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「知は、現場にある」を世界の建築を通して学んでいる

ある光文社新書の書籍を購入したときに、挟まれていたしおりに書かれていた言葉が「知は、現場にある」だった。

ビジネスでも、研究開発でも、美術でも、本質的な課題を打ち破る解決策は、常に現場にある。その現場にスポットライトを当てることで、新しい知恵や知識のありさまを探ることができる。正しい知識を与えたり、合理的な考え方を教えたりするのではなく、本物の『知』を提供していく教養新書を目指したい。

この言葉を、最近になって、ずっと自分は世界の旅から学んでいたんだなぁーって思うようになった。「建築」というひとつのテーマをもって。そして、その繋がりは、やっぱり後からしかわからない。

国立西洋美術館がル・コルビュジエ氏の建築群のひとつとして世界遺産に登録されたのが2016年。全く関係ないところで、日本の世界遺産についてプレゼンしていたときに、東京にもル・コルビュジエ建築作品の世界遺産があったのか、と驚いた。(そういえば、小笠原諸島も東京都で世界遺産だったのを後から思い出す)

建築家の家庭に生まれながら、日本の色彩が無い建築や高層ビルには全く興味を持てず、世界の、とりわけ西洋の神殿、大聖堂、美術館、博物館、図書館、教会に憧れ、私の興味は、今考えてみると、始まりはローマやパリ、アテネの神殿や教会、そしてスペインの建築家アントニオ・ガウディ、プラハやブダペスト、アントワープ市庁舎、アイルランドのトリニティ・カレッジ、ボルドーのサンテミリオン、自由な形式のロッテルダム建築、その後、色彩豊かな南米とアフリカの砂漠に広がるオアシス、数年前から東南アジアの遺跡群、そして木造建築や竹建築へと繋がっている気がした。世界最古の木造建築が日本にあるという価値が、最近になってようやく凄いことだと感じている。

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ロッテルダムのマーケットホール オランダの建築家集団MVRDV

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ダブリンのトリニティ・カレッジ図書館 「知識の寺院」

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マラケシュのアイト・ベン・ハッドゥ

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もしかしたら、世界も、そのように動いているのかもしれない。あるいは、隈研吾氏が言っていたように、「現在という小さなゼンマイが、いろいろな場所で別々にくるくるとまわっている」のかもしれない。

西洋建築(パルテノン神殿、ギリシャ・ローマ時代の建築様式)から始まり、ロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロック、ネオルネサンス、ネオバロック・・・そして、ル・コルビジエを始めとした20世紀以降のモダニズム建築。

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今考えると、壮大で荘厳な建築を目の当たりにすると、とても偉大な何かを感じることはあっても、それはあくまでも旅の中のひとつの景色としてそこにあって、「行って良かった!」となっても、そこに住みたいかはまた別の話だったんだと思う。

東京国立美術館の隈研吾展

ある晴れた日、東京国立美術館の隈研吾展を訪ねた。隈研吾氏の建築そのものも、モダニズム建築から、最近では竹や木へと、柔らかいものへと向かっている気がしたから。

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1階に併設されている展示会場の「復興と建築をめぐるインタビュー」映像で隈研吾氏が言っていた。

「自分が働いたり、住むところを考えた際に、自分が好きなものを食べられるお店がたくさんあるところが良くて、建築をやりながら、そういったところを無くさないようにしたい。」

「建築はフラストレーションがあって。大企業と仕事をすることによる制約も。そういったときに、個人的なもの、自分が本当にやりたいものがエネルギーを与えてくれる。」

結果、社会にとって良いことになれば良い。って、すごくふいに落ちたというか、私自身の「地域開発」の原動力の源になっていることを話されていて、「世界の巨匠」が身近になった。

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展示会のほとんどの場所は写真撮影禁止だったので、ここで印象に残った日本と世界の建築と言葉を残したいと思う。

日本の建築
・V&D Dundee ヴィクトリアアルバートミュージアム
・梼原町(ゆすはらちょう)雲の上ホテルと温泉施設
アジアの木造建築の基本的技術である斗供(ときょう)のシステム
「梼原町の主役産業は林業で、この町をきっかけに、木という素材に興味を持ち、地元の職人とのコラボレーションの面白さを知った。」
・さかい河岸レストラン茶蔵
日本茶輸出のパイオニア 
茶をテーマとするレストラン
建築、インテリア、アート
・東京大学大学院
ダイワユビキタス学術研究館
・TOYAMAキラリ 市立図書館
・ホテルロイヤルクラシック大阪
耐震性に問題があった新歌舞伎座をホテルとミュージアムとして再建 
・COEDA House 静岡県の熱海
木造建築の浮遊感と透明感
ガラス張りの透明なカフェ
熱海の太平洋を見下ろす丘の上
・根津美術館
・高輪ゲートウェイ駅
・明治神宮ミュージアム
・日本平夢テラス 静岡県、カフェと展望施設
・京王高尾山口駅
・La Kagu 神楽坂 複合施設
・角川武蔵野ミュージアム『本棚劇場』
本棚図書館 アニメホテル、神社、デジタル出版工場
・サニーヒルズ南青山
・福岡太宰府のスターバックス

世界の建築
・ジャパン・ハウス ロンドン、ロサンゼルス、サンパウロ
日本の和紙職人とブラジルの若い職人のコラボ
・ポートランド日本庭園
海外における最上の日本庭園にランキングされている
・オドゥンパザル近代美術館(Odunpazari Modern Art Museum)
トルコで初めての現代アートミュージアム
・サンドニプレイエル駅
フランスの2024年のパリオリンピックの会場ともなる多目的スタジアム、スタッド・ドゥ・フランスの地に、地下鉄4本とフランス国鉄が交わる、パリ北部の拠点駅をデザイン
・Under One Roof ローザンヌ、スイス
ミュージアム、デジタルリサーチギャラリー、カフェの複合施設

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中でも興味深かったのが、トルコのエスキシェヒルという都市に建設された美術館。旧市街のような街並みの中に、突如として現れる木造建築。木を使ったのには意味があって、この土地ではかつて木材が売り買いされていた歴史を持つ。「Odunpazari」という地名は、トルコ語で「ウッドマーケット」という意味らしい。

建築というものにも「時代性」を感じて、展示の中で面白い2つのキーワードは「やわらかい」と「時間」だった。

やわらかい

かつて、建築の柔らかさについてはほとんど議論されることがなかった。建築はそもそも石やレンガで作る固いものとされてきたからで、形態やプロポーションが問題にされていた。やわらかさこそが、生物としての人間にとって、より決定的であり致命的であった。
やわらかさには階層があり、それに従って日本人はまず一番固いものを施工し、次々により柔らかいものを施工していった。最初に石、次に木、そして土(左官)、そして紙。そうやって、身体の近くに柔らかいものを配置した。この方法を公共空間に応用すれば、人間もネコもより自由により幸せになれる。

でもやっぱり、木造建築が似合うのは、田舎だよなぁーと思う。田園風景と木造建築。都会で木造建築を見て、美しいと思っても、そこでの人間の暮らしは想像しがたい。肩ひじ張ってしまう。

時間

アートでも建築でも、運動をどう表現するかが最大のテーマとなった。ル・コルビュジエ氏の初期作品は、スロープ、吹き抜けなどの運動空間を強調した。20世紀後半以降の時間論で興味深いのは、作家、ジャーナリストであったジェイン・ジェイコブスのボロ建築賛美である。小さくする(粒子化)、やわらかくする、斜めにする、エイジングさせる。モノを弱くすることで、公共空間が楽しくなり、公共空間が人間のものになる。

モノをボロくするためという時間概念は、モダニズムの未来志向とも、建築保存の過去志向とも遠く、そこでは現在という小さなゼンマイが、いろいろな場所で別々にくるくるとまわっている。そのゼンマイ構造は量子学の「ループ量子重力理論」の時間軸とよく似ている。そこでは、物質と時間が融け合い、しかも時間は一様に流れず、それぞれの場所に、それぞれのスピードで、勝手にまわり、それぞれの場所をボロくする。「ねじまき島のクロニクル」のように。

建築というひとつのテーマをもって、世界の歴史をみると面白い。そして、建築を通して出会った素敵な本がたくさんあって、それらの本の著者がオススメする本もまた、面白い。ほとんど全てが、私が生まれる前に書かれた本だけれど、あることに気づいた。「物事の本質をついている」作品は、時代を経てもなお、新しい。長い長い歴史の中のほんの僅かな数十年の人生で失ってはいけないものを気づかせてくれるし、探求心を育ててくれる。

日本の建築は、正直ほとんど興味が無かった。と言った。生まれたときから、周りを見上げれば鉄筋コンクリート。人間を威圧するかのように高層ビルが立ち並ぶ。初めてヨーロッパを訪れたときに、自由を感じた。もしかしたら私は、建築からも自由を感じ取っていたのかもしれない。でも、今、日本と海外と分けて考えなくても良いのかもしれない、とも思い始めた。世界は、それぞれの場所で、それぞれのスピードでまわっているものなのだ。日本は伝統的に木造建築が栄えたが、明治と大正時代にはレンガ造りの西洋建築、そして、20世紀以降は工業化、鉄・ガラス・コンクリートという時代を経た。何よりも、日本は耐震構造が工夫されている。そこでまた、出てきた、木も耐震構造、耐風構造など技術的な課題をクリアすると、もっと建築に活かせるのでは、という考え。

同時に、ある一人の建築家が世界中の都市の設計に関わることによって起こる「同質化」は、まだ違和感が残る。良し悪しではなく、今後の動向が気になるのだ。

やわらかい世界は、人間もネコもより自由により幸せになれる。そう信じているし、これは、「専門家」ではない普通の人が、むしろ全く建築に興味がなかった人が、旅をきっかけに、世界の景色と人々の暮らしに興味を持ち、東南アジアの竹建築に興味を持ち、また世界の建築に興味を持った、という話もあって良いんじゃないかと思った記録note。

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