マガジンのカバー画像

PLANETS CLUB ESSAY

15
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

【初めての方へ】PLANETS CLUBとは?

PLANETS CLUBは、参加者の「書く」スキルとリテラシーを育むワークショップをはじめとする学びのコミュニティーです。 〈3つの参加特典〉 その1. PLANETS編集長・宇野常寛から〈発信する〉ことについてのノウハウを学べる!! 評論家・PLANETS編集長の宇野常寛がこれまで身につけてきた〈発信する〉ことについてのノウハウを共有する限定講座「PLANETS School」を受講できます。 7月は「書く材料」を広げる方法を学びます。「書く材料」を広げるために必要

「歌バカ」の禅譲と慰留 −平井堅「怪物さん feat.あいみょん | 小陳泰平

 「死生観や恋愛感を赤裸々につづるセンセーショナルな楽曲」  「感情を包み隠さず率直に表現する歌」  Apple Musicであいみょんの説明書きを見る度に、やはりあの曲は「世代交代」の試みだったのだと感じる。  2020年3月に配信限定でリリースされた楽曲「怪物さん feat.あいみょん」。近年若い世代を中心に人気の高いあいみょんと、往年のバラード歌手である平井堅とのコラボは大きな話題を呼んだ。2人が出演するMVに加え、いつか(イラストレーター)が歌の世界観を表現したイラス

日常生活を飛び越えるサンダル | 佐次安一

ワラーチというサンダルがある。 ワラーチは、メキシコ北西部の先住民族タラウマラ族が日常生活で使用している手製のサンダルだ。タラウマラ族は、自らを「走る民族」=ララムリと呼ぶほどに長時間の走力に長けており、その一族の強者と、超長距離を走るウルトラランナーのチャンピオンがメキシコの荒涼とした山域で競り合うレースを描いた、クリストファー・マクドゥーガルのベストセラー「BORN TO RUN」をきっかけに広く知られるようになった。そして、「BORN TO RUN」のサブテーマである

潜って、作って、慈しむ。 ーオンラインジグソーパズルのすすめー

「人生で一度もジグソーパズルをやったことがない」という人は、おそらくほとんどいないだろう。多くの人が、隣り合うピース同士がはまったときの「パスッ」という快感を経験したことがあるはずだ。ジグソーパズルの魅力とは一体何か。一般的に、ジグソーパズルの魅力といえば「出来上がったときに達成感がある」「集中力や記憶力がアップする」といったものが挙げられる。いずれもジグソーパズルの代表的な魅力と言えるだろう。しかし、私がここで提案したいのは、こういった側面を一切無視した、言わば「ジグソーパ

motoni±0のちから:『まんが訳 酒呑童子絵巻』レビュー |ミズキヒロ

『まんが訳 酒呑童子絵巻』大塚英志監修/山本忠宏編  この作品は、古典や歴史資料集に載っているあの絵巻物たちを、まんがのコマ割りを使ってだれにでも読めるように翻訳した作品である。  大半の人にとって絵巻物は、博物館の展示などで目にしても簡単に理解できるものではない。顔はだいたいが「おてもやん」で、よく似た顔の登場人物を誰が誰なのか判別するのがまず難しい。何の場面か理解しようとしても、余白に書かれた文章はミミズのような筆の草書体で、解読不能だ。百歩譲って、その文章が現代語に訳

私の坂道論 | 吉村裕美

 昭和の終わりから平成初期にかけて、NHK教育テレビで放送された「たんけんぼくのまち」(1984年4月―1992年3月)のことを今もよく憶えている。同じくNHK教育テレビ「いないいないばあっ!」のワンワン役でおなじみのチョーさんが出演されていた小学3年生向け社会科番組である。「♪知らないことが おいでおいでしてる 出かけよう 口笛吹いてさ」というオープニングを思い出すと、仕事をしながら楽しそうに町を走り回るチョーさんの笑顔が浮かんでくる。小学生だった私にも自分の町に気に入って

遠回りのオタク

 2017年11月8日、東京ドーム。暗闇に包まれる中、開演を告げる「Overture」が流れると、一斉にサイリウムが七色に光り始め、5万人のオタク達の野太い声が地鳴りのように会場一面に響き渡る。「Overture」が鳴り止むと、1曲目のイントロが流れ、火薬の爆音と共に制服を身に纏ったメンバーが登場すると、サイリウムを振り続ける5万人と共に僕のボルテージは最高潮に達した。「制服のマネキン」は乃木坂46の楽曲で僕が1番好きな作品だ。乃木坂46は生みの親である秋元康が「リセエンヌ」

名前 | 五十嵐ファヨン

私は自分の名前を初見で正しく呼ばれたことがない。 在日二世の両親は、自分たちが通名を使用してきたことで何か背徳感でもあったのか、子供たちを本名で日本社会へ送り出した。いわゆる通名を使わせてはくれなかった。 韓国名は日本常用漢字でも表記可能だが、読み方はハングルのそれで、そのまま漢字を音読み、訓読みしたところで、どうやったって私の名前にたどり着けるわけがなかった。 ごく普通の公立小学校に入学した私は、自分が何か違うと気づくのにそう大して時間はかからなかった。 父は小学校入学

原子を「見た」思い出から:科学実験の体験的な側面 | 山本康介

信じたいことの延長線上に、科学がないとき 今年のゴールデンウイークは、引きこもって(iPadの使用時間を見てぞっとするほど)ゲームや動画を楽しむ時間になった。Netflixのおすすめで、「ビハインド・ザ・カーブ―地球平面説―」を見たのがこの後の文章を書いてみるきっかけになった。これは1時間半ほどのドキュメンタリー映画で、地球が平面であるという説を提唱するコミュニティに密着したものだ。なぜその人たちは地球平面説を信じるようになったのかをインタビューで追いつつ、それに対する物理学

マイちゃんと僕 | 松田さん

マイちゃんは僕にとって、かなり特別なラッコだった。 きりりとした美しさと、ラッコ特有のやさしさを併せ持つその独特の雰囲気に惚れ込んでしまったのだ。 初めてマイちゃんに会ったのは2001年の夏。今は無き「よみうりランドラッコ館」でのことだ。強い日差しから逃れるようにラッコ館に入ると、そこは涼しげな青い世界が広がっていた。壁一面のアクリルガラスの向こう側には海水が満たされ、4頭のラッコたちは水槽の上をぷかぷかと浮かんでいた。 マイ、メイ、ソラ、リク。そう名付けられたラッコの中で、

運転⇔走る 拡張される身体

この4月から始めたことが二つある。新入社員向けの安全運転教育と、趣味としてのランニングだ。一見すると全く関連のないこの二つの事柄が、僕の中で何とも不思議に結びつきつつある。 レース専用車両を設計、開発、制作するのが僕の職場の主たる事業だ。モータースポーツに関わる技術者として、一般の人よりも運転をはじめとしたクルマとの関わり方については一段高いレベルであることが望ましい。僕は過去にとある自動車メーカに出向していて、「性能の80%以上を安全に引き出しクルマを正しく評価できる運転

散歩のススメ(緊急事態宣言下における) | サジ・ヤスカズ

 外出自粛期間真っ只中の5月3日、午前6時40分。GW中の朝早くとはいえ、普段よりも明らかに車の少ない県道74号を「水源地入り口」の信号で横切ると、一段高いところにもう1本、県道74号の旧道が通っている。その旧道を少し進み、切り通しの擁壁 に付けられた導入路へ。すると、送電線の鉄塔に向かう踏み跡が現れた。 道なき道に入る時は、いつも期待と迷いを抱えながら一歩目を踏み出す。伸び始めた夏草を踏み倒し、鉄塔の脇まで進んだところで、踏み跡は畑の脇の小道に変わっていった。左手には市内の

頭上の花は自分じゃ見えない

今から12年前のことである。 高校最後の春休み、私は地味でパッとしない自分の見た目をガラッと変えてみることにした。人生で一度でいいから、「リア充」というものになってみたかったのだ。真っ黒だったショートヘアを明るく染め、エクステとかいう長い付け毛を装着し、顔面には不慣れなメイクを施した。そんな「リア充のコスプレ」は思いのほか効果があり、大学入学と同時に始めたアルバイト先で1つ年上の男性からメールアドレスを聞かれ、トントン拍子でお付き合いすることになった。彼、Dくんは本物のリア充

イエスマンになったらカツアゲされた | 加藤豪

 大学を卒業して2年が経った。大学入学を機に本州でも青森県に次いで最果ての秋田県、その中でも最果ての小さな町、その中でもさらに最果ての7割自分と同じ姓の表札がかかっている集落から上京した。最後に実家に帰ったのは大学を卒業する直前、ちょうど1年と数カ月前だろう。その時に高校の卒業アルバムを東京へ持ち帰った。決してあの頃を懐かしみ思い出に浸りノスタルジーな気分になりたいわけではない。もし僕があの頃の話に花を咲かせたい高校大好きっ子ちゃんであればとっくに地元で就職し、休みの日は車を