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【薄い本】バレンタインイベント



ふたりでぺろりとスパゲッティを平らげる。
冷蔵庫に残っていた辛子明太子を使った、たらこクリームスパゲッティ。こいつ、ひょっとしてあたしより料理のスキル高いんじゃないか。ちょっぴり悔しさを覚えながら食器をキッチンへ運んだ。

料理を作ってもらった分、洗い物はあたしの仕事。ササっと済ませ、冷蔵庫からチョコレートを取り出す。彼はというと、こたつに入って携帯のゲームをしている。彼の目の前に、どんっとチョコレートを置く。

『はい。バレンタイン。』

『お、サンキュー。』

『ん。』

バレンタインという、今日のあたしの業務はこれで終了だ。
こたつに滑り込み、彼の隣で自分も携帯ゲームを始める。今は推しのキャラクターのバレンタインイベント中だ。レアアイテムゲットの為、時間の限りイベントを周回しなくてはならない。彼があたしの携帯の画面を覗き込む。

『イベント?』

『そう。今レイ君のイベント中なの。今のうちに周回しないと。』

『なー、一緒にチョコ食べようぜ。』

『いい。あたし甘いものあんまり得意じゃないし。今忙しい。』

あたしがそういうと、彼はふーんと気の抜けた声を出し、ひとりでチョコレートを食べ始めた。時々隣から、うまっ、と聞こえてくる。元々甘党な彼はチョコレートが大好きだ。



『おーい』

『ん?』

次の瞬間、視界が彼の顔でいっぱいになった。口移しで何かをあたしの口に押し込む。
チョコレートだ。噛むと、ふんわりとお酒の風味が口に広がり、鼻から心地よく抜けていく。

『…美味しい』

『一個だけ甘くないのが入ってたから。逆チョコ。』

彼は得意げにへらへらと笑う。

『ありがと…って、結局あたしが買ったやつじゃん。』

『まーまー、固いこと言うなって。』

そういって、彼はもう一度キスをした。頭の後ろに手を回してくる。さっきまで彼が食べていたチョコレートの甘い味が、あたしの口にも流れ出す。

甘いのは好きじゃないって言ってるじゃん。

でも、たまには甘いのもいいかも。

レイ君が画面に映る携帯電話を傍に置き、彼の首に腕を巻き付け、あたしの方からもキスを求める。


今年のバレンタインイベントはまだ続きそう。




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