【おはなし】 コーヒーカップと楽しいウソ。
あたしは気まぐれな女の子。
特技はメイク。歳は内緒。
ウソをつくのもひとを騙すのも罪悪感を覚えない。騙される方がアホなだけ。あたしの知ったこっちゃない。
電話番号は080から始まる11桁。
スリーサイズはあなたが決めて。
男性って数字が大好きなんでしょ?
ご想像にお任せするわ。
あたしは普通の女の子。
どこにでもいる、平凡な女の子。
女子大を卒業してOLになって6年目(仮)
主な仕事は、上司にお茶を入れるのと、会議資料のコピー取り。近頃の若い子が誰もやりたがらないことがあたしのやりがい。ソーシャルなんとかっていうのにハマって自撮りが趣味の子たちとは話が合わないの。別に合わす必要もないんだけど、情報としては仕入れときたいってわけ。
会社は今にも潰れそうなくらいに古い建物。階段の隅っこには年季の入った黒ずみがべったりと染み付いているし、おやじのいびきみたいな音を立てるエアコンが今も現役で活躍している。
ランチはいつもブランコの上。子供向けの商品を開発販売している会社だから遊び道具には困らない。砂場に滑り台、ジャングルジムにコーヒーカップまである。
社長はいつもホットコーヒーを飲んでいる。暑くても寒くてもいつも同じ。コーヒーカップに揺られながらホットコーヒーを飲むのが社長の唯一の趣味。
どこにでもある平凡な会社よね。
社長はダジャレが好き。
ボーナスの査定時期になると社員はこぞって胡麻をする。
「この羊羹はあの洋館で買って来たよう」とか「レモンの入れもんはどこだもん?」とか。うまいのか下手なのか分からないダジャレを社長の前で披露する。
さっきも言ったように社長の趣味はコーヒーカップだから、胡麻すり社員たちはカップの中でダジャレを言う。ぐるぐるまわりながらダジャレを言い合う大人はこの会社の名物だから、雑誌の編集者たちは取材のアポを取りたがるんだけど、ぜ〜んぶあたしが潰しているの。
コロンブスの新大陸発見じゃないけど、未知の領域って大切にしたいのよ。なんでもかんでも広めればいいってものじゃないのよ。この国は独自の価値観で誰もがしあわせに暮らしているのよ。なんとかっていう提督みたいに開国を強要する権利は誰にもないのよ。
というわけで、あたしの裏のお仕事は、この会社をメディアから守ること。
でもね、せっかくこの記事を見つけたあなたに、少しだけ聞かせてあげてもいいわよ。これも何かの縁ですものね。なにが聞きたいかしら? そうね、新制度会議で起きたできごとを教えてあげようかしら。
だけどね、ここから先は有料よ。
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It's an American joke
心配しなくて大丈夫よ。お金は未来払いで受け取ることになっているから。請求書は未来のあなた宛に送付しておくわね。今から100年後よ。それまでは長生きしてちょうだいね。
うちの会社は第3水曜日が会議日なの。
前回の会議では新制度改革を議論したの。簡単にいうと「おもしろ特別休暇」について意見を出し合ったの。
朝起きて仕事に行きたくないときってあるじゃない? そんなときに出社しても効率のいいパフォーマンスはできないわよね。頭の中では心配事が渦潮のようにぐるぐるしているのに、取引先に行って商談なんてできっこないじゃない。
会社に電話して「風邪をひきました」とか「子供が熱を出したので休みます」とか言うのもアレじゃない。素直な男の子ってウソをつくのが下手なのよね。電話に出るあたしの気持ちをもっと考えて欲しいのよ。
「あ〜、こいつのウソつまんね〜」って心の中で思いながら「お大事になさってくださいね」って言うのは苦痛なのよ。
それだったら「庭から恐竜の卵が発見されました! 昨日の夜に食べたスイカのタネが発芽して生まれたのかもしれません。今から環境保全不思議団体の不思議会長がお見えになるそうなので、本日は出社できそうになりません」って言われる方が100万倍マシだわ。
ってことをあたしが提案したら社長が気に入っちゃって。「どうせ休むんだから面白い言い訳をすれば特別休暇にしてやる!」ってことになったってわけ。
休暇のおもしろい名前、あなたも一緒に考えてくれるかしら?
今の第1候補は「ずる休み休暇」。第2候補は「ズル休み休暇」。第3候補は「Zuru休み休暇」。どれも一緒なのよ。みんな頭が硬いのよ。
いいえ違うわね、ぐるぐる回って柔らかくなりすぎたのよ。夏のボーナス査定があるからコーヒーカップに乗りまっくった弊害が出ているのよね。
ということでお願いね。
特別休暇のおもしろい名前を思い付いたら、コメント欄にメッセージを残してね。
おしまい