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短編小説 | 金字塔の木乃伊

 今となっては、現世のことなのか、過去世のことなのか判然としないが、ここにたどり着いたことは必然だったのかもしれない。

 私はピラミッドに魅せられて考古学者になった。学者への道には紆余曲折があった。考古学をやっても食ってはいけない、もっと実利的な学問をしよう、という周囲の意見に流されて、最初に入った大学では、プラズマ工学を学んだ。しかし、やはりピラミッドへの憧憬を捨てることができず、大学を入り直して考古学者になった。

 振り返ってみれば、工学を学び、科学技術に理解を持ったことは、決して遠回りではなかったようだ。
 ミューオンを用いた透視技術により、ピラミッド内部の通路を発見しただけでなく、クフ王の木乃伊まで発見するという、文字通り「金字塔」を打ち立てることができた。しかし、これはまだ誰にも言っていないことだが、クフ王の木乃伊と相対して以来、奇妙な感覚に苛まれているのだ。

 本来ならば慎重に慎重を重ねて、通路を通っていくべきであったが、私はどうしても私一人だけでクフ王に会いたかった。翌日に私の研究グループの仲間と一緒に潜入する予定だったが、いてもたってもいられず、私はその夜、単独でクフ王の埋葬場所へ向かった。
 発見した通路をまっすぐに進んでいくと、急に人一人が這って通れるくらいの小通路が足元に現れた。
 
 入った先に部屋がなければ、そのまま後退するしかない。あったとしても無事に引き返せるかどうか分からない。私は逡巡した。その時である。
 小通路の先から、古代エジプト語で、私を呼ぶ声を聞いたような気がした。

「ソコニイル者ヨ、我ガ姿ヲ、トクト見ラレヨ」

 迷いは消えた。気がついたら、頭より先に体が動いていた。私は小通路を這い、クフ王の元へ急いだ。

「早ク来イ!」

 私は聞こえた声の方へ近づいた。

 見よ。眼前にクフ王の木乃伊が現れた。私はその美しい木乃伊をずっと眺めつづけた。

 次の瞬間、不思議なことが起こった。クフ王の木乃伊の顔が、少しずつ私の顔に変化していくではないか!
 気が付いたときは、すでに遅かった。私とクフ王との体は、そっくり入れ替わってしまっていた。

 今頃、興奮気味のレポーターと話しているであろう「私」は、私ではなく、クフ王その人である。

おしまい


 先日のニュースを見ていたとき、ふと中島敦の「木乃伊」(ミイラ)を思い出しました。ちょっと前には、日本でも「人魚」の木乃伊が話題になりましたね。
 というわけで、短編小説を書いてみました。もちろんフィクションです。



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