀な人でも、先代からの後援者は裏切れない
これは《世襲議員の宿命》のように思います。

《世襲議員》も人間です。《世襲議員》はどんな立派な人でも、必ず《世襲》を守ろうとします ── その多くは「敵に議席は渡せない」という、ある種の「チームワーク」、あるいは、ある種の「善意」で
でも、その結果、必然的に「守旧勢力の利権」も守ってしまうのです。

「《世襲議員》だから自動的に票を入れる」のをやめ、
「《世襲議員》には(どんな立派な人でも)票を入れない」行動で、

《ガラガラポン》に期待する!

そんな時期なのかなあ、とひとり、思っています。

自由民主党という政党に、ここいらで政治について真面目に考えてもらうためにも、
「《世襲議員》には(どんな立派な人でも)票を入れない」行動が必要なんじゃないかな、と思うのです。

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