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言語学 | 「性」は人間の思考に影響を与えるだろうか?



性の悩み

 性に関する問題は、なかなか興味深い。果たして人は性の問題から逃れることはできるのだろうか?

 日本でも、性に対する意識は変わりつづけている。

 「看護婦」から「看護師」へ。「保母」から「保育士」へ。「スチュワーデス」から「フライト・アテンダント」へ。実際には、今でも女性の割合が高い職業だが、女性をイメージさせる言葉から、中性的な言葉へ変化してきている。
「議長」は、「チェアマン」から「チェアパーソン」へ。「レイディーズ&ジェントルメン」から「パセンジャーズ」や「エヴリワン」など、英語でも同じ流れ。

 「everyone」(みんな)は、私が高校生の頃は、代名詞「he」で受けることが一般的だった。それが、「he or she」となり、現在は「they」で受けることを許容するようになってきた。
 「everyone」は「単数扱い」だが、「they」は「複数扱い」である。 

 everyoneをtheyで受けるのは、気持ち悪いが、文法的な整合性を犠牲にしても「性」の平等を貫こうとするのが現状である。「指小辞」のついた女性を表す単語も排除の方向へ向かっている。


男性・女性・中性

 英語には、性を分ける名詞はあるにはあるが、基本的には、単数名詞は「it」で受けて、複数名詞は「they」で受ける。英語においては、「文法的な性」は既に大半は失われている。しかし、インド=ヨーロッパ語族の中で、文法的な性のない英語は、かなり特殊な言語である。

 ドイツ語やフランス語など、ヨーロッパの言語の多くには、「男性名詞」「女性名詞」(あるいは「中性名詞」)という区別がある。「文法的な性」を持つ言語のほうが主流と言ってよいだろう。


姉妹都市

 日本語、中国語、そして英語には、基本的に「文法的な性」はない。
 私は「性」という文法カテゴリーを持たない日本語を話している。だから、文法的な性という概念は頭では理解できても、実感はない。

 たとえばドイツ語で、父親がder Vater(男性名詞)、母親がdie Mutter(女性名詞)。ここらへんは「生物的な性」と「文法的な性」が一致しているから、日本人の私でも理解しやすい。しかし、「都市」を意味する「die Stadt」は「女性名詞」。

⚠️ちなみに「姉妹都市」という言葉は、ドイツ語をはじめとするヨーロッパの言語では「都市」を意味する単語が「女性名詞」であることに由来する。「都市」は男性ではないので「兄弟都市」とは言わない。

 ドイツ語では、父、母、兄弟、姉妹のように、文法的な性と生物的な性が一致するものもあるが、基本的にすべての名詞には「性」がある。

 Ewigkeit( エーヴィヒカイト、永遠)は女性名詞。Freiheit( フライハイト 、自由)も女性名詞。「-keit」「-heit」で終わる単語はすべて女性名詞となる。このようなものは規則を覚えれば、はじめて見る単語でも「性」がハッキリしている。

 しかし、Wein( ヴァイン、🍷ワイン)は「男性名詞」で、Bier( ビーア、🍺ビール)は「中性名詞」。綴りから判断はできない。生物的な「性」とは関係ないように思われる。


「文法的な性」は「生物的な性」を想起させないのだろうか?

 ドイツ語を学ぶとき、
「-heit」「-keit」の文法的な性は「綴り」から自動的に決まるものだから、生物的な性とは関係ない。だから、覚えるしかない。何で「自由」が女なの?と考えても意味はない。

 ・・・と言いつつ、「自由」は「女性名詞」だから、深層心理ではドイツ人は「Freiheit」という単語を聞くと、やはり女性を想起するのではないか?

 Katze(カッツェ、🐈️猫)は、女性名詞だが、一般的に猫と言いたいときには、オスについても使える単語である(*Katerという「雄猫」という単語もあるけれども)。
 文脈から「Katze」が猫一般をさしていても、やはり女性名詞だから、メスを想起しやすいのではないか?

  ドイツ語をはじめて学び始めた頃から疑問だったのだが、実証研究によると、「文法的な性」は思考に影響しているようである。

 「男性名詞」「女性名詞」という区別は厄介だが、深層心理ではあらゆる名詞に「性」がある言語では、無生物でも「詩」が作れそう、なんて思ったりする。




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