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🇷🇺ドストエフスキー「死の家の記録」(獄中体験)刑執行官ジェレビャトニコフ

ドストエフスキー、「死の家の記録」。高校生だった頃、現代社会を教えていた先生から教えて頂いた一冊である。

その後、ドストエフスキー全集を一通りすべて読んでみたが、最も数多く繰り返し読んだのは、やはり最初に読んだ「死の家の記録」である。

「死の家の記録」は物語という設定になっているが、ドストエフスキー自身の体験をもとにした「ノンフィクション」と言ってよいだろう。

獄中という非日常を描いた作品だが、それがかえって人間の本性を炙り出すことになる。

印象的な言葉や場面をいくつか引用したい。
(*引用は「新潮文庫」工藤精一郎[訳]を用いる)

「もっとも凶悪な犯人でもふるえあがり、それを聞いただけでもぞっとするような、おそろしい刑罰に加えて、二度と立ち上がれぬようにおしつぶしてやろうと思ったら、労働を徹底的に無益で無意味なものにしさえすれば、それでよい」

人間を破壊する「徹底的に無益で無意味なもの」の例として「水を1つの桶から他の桶へ移し、またそれをもとの桶に戻す」ことを挙げている。

人間には本能的に、自分の労働が誰かの役に立つことを願う気持ちがあるのだろう。「組織」あるいは「社会」というものの中で、「大海の一滴」あるいは取り替え可能な「歯車⚙️の1つ」に過ぎない、と考えてしまうと、人間生きてはいけないのだろう。私たちにも当てはまる何かがある。

もう1ヶ所、印象的な場面。
現代のいわゆる「パワハラ」を思い出させる箇所である。要約する。

ジェレビャトニコフは「笞打ちの刑」を行う刑執行官である。
最初は、哀れな男に対し、刑を免除してあげることを約束する。
その哀れな男が丁寧に礼を言って、帰ろうと歩きだしたとたん、笞打ちの刑を執行する。
約束が違うではないか、と抗議する哀れな男に対し、目一杯笞を振り下ろす。
許すと言った後のほうが刑執行が、ジェレビャトニコフにとって、よりいっそう楽しいからだった。
涙ぐむくらい感動させておいて、その後で哀れな男をいためつける。

「刑執行官」と「服役囚」。
現代の「上司」と「部下」の関係でもありそうな話である。

ご存じのとおり、ドストエフスキーは時の皇帝から死刑を命じられて、死刑執行の直前に恩赦された経験をもっている。
「死の家の記録」の四年間は、ドストエフスキーの四年間である。

現在、ドストエフスキーの「五大小説」と言われる「罪と罰」「白痴」「悪霊」「未成年」「カラマーゾフの兄弟」は、すべて、服役後に書かれたものである。

長編小説を読むのもいいが、もっとも多く🍺生のドストエフスキーが「死の家の記録」には記されているように私には思える。

ドストエフスキーを読むなら、お薦めの一冊である。


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