吃水

人間科学部B4

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最近の記事

「『デモ』について考える会」のためのステートメント

 以下の文章は、大阪大学豊中キャンパスで2024年5月31日に開催された「『デモ』について考える会」にて私が発表したステートメントです(対面での参加が叶わなかったため、文面で意見を述べる形式になりました)。内容は氏名を伏せ、誤字脱字等を修正したほかには異同ありません。    はじめまして。人間科学部四年の○○○○と申します。専門は哲学で、主に美学と倫理学に関心があります。今回は授業の都合でこの会に参加できないため、このようなかたちで皆さまの議論に加われたらと考えております。

    • 5/7

       少し前に、学部の友人に複数人での飲食に誘われた際、「そういうのに行くとなんだかんだ傷ついて帰ることになることになるから」と言って断ろうとしたことがある。実際のところそれが本当の理由だったわけではなく、単純に諸々の予定が混み入っていたからに過ぎなかったのだが、しかしその冗談は──冗談めかした言い訳が往々にしてそうであるように──それを口にした私自身にとっては何かしら真実を含んでいたように思える。結局その飲み会には参加したのだが、そこでもやはりなんだかんだ傷ついて帰ることになっ

      • 12/29

         大阪中之島美術館「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」を見てきた。できれば個々の作品を取り上げながら文章を書ければよかったのだが、金がないために目録も買えず、記憶を頼りに筆を走らせるほかにないためにそのことは叶わない。そうであるからして以下の文章は、作品を見ながら私が考えたことの単なるメモでしかない。  展覧会のテーマは「光」だった。ところで「光」とは単なる客体物ではなく、むしろあらゆる視覚的認識を可能にするものだ。そうである以上、それが何らかの主題となり

        • 11/28

          美容院の予約を済ませ、週末に髪を切って染めることになった。三年の後期という大学デビューには一番向いていない時期にわざわざ髪を染めることになるのだが、別に特段の事情がある訳ではない。むしろ、一切の理由なしに何か行動を取れるようになることが今は必要だと思う。 髪を染めたことがないとか恋人がいたことがないとか何でもよいけど、そういった何かしらの欠如を自分の中に抱え込んでいると、いつしか自分自身のあらゆる問題をその空白に投げ込んでいくようになってしまう。そして最後には、それが埋まった

        「『デモ』について考える会」のためのステートメント

          11/23

          正午を回ったくらいに目を覚まし、M-1の準決勝進出者発表を見たりなどしているといつの間にか夕方になっていて、傾きつつある陽に焦燥感を煽られるようにして家を飛び出した。行先もないまま自転車で国道沿いを進んでいると服部緑地という大きな公園に辿り着いた。祝日の園内は多くの行楽客でにぎわっており、芝生にはテントを張ってキャンプに興じる家族連れの姿などがあった。夕暮れ時の薄明の中で幸せそうな表情を浮かべた人々に紛れていると自我の膜が溶けていくようでわけもなく幸せに感じたことを覚えている

          11/21

          11/21  徹夜明けで労働に行ったので心身ともに消耗し、目を覚ますと五限がすでに始まる時間だった。多言語学習用科目と称しつつ再履修の一回生がほとんどを占めるドイツ語の授業に出ることは苦痛であり、どうしてここまで苦しいのかと考えてみるとおそらくこの授業に出ることがそのまま過去の自分を否定することになるからだった。私は今の学部に入ってから哲学を学び始め、三回生になってから教職の授業を取り始め、スペイン語を修了してからドイツ語を始めており、つまり大学生活がそのまま一つの迂回である

          8/24~8/26

          日記を書く頻度が下がり、自分が8/31に急いで夏休みの宿題を終わらせるような子供であったのを思い出す。というより、この嫌になるくらい凡庸な比喩でさえ現実よりは幾分かましで、覚えている限りでも小4と小6の夏休みの宿題は完璧に終えずに提出してしまっている。 そのことと関係あるかは分からないが、成人した昔の同級生たちとともに小学校の授業を受ける夢をよく見る。なんでも最後の授業が十年後に行われるとかで、わざわざ全国各地から卒業生が小学校に集められるのだ。教室に入り、窮屈そうに学習椅子

          8/22

          集中講義が始まる50分前に目が覚めた。豊中から吹田まで行くのに少なく見積もって一時間掛かることを考えるとなかなか絶望的だったが、しかし何も考えず身支度をして学校に向かうとなぜか定刻通りに到着できた。考え事をしながら登校している普段の歩みがいかに遅々としたものだったかを、入学から三年目にして思い知らされた気がした。 夏休みに入ってから不眠気味で、それが諸々の狂いに繋がっている。といってもこれは半ば自分の性分のようなもので、どうも私には太陽が無事に昇ったことを確かめてからでないと

          8/17~8/20

          ここ数日はあまりに何も起きなかったので、自然と日記を書くことから遠ざかっていた。今思い返してもずっと寝ていた方がましだったような気がするし、本当にずっと寝ていたのかもしれないとも思う。 8/17にはハイデガーの研究会があった。これだけ長くやっていると取り立てて書くこともなくなってきているが、周囲の人々がインターンに行ったり将来の進路を決めはじめたりしている中で、一冊の本をびっくりするような遅さで読むというのは自分の性に合っている時間の使い方だと思う。 8/18は大学図書館

          8/16

          バイト先で何度目か分からない説教をされ、気が滅入ってしまった。そもそも自分はこういったことができない人間なのだ、という諦念が最初からあって、それが徐々に立証されていくのを奇妙な安堵感とともに見守っているような感覚がある──こう書いてもおそらく同様の経験を繰り返してきた人間にしかわからないだろう。ここ数年の私の生活は、たくさんの「できなそうなこと」がやっぱりできないことを確認していく作業の繰り返しに充てられている気がするが、とはいえそれは多かれ少なかれ誰しも同じなのかもしれない

          8/12

          夏休みが始まったので髪を切りに行った。ただでさえ人の顔を認識するのが苦手で、おまけに出不精で余り散髪に行かないため、半年くらいお世話になっている美容師の顔を未だに覚えていない。だから髪を切るたびに、向こうが自分のことを記憶していて、それどころか数か月前にした会話の続きを何気なく再開してきたりするのには驚かされている。無論、実際には彼らもこちらのことをよく覚えておらず、記憶を手繰り寄せるようにして話しているのだとは思う。 寮の中庭には喫煙所があり、深夜には大抵誰もいないので蚊

          8/10-11

          8/10の午前にはバイトがあり、午後からは吹田キャンパスへ行って研究会に参加してきた。学部のプロジェクトとしてハイデガー『存在と時間』の研究会を始めてからおよそ半年が経ったが、進捗としてはまだ全体の四分の一程度しか読み進められていない。このペースでいくと卒業まで続けても読み終わるかかなり怪しいところだが、まあこれはこれで良いのではないかと思うようになってきた。 帰宅してからは日記を書く暇もなく倒れこむように寝てしまい、再び目を覚ますと朝の四時になっていた。どうしてこれほどに

          8/9

          最後の期末レポートを書き終わった。厳密にいえばまだ夏休みではないが、やらなければならないことは概ね終わったと言ってよい。かといって開放感のようなものは別段ない。毎年この時期になって、自分は長期休暇がそこまで好きでなかったことを思い出すのである。正直に言って、夏に集中的に休みを入れるくらいだったら、その分の60日で一週間の休日をもう一日増やしてくれた方がありがたい。 私は夏休みになると人と会わなくなる。もちろん帰省やサークルやバイトやゼミ行事などで人と接する機会はそれなりにあ

          8/8

           様々な事情があって大阪の自宅と名古屋の祖母の家を往復する生活が続いていたが、ようやく一段落した。別に深刻なことはなく、むしろ本を貰ったり鰻を食べさせてもらったりと良いように過ごしていたのだったが、ただ誰もが否応なく年を取っていくものなのだとは感じさせられた。  一度大阪に戻ったときに鍵を忘れてしまい、家に入れなくなった。数少ない友人に片っ端から嘆願していけば誰かしらは泊めてくれるかもしれないと考えたが、何となく気が進まなかったので漫画喫茶で夜を過ごした。他人に一方的に迷惑

          2022 振り返り

           一年が過ぎるのは早いものだ、とか書く奴が嫌いだったのを思い出す。大人になんて一瞬でなっちゃうよとか言ってくる親戚とか、若いねおれなんかおじさんだよとか新入生に対して言って先輩風を吹かしてくる上級生も嫌いだった。彼らは往々にして、私たちの生活の大部分を占める退屈で記憶に残らない時間のことを無視しているのだ。本当のところ、時間が早く過ぎていくなんてことはない。思い出す必要もないような雑多な印象の数々が脳裏に積もっては掃き捨てられていき、そして最後に残った一握りの記憶から再構成さ

          2022 振り返り

          退職など

           昨日、バイトを辞めた。もうあの人たちと会うこともないのか、と思うと感傷的な気分になりかけたが、よく考えると美化できるような記憶は一つもない。違う部署のおばさんから常にうっすら無視されていたこと、カウンターで働いてたらパートの人に「あなたは客前に立っていい表情じゃない」と言われてバックヤードに連行されたこと、水道の流れる音に紛れて「助けて」と独りごとを言っていたら周囲に丸聞こえだったこと。今思い返してみても胃が痛くなる思い出ばかりだ。  だが、私は愚痴をこぼすためにこれを書

          退職など