見出し画像

なりたかった職業ランキング《同率第5位:薬草栽培農家》

凛さんの記事に触発され、コメント欄で応援いただいたこともあり、同じテーマ、同じ5位~1位ランキングで書き始めました。

始めると、ひとつひとつにかなり熱い思い入れと歴史があり、長くなってしまうため、

5位⇒5位(同率)⇒4位⇒3位⇒2位⇒1位
と1回1テーマずつ書いていくことにします。

まずは、

第5位(同率) 薬草栽培農家

ヤバい《ヤク》じゃないですよ。
時代は高校2年までさかのぼり、その頃の「自分周り」のミクロ環境と、「第1次オイルショック」というマクロ状況とが掛け合わされた結果、誕生した《なりたい職業》でした。

高2というと、《パシィ》と同じクラスでしたね。

私の通っていた高校は県立の進学校で、普通科は多くの生徒が大学に進学します。そんな中、高校2年の時の成績はかなりの低空飛行でした。かろうじて墜落は免れていましたが。

原因は(もちろん、その環境を受け入れた自分にあることは承知の上で)、クラスで仲が良かった女のコが、「授業」とか「勉強」というものにまったく関心を示さなかったからでした。

そのクラスでは月イチ頻度でくじ引きによる「席替え」がありましたが、彼女は必ず、私の新たな隣人(45人中35人を占めた♂にあたる確率が高かった)の所に来て、
「席、代わってよ」
と言うのです(「お願い」などという丁寧なものではなかった)。
隣人♂は私にチラと視線を走らせた後、
「いいよ」
と荷物をまとめるのでした。
このため、私の隣人は、たった1度の例外を除き、常に彼女でした。

「たった1度の例外」とは、別の女生徒が隣席になった《幸運》を引き当てた時でした。見た目も可愛く、勉強も普通に頑張るタイプの女のコでした。
それでも《いつもの彼女》は、いつも通りやってきました。
(ああ……またか)
そしてもちろん、私の新たな隣人♀に言いました。
「ねえ、席代わってくれない? アタシ、Pochi君の横がいいの」
女どうしで何かあるのか、わずかに丁寧な《頼み方》になっていました。
しかし、新たな隣人はこう言ったのです。
「イヤだ!」そして付け加えました。
「私、Pochi君の隣がいいもの!」
私の全身は一瞬、凍り付きましたが、
「ふーん」
腕組みをして、《いつもの彼女》は引き下がりました。

ただし、それはホントに「Pochi君の隣がいい💛」なんてものではなく、むしろ《意地》に近かったと思います。
それに、個性的な《いつもの彼女》は、クラスの「善良なる女生徒たち」からあまり好ましく思われていなかったことも影響していたでしょう。

それはともかく、重要なことは、この例外期間を除き:
私が授業を聴いていると、隣に座った《いつもの彼女》は手を伸ばし、私のノートに ── ノートが無い時は教科書に ── 落書きを始めるのです。

勉強、好きみたいね

数学の授業、面白い?

どこか遊びに行かない?

放っておくこともできず、

好きじゃないよ

面白くないけど

ああ、行こうか

などと書き足しているうちに、私のノートは授業と無関係の《つぶやき》でびっしり埋まり、おそらく教壇からは、恋人どうしが《愛のメッセージ》を交わしているように見えたことでしょう。

私は、彼女と一緒に、時には授業中に堂々と教室を出て、喫茶店に入り浸ったり、近くの公園を散歩しながら(私だけですが)煙草を吸ったりしていました。

そうこうするうちに、入学時には漠然と想定していた、《既定路線めいた進学》ルートは、心から離れていきました。

そんな時に起こったのが、「第1次オイルショック」でした。第4次中東戦争をきっかけに、原油の供給が逼迫し、価格が高騰したのです。
トイレットペーパーや洗剤に代表される消費者物資の買い占めが起こり、たいへんな騒動になりました。

私もこの騒ぎに便乗し、大嫌いな教師の試験に答案を白紙で提出し、裏に、

紙不足の中、このようなくだらない試験に貴重な紙を使うのはやめて、トイレで使いなさい。
でも、インクでお尻が黒くなっても知らないよ。

と書いて、教室を出て行ったこともあります。

この教師は後日私を職員室に呼び出し、
「このままでは君は0点となり、留年する危険が高まる。白紙提出を謝罪して再試験を受けなさい」
とおごそかに告げました。
私は明確に断りましたが、どのような仕掛けなのか、赤点ぎりぎりの「30点」がつき、追試すら免れました。
彼のお尻はインクで黒くなっていたのかもしれません。

まあしかし、こんなアホなことばかりやっていたわけではなく、17歳は17歳なりに、《石油枯渇の懸念》を深刻に受け止めていました ── 特に、自分の将来とリンクさせて。

《石油が無くなったらどんなことが起こるだろう?》
もちろん、
➀ エネルギー需給が逼迫して電力危機に陥ります。
さらには、
➁ 石油を原料とする、プラスチックや合成繊維が生産できなくなります。
このあたりまでは、既に、新聞紙上やニュース番組が「煽りに煽って」いました。

(こんなことじゃなくって! オレ独自に考えないと!)

私はその頃、友人とロックバンドをやっていましたが、仲間の《コピー曲》路線に対して、ひとり《オリジナル曲》を主張していました。

それと同様、

世間が目を付けない、《ニッチな領域》を探したい、と思っていました。

そして思いついた:

ほとんどの医薬品は石油から作られる。
石油が枯渇したら、人びとは病に倒れる。
そこで必要とされるのは《漢方薬》のはずだ!

私は進路指導の先生に告げました。

「ボクは大学には行きません。
高校を中退し、休耕中の農地を活用して、漢方薬の薬草栽培を始めたいと思います」

先生は言いました:
「それはいい考えだ! さすがだ!」
ただ、その後にこう付け加えました:
「しかしな、キミが投資できる農地の面積は限られる。おそらくはキミの成功を見た大資本は、もっと大きな農地を買い占めて大々的に薬草栽培を行うだろう。……なかなかたいへんだぞ、資本主義社会における競争は」
そして、
「それもよし。ただ、その競争に勝ち抜くため、トップクラスの大学農学部に入って勉強する、って手もあるよな」
と付け加え、まあ、よく考えろや、と付け加えました。

この先生は、私にとって数少ない「尊敬できる教師」でしたが、学年の途中で県の教育委員会に転出されました。

私が30代で単行本を出版した時、この人はちょうど、母校の校長を務めていました。
私は著書を持参して挨拶にうかがいましたが、その時聞いた話も、なかなかに興味深いものでした。


まったくの余談ですが:

《いつもの彼女》に席を代わって欲しい、と頼まれ、
「イヤだ!」
と拒否した同級生♀は、私が採用面接に行った会社の受付で、8年ぶりに偶然再会しました。
(お! これは会社生活が愉しみ!)
と期待に胸が膨らみましたが、半年後入社した時、彼女は既に《寿退社》した後でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?