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人の考えはそう簡単に変わらない

さて問題です。

月はどうして満ち欠けするのだと思いますか?

はい! 月がいくつもあるからですっ。

私たちは子どものころから無意識のうちに身の回りのものごとに関してある考えを持つようになります。そう、たとえそれが月の満ち欠けする理由は、いろいろな月が毎回登場するという荒唐無稽な発想であっても。

例えば、葉っぱの色はなぜ緑色なのか?

という問いに対して、光合成をするために緑色の光を吸収するからと答える子どももいる(とおもう)。

さらに子供は(文化的な差についての議論は傍において)石には命がないとか、金魚はう⚪︎ちをしないとか、いろんな概念を知らず知らず身につけていくようです。

前にも紹介したように、このようなナィーヴな考えは素朴理論と呼ばれています。

でも、子どもだけではなく、大学生でも持っている。

有名なものではボールを上に投げたらどのように落ちてくるのか実験し、大学の先生がその結果に絶望したという論文もあるぐらいです。

今回の記事では、この素朴理論は正しい科学的な知識に触れるにつれ、修正されていくのかということについて考えてみたいと思います。

概念とは?

ここで先に進む前に概念という言葉について考えてみましょう。

概念とは、特定の事象やアイデアを理解し、表現するための精神的な構造またはフレームワークです。概念は一般的に、我々が世界を認識し、理解し、それについて考えるための基本的なツールです。

例えば、「愛」や「正義」、「自由」などはすべて概念です。しかし、人間の経験や学びにより、これらの概念は時と共に変化する可能性があります。

変化する可能性がある、そのことをさらに深掘りしてみましょう。

https://www.conceptualthink.com/single-post/2016/02/24/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%97%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E6%80%9D%E8%80%83%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B%EF%BC%9F

概念は変化するのだろうか

今回のテーマの中心はここで、私たちの持っている概念は大人になるにつれて変化するのでしょうか?

例えば月の満ち欠けを習っている小学生と天文学者はどのような点で思考がことなるのでしょうか。

日本では実は世界的なブームに先駆けて1960年代ぐらいからこのような研究が行われてきたようです。心理学者が科学的概念を不十分に理解することから生じる誤った規則(「ル・バー」と呼ばれる)に注目し始めました。

つまり、彼らが考えたのは、学習者たちが持つ素朴概念(誤った概念や先入観)を正確な科学的根拠に基づく概念に正すことこそ学習というものでした。

有名なところでは、仮説実験授業というものがあります。1963 年に板倉聖宣により提唱され,以来,彼を中心とした「仮説実験授業研究会」の活動によって研究と実践が進められてきた。

ちょっと古いけどこの本は、いい本ですよ。

diSessa (2006) によれば,世界的にはミスコンセプション研究は 1970 年代の半ばから後半に始まったそう。日本の方がちょっと早い!
(⇩教員志望・教育に関わる人ならmust readです

特に重要なのはPosner et al. (1982) は概念システムの変化が生じるための条件の一つとして、学習者が持っている概念に対して「不満 (dissatisfaction)」に思うようになること、と分析している点です。つまり、簡単に言うと、目の前で起きている現象が自分の思考フレームでは説明できないと気づくことが大切と言っているわけです。

さらにPosner らは,概念変化のための 4つの条件を紹介しています。

1.既有の概念に対する不満が存在する
2.新しい概念は理解可能 (intelligible) である
3.新しい概念は妥当 (plausible)である
4.新しい概念は生産的 (fruitful) である

ここら辺の認知的葛藤、フェスティンガー大先生の得意分野なので、興味がある人はこちら。


さてさて、そんなわけで、素朴概念を意識させて、科学的知識をぶつけるという手法が一生懸命に開発されてきたわけです。いきなり科学的概念ボーンというものから、じわじわ学習者に気づかせるものまで、つまるところ

絶対科学的知識の方がイケてるぜ!

マウントを取りまくるわけですな。(これがうまくいかない理由もある)

「葛藤教授アプローチ」(conflict teaching approach」(Stavy & Tirosh,2000)
「葛藤教授モデル (conflict models of instruction)」(diSessa, 2006)
「不 協 和 ストラテジ ー (dissonance strategies)」(Clement, 2008)

とか、日本では

「ル・バー懐柔型ストラテジー」細谷 (1983)
「じわじわ型ストラテジー」(細谷,1975b,1976)
とか。

これらに共通しているのは、

正しい知識を与えれば、概念は上書きされる

というナィーブな考えだったりします。

授業を作る上でおすすめの本Carey(1985)

博士号を持っていても素朴概念は無くならない

例えば物理の博士号を持っていたら、その人は小さい時から培った素朴概念をゴリゴリ理論科学概念で上書きしていると思っちゃいますよね。

ところが、最近、fMRIという脳画像を使った研究によると、なんと、
博士号を持っていても素朴概念は残っている(可能性がある)というものでした。

物理学の博士号を持つ25人に対する調査では、若干物理から守備範囲外の科学的知識についての質問をしたろころ、素朴な考えを判断する際に必要な前頭葉領域のネットワークがより活性化するという結果になりました。

この研究が示唆することは、私たちの概念は変化するのではなく、頭の中に古いものとして残っていて、新しい概念と共存するということです。

そして、目の前の現象を判断するときに、どちらがより合理的なのか判断するわけですが、そのときに不要な概念を抑制する力が求められます。

初学者と熟達者の違いというのは、知識量だけではなく、直感的に判断を下す思考を制御し、合理的な説明が可能な思考を選ぶことができるかどうかというものになりますね。

たまたま、今日は国公立の入試問題ですが、例えば数学が苦手な人とエキスパートの違いは、問題を見た瞬間に「これだー」と判断してしまう衝動を抑えることができるかどうかなんですね。(注:知識量が重要ではないと言っているわけではありません)

まとめ

人が長い間自然に身につけた古い思考フレームは、あとえ新しいものがより合理的であったとしても簡単になくならないようです。

ただ、「おかしいな」と思い、葛藤して、より合理的な説明が可能な概念を選ぶようになる(できる)、それを学習と呼ぶんですね。

学習でも仕事でも、合理的で完全な説明をして

君は間違っている!

を論破〜するってのは学びにはつながらないってことですね。

それより、学習者の持っている素朴概念や前提条件を炙り出して、
合理的な説明だけでなく、驚きや感動という「理性+感情」という両方の側面から納得するからこそ、より科学的で正確な概念を選択できるようになるみたいです!

ここら辺、さらにビジネスサイドで掘っていくと、ハイエツの適応課題とかとも関連してきますね。

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