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「アナログの良さとは」

東大寺は、今日も一生懸命舞台の稽古を行っていた。

自分に出番が5分しかないのに、何回も繰り返し。

喜三郎は、そんな東大寺の姿に憧れて入ってきた一人。

まだ二人とも、見習いレベルだった。

昼間は舞台の稽古で、夜は居酒屋でアルバイトの日々。

創作劇の一コマ、時代は昭和初期の物語。

東大寺の役柄は、テレビが普及し始めた頃の米農家の倅。

父親は働き者だが頑固親父で、しょっちゅう叱られていた。

役作りを必死で考えて、昭和時代を生きてきた祖父や祖母の、

話を聞いたりして時代背景を頭に思い描いていた。

自分の親は、頑固親父ではなかったのだが、

叱られることは多々あったので何となく理解が出来る生活環境。

東大寺が演じるシーンは、

卓袱台を叩かれて、正座して説教を聞くシーン。

なぜそんな風になったのかは、東大寺が家業を手伝わないで、

遊び呆けていたからだった。

その部分が、今の東大寺には理解し難い部分だった。

自由があるようでない、振る舞えない時代背景。

忙しい時は、家族ぐるみで助け合いながら生きていく。

そんな環境が、どうしても理解出来なかった。

東大寺は、たった1シーンのために、10kgの減量もした。

頭は丸刈りにはしなかったが、伸ばしていた長髪を切った。

本番の舞台は、半年後。

まだ先の話だが、準備に余念がなかった。

喜三郎は、東大寺の弟役だった。

兄が父親に叱られている間、黙って見ているだけの役柄。

東大寺の役作りを側で見ていて、まじまじと刺激を受けていた。



徹底した役作りのお陰で、

昭和の時代を生き抜いた、頑固親父の息子役を演じ切った東大寺。

時代背景や役柄を学んだお陰で、すっかり昭和の時代に魅了されて

しまっていた。

人間臭さと昭和の時代のアナログな感覚が、堪らなく好きになり、

お付き合いをする女性も、そんな雰囲気を醸し出している方を、

理想として掲げるようになっていた。


一方、喜三郎は役を演じきった後は、すっかり令和の時代に戻って、

S N Sやゲームの世界に、どっぷりはまっていた。


まさかそんな二人が、

漫才コンビを組むようになるとは、誰も想像すらしなかった。


今日も、

大阪吉本の舞台に立つ二人、拍手の嵐が巻き起こっていた。


本番終了後、

東大寺と喜三郎は、更なる夢に向かって漫才の稽古に励んでいた。


漫才のテーマは、古き良き時代を生き抜いた頑固親父。

オチは卓袱台返しで、細切りの沢庵が鼻に突き刺さる。



※この物語は、フィクションです。


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